22-2. 作戦終了
転移魔法陣で森に戻ると、すでに日が昇っていた。かすかにちらつく雪が木漏れ日を反射し、幻想的な光景を作り出している。ひと仕事終えた感慨と合わさり、知らずため息が漏れていた。
転移後それほど経たないうちにフィデルに発見され、無事に養成機関の面々と合流することができた。彼らは森で夜を明かし、それから全員ではぐれた子どもたちを捜索し始めたらしい。
竜は私の班以外も襲ったようで、行方不明の子どもは私と二九九号も含めて八人に及んだ。私は単なる行方不明者の一人として溶け込み、なんの疑いをもたれることもなかった。そして他の行方不明者たちも、私と二九九号が発見されてからほどなく無事が確認された。
しかし予想外だったのは、二九九号を守り抜いたということで思わぬ高評価を受けてしまったことだ。平凡な成績で目立たないようにしていたのにもかかわらず、こんなことで目立ってしまうとは思いもよらなかった。
二九九号もずっと寝ていて記憶がないはずなのに、私に助けられたと吹聴しているのだから始末が悪い。二九七号を遠ざけるための手段なのだろうが、私としては二九七号から余計な敵愾心を向けられていい迷惑である。
また余談ではあるが、今回の作戦における最大の功労者たる竜は、フィデルによって討伐されたとのことだった。この程度の竜を迅速に討伐できないのは問題であるとして、行方不明者を出した班を引率していた魔族は厳しく叱責されたと聞く。特にイアスは絞られたようだが、私の担当になったことが運の尽きだと思ってほしい。
養成機関に戻ってすぐ、治療室に送られたのは幸いだった。聖結晶を隠し続けるのは困難であるため、早い段階でアンティエルに預けたいと思っていたからだ。
袋を手渡すと、早速アンティエルが中を覗く。
「ひゃあ!」
「おい、変な声を出すな。他のやつらに見られているだろうが」
竜の騒動ではぐれた八人全員が治療室送りになっており、ここには私以外に七人の子どもたちがいる。アンティエルのせいで、彼らから余計な注目を浴びてしまった。アンティエルの巨体が陰になって袋は見られていないと思うが、それでも用心するに越したことはない。
「すみません。預かっておきます」
小さく耳打ちし、アンティエルは早業で袋を隠した。
これで一安心、とは言えないのが辛いところだ。聖結晶の採掘は疑似聖剣作成の第一段階に過ぎず、やることは山積している。例えば次にすべきなのは、ミスリル製の剣を調達することだ。これも一朝一夕にはいかない。
前途が思いやられ、思わず天井を仰ぐ。いつも通り、黒ずみの目立つ汚い天井だった。
まだまだ幼い身体には今回の作戦は過酷だったようで、私は診察台の上で眠ってしまったらしい。アンティエルに起こされたときには、全身が汗でびしょびしょだった。
周囲にはすでに他の子どもたちの姿はなく、アンティエルは例の慇懃な態度で話しだす。
「随分、うなされていたようです」
「疲れのせいだろう」
「そうかもしれませんね」
疲れのせいだと自分で言っておきながら、私はそうではないことを知っていた。しかしそうではないことを知っているというだけで、実際にうなされていた原因を知っているわけではなかった。
ただ漠然と、今も胸をざわつかせる何かを感じている。それが実際の原因なのだろう。それはもしかすると、眠っていたときに見た夢かもしれない。どんな夢だったかは思い出せないが、私がうなされるような悪夢だったとするならば、その構成要素となりそうな過去には心当たりがあった。
それを思い出すと、魂が百年以上の時を過ごした今となっても、胸に迫るものがある。だがそのおかげで、私は進み続けることができる。




