炎上!詰所襲撃戦
第7話 炎上!詰所襲撃戦
夜の江戸。
町役人の詰所は、突然の轟音で揺さぶられた。壁が破れ、瓦礫と共に鉄塊のような蒸気兵が雪崩れ込む。
「うわあッ!」
役人たちが悲鳴を上げ、火薬の煙が充満する。
「……来やがったな。歯車の犬ども!」
縫次郎はすぐさま立ち上がり、刀を抜く。火花が散り、鋼鉄の腕と刃が激突する。
炎の渦。
血飛沫が飛び、役人のひとりが倒れる。呻き声にお結の顔が青ざめた。
「た、助けなきゃ……っ!」
震える指で止血を試みる彼女。だが背後から迫る影に気づく暇もない。
「──下がれッ!」
縫次郎の刃が火線を描き、迫る敵の喉を断ち割った。
鉄屑が崩れ落ち、火の粉と血が飛ぶ。お結の頬に赤が散った。
「ひっ……」
だが縫次郎は振り返り、低く呟く。
「怯えるな。お前が泣いたら、この子も救えねぇ」
その時、捕らえられていた黒鴉の少年が苦しみだした。
胸元の歯車紋が激しく回転し、血混じりの涙をぼろぼろと零し始める。
「やめろ……! 俺は……俺は、ただ命じられただけだ……!」
声はかすれ、喉から血が滲んだ。
「待て! 自分を壊すなッ!」
縫次郎は飛び込み、その小さな身体を抱きしめた。
少年の胸から鉄釘のような部品が突き出し、縫次郎の腕を裂く。鮮血が滴る。
それでも縫次郎は離さなかった。
血を流しながら、涙を滲ませ、叫ぶ。
「お前は人間だッ! ただの駒じゃねぇ!
死んで詫びようなんて……そんなことは俺が許さねぇッ!」
お結は縫次郎の背中を必死に支え、震える声で少年を呼ぶ。
「お願い……生きて。あなたが泣いてるなら、まだ戻れるはずだから……!」
一方、お蘭は炎に照らされ、冷ややかに吐き捨てた。
「甘いわね。情に縋れば、自分まで壊れるわよ……縫次郎」
──涙と血と、真逆の声が交錯する。
その瞬間、少年の瞳に残った人間の光が震え、唇が震えた。
「……歯車翁……」
その名を漏らすと同時に、身体を覆う歯車紋が黒い蒸気を噴き出した。
爆ぜるような衝撃が縫次郎を襲い、全身に血と煤が散る。
それでも彼は必死に少年を抱き締めた。
「離すもんか……! てめぇが泣くなら、俺が一緒に泣いてやる……!」
少年の意識は闇に沈み、最後に零れたのは──血に濡れた涙だった。
燃え盛る詰所の外、夜風に混じって不気味な声が響く。
「……歯車は廻る。江戸の命脈は、我が掌に──」
黒幕の影は確実に迫っていた。
血と涙に染まった夜。
縫次郎は震える腕で少年を抱きしめたまま、絶望に抗うように歯を食いしばった。
──そして物語は、次回へ続く。