13. アンティエルの独白
短いです
侵入した反逆者は二人組で、金髪の男と茶髪の女だった。茶髪の女は入り口付近で倒れているのが発見されたため、建物内で死亡した魔族はすべて金髪の男の仕業だと見られている。
アンティエルは奇跡的に生き残った五体の魔族を治療し終えたとき、あることに気がついた。生き残ったのは新生児担当の三体、それと応援に駆け付けたうちの二体である。フィデルとラミは切り傷であるのに対し、イアスと応援二人は殴打による傷だったのだ。
奇妙に思って二十近い死体を検めると、新生児室以外で死亡した者は剣による傷、新生児室で死亡した者は殴打による傷が原因で死亡していた。新生児室で回収された男の剣が折れていたことから、途中で剣が折れたことによる戦闘スタイルの変更に伴い、こうした相違が生まれたのだと結論づけられた。
だが、アンティエルはこの結論に納得しなかった。剣をよく観察すると、折れた切っ先と柄に残された部分の凹凸が符合しないのである。そのときはまだ血だらけだった新生児室を這いつくばって探し、アンティエルは粉々になった金属片を見つけた。戦闘中に剣が折れたにしては、不自然な折れ方である。
アンティエルが次に着目したのは、いつ剣が折れたのかということだった。傷跡から判断するに、男がフィデルとラミを相手にしている時には剣は折れていなかったことになる。
応援に駆け付けた者の話では、駆け付けた時にはすでにイアスは倒れていたという。そしてイアスには、殴打の傷跡しかなかった。そうなると、剣を折った可能性がある者はイアスしかいなくなる。
そこでアンティエルはイアスへの聞き取り調査を行った。が、結果は期待していた通りにはならなかった。すなわち、イアスは剣を折っていないと主張したのだ。いつの間にか男が目の前にいて、蹴り飛ばされて失神していたという話だった。
論理を積み重ねて辿り着いた結論。しかし、事実はそれを否定している。であれば、推論のどこかに誤りがあるとするのが普通だ。他の魔族には考えすぎだと笑われ、アンティエル自身もそれに納得しかけていた。
そんな事態が様相を変えたのは、趣味の研究に興じていたときだった。
「は?」
アンティエルの口からとぼけた声が漏れた。
その視線の先には、紫色に輝く水晶球。この水晶はおおよその魔力量を測定する道具であり、紫の光は二九七号に匹敵する魔力量を意味する。
けれども、アンティエルはそのこと自体に驚いているわけではなかった。魔力量を測った検体が生きた人間ではなく、血液であったことに驚いているのだ。
魔力は人間の身体全体に満ちているため、当然ながら血液にも存在する。とはいえ、血液は採血した時点から魔力の拡散が始まり、やがて魔力は失われてしまう。それにもかかわらず、いま測定した検体は紫色を示した。
これはつまり、この血を採られた人物は本来、さらなる魔力量を誇っていることになるのだ。
その人物とは――
「二九八号が、なぜ……」
アンティエルは混乱していた。二九八号に水晶を用いたとき、結果は青だったはずだからだ。これは紫よりも低い。
血液が本人より高い魔力量を発揮するなど、原理的にありえない。となれば、最初に疑うべきは水晶の不具合。しかし、二九七号や二九九号の血液を用いても、異常は確認できなかった。水晶に問題はなさそうである。
そこでアンティエルに浮かんだのは、突拍子もない考えだった。自分でも馬鹿らしいと思うほどの。だが、もし本当にそうなら――
「儂にもツキが回ってきたか……?」
薄暗い治療室にくつくつと笑い声が響いた。




