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救世主計画  作者: 数多 或
救世主編①
16/48

16. アンティエルとの密会

 私とアンティエルは密会を重ね、互いに相手の求める情報を提供した。あまり頻繁にイアスの身体で治療室を訪ねるのは憚られたため、アンティエルが検査の名目で赤子たちを治療室に集める機会を増やすことで対応した。現時点で三〇八号までが誕生しており、その中に私を紛れ込ませることは難しくない。

 

 アンティエルから聞いた話では、この養成機関では一年間で十六人の戦士候補を育て上げるようだから、二九七号から数えてあと四人の戦士候補が生まれてくる計算になる。その十六人は十六歳になる年に、魔王主催の剣闘大会へ出場させられるらしい。そこで優秀な成績を収めると、晴れて本物の戦士として魔王に献上されるという。

 

 剣闘とは、魔王による人類支配が確立されて以降に生まれた、人間同士を戦わせる魔族の娯楽である。一対一の場合にはどちらかが死ぬまで、乱戦の場合には最後の一人になるまで続くという、魔族らしい残虐なルールになっている。世界各地で興行がなされていて、人類のおよそ四分の一にあたる一億五千万人が剣闘のための奴隷、すなわち剣闘奴隷であるらしい。とはいえ、剣闘奴隷と一般奴隷の明確な境界線があるわけでもなく、その二つを行きつ戻りつする者もいるということだった。

 こうした情報の他にも、養成機関の育成計画など求めていた情報はほとんど手に入り、あとは細かい疑問点の解消を残すのみとなっていた。

 

 以前の密会では「本物の戦士」について聞きそびれてしまったため、今日は最初にそのことを聞こうと決めて治療室の扉の前に立った。私とアンティエルの間に取り決められているリズムと回数で扉を叩くと、すぐにアンティエルが出てきた。

 

 「おお、イアスよく来たな」

 「うっす」

 

 白々しい演技で挨拶を交わし、部屋に入るなり本題へ入る。

  

 「本物の戦士とは何だ?」

 「何だ、とはなかなかに抽象的ですね」


 返答とともにアンティエルが椅子を引く。私がそれに座ると、飲み物が置かれる。

 

 「余計な口を聞くな。知っていることをすべて話せ」

 「すみません。ではまず――」

 

 アンティエルの話を聞きながら、目の前に置かれた飲み物を口にする。ほのかに甘い。普段は不味いものしか与えられないため、イアスの身体を使うときにはこうして好き勝手に飲み食いしている。

 

 「――ということになります」

 「なるほどな」

 

 アンティエルの話をまとめると、戦士の真似事でしかない剣闘奴隷から解放された者を本物の戦士と呼ぶということらしい。魔王に献上された後は、剣闘奴隷の取り締まりや反逆者狩りに供されるという。要するに、人間でありながら魔族側に立ち、他の人間を支配する側に回れるということである。

 剣闘を通して同族である人間を殺すことを厭わない精神を培わせ、そうした仕事への抵抗感をなくす狙いがあるのかもしれない。娯楽と実利を兼ね合わせた、実に効率的で残酷なシステムである。

 話を終えると、今度はアンティエルの番だ。

 

 「では、例のアレをいただけますでしょうか」

 

 ポケットから黒い球体を三つ――ちょうど三つで手がいっぱいになる大きさをしている――を取り出し、無言で手渡す。アンティエルは頭を下げて手だけを上げるという、仰々しい姿勢で受け取った。


 これはアンティエルが秘密裏に開発しているという、魔力を貯蔵・解放する道具だ。検査のときにアンティエルが私――二九八号の籠に仕込み、私はそれを魔力で満たして返すことになっている。現状、私がしている研究協力はこれだけだ。非常に楽でいい。

 アンティエルはこれを体内に埋め込み、自ら魔法を使えるようになることを目標としている。魔族は魔法の代わりに瘴気術を使えるにもかかわらず、身体を改造してまで魔法を使いたいというのは理解に苦しむ。が、そんな奇特なやつのおかげで情報を得られているのだから、その奇特さに感謝せねばなるまい。


 「これを短期間で三つも充填できるなんて、イクサス様だけですよ」

 「まあ、そうだろうな」


 イクサスというのは、前世での私の名前だった。二九八号様と呼ぶのは違和感があるということで、前世の名前を教えたのだ。ただ、前世について教えたのはそれくらいで、転生に至る経緯などは何も教えていない。

 

 「それでもやっぱり、トバルを殺されてしまったのは痛手でしたねえ……」


 トバルは私の前に研究協力者であった者で、私に殺された金髪の侵入者だと聞いた。トバルが情報通りと口走っていたのは、アンティエルからの情報通りという意味だったのである。

 

 「それは嫌味か?」

 「いえいえ、とんでもございません。比べるまでもないほど、研究の効率はよくなっていますから」

 「では、何が言いたい?」

 「私が通じている反逆者集団の方から連絡がありまして、敵討ちがしたいと」

 「ふむ、それは好都合だな」

 「好都合、ですか……?」

 「ああ。その話、詳しく聞かせろ」

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