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Oh my devil !  作者: 紫ヶ丘


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ブラックドラゴン


 悪魔と出会って約十ヶ月。

 五日後、僕は八歳になる。


 僕の初めての誕生日パーティーという事で、ここ一ヶ月、屋敷中が慌ただしい。

 しかも、予定が合わないと襲爵披露パーティーに不参加だった王家と上位貴族からも参加の返事が来たため、急遽屋敷内で一番格上の大広間を準備する事になった。


 フォンセと協議した結果、ぶっつけ本番は流石に危ういと意見が一致し、本日予行練習をする事になったのだけど、進展具合の確認のため、本番さながらにおめかしして会場に足を踏み入れた僕は、衝撃の光景を目にしてあんぐりと口を開けてしまった。


 隣に立つフォンセがさっと顎を支えてくれたので、何とか外れずに済んだけど、心臓がバクバクと煩い。



 「──ど、ドラゴン?」



 ここ数日、不安になるくらい悪魔が上機嫌で、絶対何か企んでいると思っていたけど、まさかドラゴンを連れてくるとは……。



 「左様。そなた会いたがっていただろう?誕生祝いに丁度いいと、叩き起こして連れてきたのだ」



 どうだ、喜べと言わんばかりの悪魔を他所に、絶滅して久しい、今や伝説となった存在であるはずのドラゴン、否、ブラックドラゴンさんは、分かりやすく困惑していた。


 それはそうだろう。


 足元に【ダーク・ブランク侯爵、八歳の誕生日おめでとう】という看板を立てかけられ、右肩に悪魔、両手には八段重ねの誕生日ケーキを持たされ、天井すれすれなのに、頭にブランク侯爵家の紋章入りの派手な帽子を被せられているのだ。


 可哀想過ぎて見ていられない。



 「……悪魔、元いた場所に帰して来てあげて」



 僕の言葉に垂れ下がっていたドラゴンさんの耳がピコンッ!と立ち上がった。

 分かってくれるのか、そう言いたげな潤んだ目が僕を見つめる。

 もちろんだと深く頷き、悪魔に向き直る。



 「何故だ?そなたはドラゴンの背に乗って飛びたいのだろう?そなたでも乗りやすいよう若くて小型なものを選んできたのだぞ?」



 ドラゴンは、絶滅して久しいはずなのに、まるで何頭もいるかのような悪魔の口ぶりが空恐ろしい。

 うちの領内から誘拐してきたわけじゃないよね? 

 聞きたいけど、聞くのが怖い。



 「……あのね、悪魔の気持ちは嬉しいよ。でもね、今日は予行練習だけど、僕にとって生まれて初めての誕生日パーティーだから、無理やりとか渋々でお祝いされたくないんだ。だって本番はそういう人達の方が多いでしょ?僕も招待客への対応や、作り笑いや、言葉の裏にある意味を読み取る練習をしてきたけど、当日は誕生日を楽しむ余裕がないと思う。だから実質今日が僕の誕生日なんだ。ドラゴンさんは悪魔に誘拐されてきたも同然で、悪魔の命令で帽子を被ったり、ケーキを持ってるんでしょ?つまりドラゴンさん自ら僕をお祝いしたいと思っての行動じゃない。──ドラゴンさん、悪魔が迷惑をかけてごめんなさい。お詫びに……ええと、あ、このブローチを差し上げます。鱗と同じ黒色だしキラキラしてて綺麗だから気に入ってくれると嬉しいです」



 首元から礼服を仕立てた商会で購入したブローチを外して差し出すと、ドラゴンさんは不貞腐れた様子の悪魔をチラ見しつつ、八段重ねの巨大ケーキを近くのテーブルの上に置き、鋭い爪のある大きな手で受け取ってくれた。


 ケーキに隠れて見えなかったけど、首からも【ダーク・ブランク侯爵、八歳の誕生日おめでとう】と書いた垂れ幕を下げさせられていたんだね。


 悪魔が一番僕の誕生日を祝ってくれてるのが分かるだけに、ドラゴンさんには申し訳ないけど、嬉しい気持ちもあって、こういう時どんな顔をしたらいいのか分からない。


 フォンセを見ると珍しく頭を抱えていた。

 そうだよね。

 万物の頂点に君臨するドラゴンが目の前にいるんだもんね。

 道化師みたいな飾り付けされてるけど、一夜で国を滅ぼせる圧倒的な存在であることを忘れちゃいけない。



 「ぎゃう」



 思ったよりも高音の鳴き声だったドラゴンさんが、ひらりと隣に下り立った悪魔と僕に向かってぺこりぺこりと頭を下げた。



 「会えて嬉しかったです。お気をつけてお帰りください」



 悪魔の分もまとめて深く頭を下げると、隣の悪魔がパチンッと指を鳴らす。

 その瞬間、若干の息苦しさ?が消えた。



 「悪魔、ドラゴンさんを無事に送り届けてくれたんだよね?」


 「当然だ」


 「──主、流石にやり過ぎでございます。ドラゴンの気に当てられて、皆が使い物になりません」


 「え?……ええ!?皆、どうしたの!?」



 フォンセの言葉に振り返ると、今まで手際よく準備に取り掛かっていた神官達が、真っ青な顔で頭や口元を押さえて床にへたり込んでいた。



 「ダーク坊ちゃま、ドラゴンはその場にいるだけで周囲に影響を与えるのでございます。先程まで主が抑えてくださって何とか耐えておりましたが、鳴き声に当てられてあのような惨状に」


