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救世主計画  作者: 数多 或
救世主編①
20/48

20. 聖峰探索

 岩山の横穴のような場所へ移動し、ガレスの仲間と合流した。十代後半と思しき男女が一人ずつ。男は黒っぽい髪を短く刈り込んでいて体格がよく、女の方は桃色の髪を腰まで伸ばしていて華奢な印象を受けた。対照的な見た目をしている。


 「え、この子が例の? 可愛すぎない?」

 

 最初に声を上げたのは女だった。自分の姿はイアスを通して何度か目にしているが、確かに整った顔立ちをしていると言える。この年齢だと、可愛いという印象を持たれるのもおかしくない。

 

 「俺は目つきが気に入らねえな」

 

 丸刈りの男が言った。私が転生者であることを知っているせいで、変な先入観を持っているのかもしれない。あるいは、なんでも否定したい年頃なのか。

 ひとまず名乗っておく。

 

 「二九八号だ」

 「私はクリステ。よろしくね」

 

 差し出された手を取ると、少女らしからぬごつごつとした感触がした。剣を使う者の手だ。

 クリステは手を放さずに話を続ける。


 「背負ってる女の子は彼女?」

 「作戦上、必要だから連れてきただけだ」

 「ふうん」

 

 その後もクリステはぺちゃくちゃと喋り続けた。その間中、男の方はずっと私を睨みつけていた。まさかとは思うが、六歳児に嫉妬でもしているのだろうか。養成機関の外でも二九七号のようなやつがいるとは思わなかった。

 

 「よし、お喋りはそれくらいだ。日が昇る前に作戦を確認しよう」

 

 ガレスの鶴の一声でクリステは黙り、それに伴って男も睨むのを止めた。ガレスは意外と慕われているらしい。

 当初は私を含めた四人で聖峰に入るはずだったが、クリステが二九九号の面倒を見ることになり、聖峰へは三人で入ることになった。

 

 聖峰に入ってからは手分けをせずに、三人でひとまとまりになって鉱脈を探す。いつ魔族に襲われるかわからない状況において、効率よりも安全を重視した結果だ。

 鉱脈を見つけて十分な量の聖結晶を回収したら、即時撤退。どこかで魔族に遭遇した場合には、ガレスと男が魔族を抑え、私が魔法で止めを刺すと決めた。

 

 「気をつけてね」

 

 横穴から顔を出し、二九九号を抱えた女が言った。二九九号には睡眠魔法を重ね掛けしてあるため、私たちが帰還するまでは寝ているはずだ。

 

 「ああ、行ってくる」

 

 ガレスが答え、私たちは空に飛び立った。

 聖峰へ足を踏み入れるにはまず、岩山を越えなければならない。そこで私たちは、飛行魔法を使うことにした。私以外の二人は飛行魔法が使えないため、私が別の魔法で運んでいる。手のかかるやつらだ。


 「すげえ! 飛んでるぞ、マレク!」

 「う、ああ……!」


 興奮気味のガレスに対し、マレク――黒髪の男――は明らかに顔色が悪い。見た目に反し、小心なようだ。

 その様子を見て、速度を上げてやる。途端に二人が大声を上げた。魔族に声を聞かれてはならないため、即座に防音魔法を発動させる。やはり手がかかるやつらだ。


 上空からの遠視魔法で、聖峰の麓を観察する。確かに魔族の姿が確認できた。外にこれだけいるということは、坑道にもかなりの数がいることが想像される。

 数分の飛行で聖峰を偵察し終えた。そのうえで、魔族が少ないところを選んで着陸する。久しぶりの高高度飛行だったが、満足のいく飛行ができた。これで同行者がいなければ完璧と言えただろう。


 太陽は上昇を続けており、私たちがいる聖峰の中腹には燦燦と光が降り注いでいる。白い岩肌がもたらす強烈な照り返しは、アッシャー王国では聖なる光と呼ばれていた。しかし、その聖なる光にも魔族を追い払う効果はなかったらしい。


 「早いところ坑道に入ろう」

 

 ガレスに促されるまま、最寄りの入り口から坑道に足を踏み入れた。その瞬間、肌に突き刺さるかのような濃密な瘴気が襲ってくる。前を行く二人は、うっ、と息を詰まらせていた。


 「お前たちは瘴気に耐性があるのか?」

 「一般人よりは。だけど、完全な耐性じゃない」

 「そうか」


 ガレスが苦しげに答える。こいつらが瘴気耐性を持つか否かはそれほど重要ではないため、それ以上話を広げることはしなかった。


 やや下りながら真っすぐと続く坑道。人間が取り付けた照明器具は使用されておらず――魔力を必要とするため当然ではあるが――、奥に進むにつれて視界が悪くなっていく。ほんの数十歩で、前の二人はもはや輪郭しか見えなくなっていた。

 私には暗視魔法という手があるが、魔法が廃れてしまった現代に生きる若者二人にはそんな高尚なものは使えない。手のひらに光源となる火球を作り出すのが精一杯だ。

 こつこつ、と足元だけで足音が鳴る。防音魔法が坑道内に足音が響くことを防いでいるのだ。魔族を倒すのは造作もないことだが、倒した後の死体が見つからないように処理するのが煩わしい。そのため、こうした戦闘回避策を講じているのである。


 最初の魔族に遭遇したのは、二股の分かれ道に差し掛かったときだった。しばらく歩いて気が緩み始めていたのか、前衛の二人は魔族に先手を許してしまった。


 「ギャッ!」


 奇怪な叫びとともに短剣を突き出してくる魔族。火球によって照らし出されたその姿は、蜥蜴と人間を無理やり合体させたような姿をしていた。

 準備ができていなかった前衛二人は、後ろには六歳児がいるというのに攻撃を躱した。自然、私と魔族が対面する形になる。


 「まったく、打ち合わせ通りに動いてほしいものだ」


 愚痴をこぼしながら、突進してくる魔族の足を切断した。魔族語で痛い痛いと泣き叫びながら、床を這いつくばる蜥蜴人間。もう片方の足も切り飛ばしてやると、いかにも蜥蜴らしくなった。


 「これ以上、坑道を汚すのは得策ではないか」


 ここで自分の失策に気づき、すぐさま魔族の身体と両足を跡形もなく焼却した。燃焼に酸素が消費され、ただでさえ薄い坑道内の酸素がさらに薄くなる。やはりいくつも死体を出しては処分が難しくなるから、できるだけ戦闘は避けるべきだろう。


 「いやあ、試すような真似をして悪かったね。最初の敵はあんたにやらせようって話をしてたんだよ」

 「そうか」

 「そうだ」


 それにしては必死の形相に見えたが、演技だったのだろうか。真意を質すようにじっと見つめると、ガレスはさっさと話題を変えてしまった。

 

 「で、分かれ道だけどどっちに進む?」

 「魔族が来た方でいいんじゃねえか? そっちに大事なものがあるってことだろ」

 

 マレクが答えると、ガレスが視線を向けてくる。それでいいか、と尋ねているのだろう。

 

 「異存はない」

 「決まりだな」

 

 地面に広がっていた血液が焦げて黒くなっている。私たち三人はそれを踏みつけ、聖峰の深みへと足を向けた。

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