 「僕何ともないよ?ドラゴンさんが帰った時、少し息苦しかったかもって思ったくらいで」


 「悪影響などあるはずがない。そなたは余が守っているのだからな」


 「じゃあさっきフォンセは悪魔がドラゴンさんを連れてきたことに頭を抱えていたんじゃなくて、圧力みたいなのに当てられてたってこと?」


 「そうだ。修行が足りぬな」


 「返す言葉もございません」


 「……あのね、偉そうに言ってるけど、元はと言えば悪魔の責任だよ?……フォンセ、皆を休ませてあげて。こんな状態じゃパーティーは開けないからさ」


 「待て。何故開けないのだ?パーティーは夕方からだろう?」


 「悪魔、僕の思う誕生日パーティーは、体調不良を押してまで参加するものじゃないんだ。皆が笑顔で楽しく賑やかにお祝いしてくれる、そんな時間を過ごしたかったんだよ。だから今日はもう作業はおしまい。ゆっくりお休みして本番に備えて。フォンセ、ケーキは僕の分は夕食に出して、残りは皆で分けて欲しい」


 「ふん、軟弱な奴らめ。迷惑千万極まりない」


 「そんな事言うなら悪魔はケーキ食べちゃ駄目」


 「……ふん。そなたが彼奴らの為に我慢する必要などない。さっさと起きよ!」



 ふわっと悪魔から微風が吹いたと思ったら、呻き声を上げていた神官達がシャキッと立ち上がった。



 「え?」


 「ダーク坊ちゃま、ご心配をお掛けして申し訳ございませんでした!」


 「申し訳ございませんでした!」


 「我々はこの通り全快いたしました!」


 「元気いっぱいでございます!」


 「どうかダーク坊ちゃまの誕生日をお祝いさせてくださいませ!」


 「お願いいたします!」



 先ほどとは一転、気力漲る神官達が、一糸乱れぬ動きで頭を下げた。



 「……悪魔、何か危ない魔法を使ったとかじゃないよね?」


 「治癒魔法の一種だ。副作用もない」


 「……本当に?号泣している神官もいるけど」


 「ダーク坊ちゃま、お気になさらず。あれは感涙しているだけでございます」


 「感涙?悪魔の治癒魔法を体感出来て感激したってこと?……そうか、神官は日頃治療する側だもんね。自分がしてもらえて嬉しかったのかな」


 「皆さん、時間が押しています。ダーク坊ちゃまの誕生日パーティーを完璧なものにする為、速やかに準備に取り掛かりなさい」


 「かしこまりました!」



 フォンセの号令で動き出した神官達。

 返事が揃いすぎてて一つに聞こえるんだよね。

 闇の神殿の神官達がすごいのか、他の神殿でもこんな感じなのか。



 「ねぇフォンセ、まだ時間があるからブローチを見に行ってもいい?以前の店でもう一つ良さそうなのがあったんだ。売り切れてなければ買いたいんだけど」



 少し派手かなと思って止めたけど、実際に付けてみると意外とシンプルに見えたので、パーティーにはあちらの方が良さそうなんだ。

 値段もお手頃だったから、多分黒水晶かオニキスを使っているんだと思う。

 

 我が家は黒ずくめの悪魔を筆頭に、皆が何かしらの黒を身に着けているせいか、ついつい僕も黒を選んでしまう。

 両親が派手好きだった反動かもしれないな。



 「もちろんでございます。馬車の準備を!」


 「かしこまりました」


 「僕おめかしし過ぎかな?着替えた方がいい?でもこれ本番用の服と同じ仕立てなんだよね?着心地の確認の為に、このまま出かけてみたい気もするけど、フォンセはどう思う?」


 「ダーク坊ちゃまの仰る通り、実際に着用する事で気になる点が判明することもございますので、そのままで参りましょう。ご安心ください。私めは裁縫の腕もそれなりと自負しております。出先での手直しはお任せを」


 「うん。じゃあ悪魔、僕達は出かけてくるから、皆に迷惑をかけちゃ駄目だよ?」


 「ふん、余に願えば鉱山中の原石が手に入るというのに」


 「止めてね?」


 「ではドラゴンのステーキはどうだ?栄養も豊富で味も──」


 「絶対だめ!ドラゴンの角とか皮とかそういう素材もいらない!どれだけ価値のあるものだとしても、僕にとっては必要ない!もし持ってきたら悪魔のこと嫌いになるから!」


 「…………ふん」


 「ダーク坊ちゃま。どうか主を叱らないでくださいませ。ドラゴンの肉は病人でも完食すると言われるほど美味しく滋養強壮に良いとの言い伝えがございますし、宝物殿の二つ名が付くほど全てが有用で、最上ランクのポーション類の材料にもなっております。主はダーク坊ちゃまに元気になって欲しい、その一心で提案されただけなのです」



 跪き、懇願するようなフォンセに、流石に言い過ぎたかもと反省する。

 せっかくの誕生日パーティーなのに悪魔と喧嘩してたら雰囲気が悪くなるもんね。



 「……うん、僕もちょっと言い過ぎた。ごめんなさい。でも悪魔、本当にドラゴンを狩るのは止めてね?約束だからね?」


 「危害を加えてこなければ手は出さぬ」


 「うん。……悪魔、僕にブラックドラゴンさんを見せてくれてありがとう。最高のプレゼントだよ。でもこれ以上は驚き過ぎて疲れちゃうから、サプライズは程々にしてね?」


 「……善処する」



 この顔はまだ何か企んでるな?

 まぁこれだけ言ったからきっと大丈夫だよね?

 

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