6話
さて、朝起きてから顔を洗い、寝癖を直し、ストレッチをする。
うん、文明人に大きく近づいている。さて、ピクニックと洒落こみますわー。
「はぁいッ!」
「そぉれ!」
「シャァアッ!」
投石練習もしますわよ、文明人ですので。
もちろんおふざけでもなんでもなく、【千里眼】の検証だ。朝四刻半までにこの検証だけは終わらせておきたいと一人平原に来ているわけだが…
「んー?やっぱり変わらないか?」
受付嬢さんの説明を聞いて【千里眼】があると命中率に補正がかかるのかもと思っていたのだが、どうやらそんなことはなさそうである。
「まあ、ステータスの器用とかが上がったらまた違ってくるのかねぇ」
時間がわからないが、日が昇って時間がたっているので町に戻る。
なんか【千里眼】による差は感じなかったが、慣れの問題か後半になるにつれてより力を伝えられ、より命中しやすくなった気がする。
投石…練習の価値あり。
そういえば昨日ゴブリンを2体くらい倒したわけだが、レベルって上がっているのだろうか?さすがに2体じゃあがらないか?でもレベル1だしなぁ。
そこらへんもイケメンことアラン君に聞けばわかるだろう。
「あ、すまん。またせた?」
「いや、早く来てしまってね。時間までまだ半刻ほどあるけど……とくに予定もないのなら早速行こうか」
?なんかしゃべり方が優しい気がするが…昨日は戦闘直後ってこともあって少し硬かったのだろうか?…ありうるし、どうでもいいか。
「じゃあ、今日はよろしくお願いします」
「はい、お願いされます」
「そういえばレベル10ってどれくらいか聞いてもいいか?そこらへん疎くて」
森へ向かう途中気になっていることをまとめて聞いていく。主にステータスとレベルについてだ。
「ふーむ…」
本当に思ったより長くなったのでまとめる。
1、冒険者ではない成人男性の平均レベルが10くらい
2、ゴブリンの目安レベルは5~8で、ゴブリンリーダーは12~15
3、銅級冒険者の平均レベルは15(鉄級で10くらい。銀級には30くらい必要)
4、アランのレベルは18
5、レベルが10ほど離れていたら、まともにやって勝ち目がないくらいの差になる
6、レベルが2~3上がるたびにステータスの内一つが一段階上がる
7、どのステータスが上がるかはわからない(完全にランダムではないと思われている。向き不向きなのか、必要があってのびたのか、鍛錬したらのびるのか、ここらへん。)
と、いった感じだ。つまりレベル10まで伸ばしてしまえばこの世界の一般人としては生きていけるくらいなわけだ。
ここまで話を聞いて今の自分が弱すぎて逆に笑えてきた。
「なに笑ってるんだよ」
「いや、俺、弱すぎww」
「言っておくが、笑い事じゃないからな!」
「わかってる、わかってる。だからこうしてレベルを上げようとしてるじゃないか」
「そうか。まあわかっているならいいんだよ。さて、今回の作戦だけど…」
「はい」
ここからは真面目に行きます。
「ゴブリン5~6体の小隊を見つけたら戦います。それ以上いる場合はいったん引きます。ゴブリン一体をのぞいた他は僕がひきつけるので一体ずつ倒していきましょう」
「了解」
じゃあ探すのは俺担当ってことで
【千里眼】発動。
お、いたいた。
「いたぞ」
「さすが、早いね」
「先手はどうする?」
「んー僕が正面から行くよ。それを背後から…まあだいたい昨日みたいな感じで。追手は僕が引き留めるから」
「了解」
そういうことなので剣を抜いて鞘はリュックへしまう。
「作戦開始」
「ラジャー」
「ッシ!!!さあ、こっちだよ!」
「グギャ?」
「グギャァ!」
「グギャァ!」
「グギャァ!」
陽動が始まっているな。なんというか、注意を引くのがうまい。これが戦闘経験豊富な冒険者って奴だろうか。
昨日みたいに誰かを助けるためじゃない。自分が強くなるためだけの殺し。覚悟はしていたが…少し手が震える。
だけど…俺とお前らは殺し殺される関係。今はそれで納得させてくれ。
後ろからゴブリン1体の首を切りつける。
うまく刃が立っていなかったからだろうか、首が折れただけで切り飛ばすには至らなかった。
「グギャ!」
そのままの勢いで隣のゴブリンに突きを入れる。
「グボァ!」
今回は体を貫通。剣先に重さを感じる、がゴブリンの体重なんてたかが知れている。そのまま剣を振り切り、ゴブリンの体から剣を抜く。剣から抜けたゴブリンが地面を転がり、動かなくなる。
「いいよ!」
そう言うとアランは、驚きのあまり動きが止まっていたゴブリンをこちらに蹴とばしてくる。
斬れと、言外のメッセージを受け取り、慌てて剣を振る。
飛ばされてきた勢いと、振りぬいた剣がかみ合い、ゴブリンの体がたたき切れる。
あと2体。
残りのゴブリンは逃げ始めようとしている。背中を見せる1体と後ずさりしている1体だ。背中を見せているほうは隙だらけなので、足元にあった石を投げる。
直撃。
動きが止まったところを切りつけ、首が折れる。まだ斬るという行為が難しいな…。
最後に残った1体も逃げようとしたところアランに足を切りつけられ動けなくなった。
「さあ、とどめを」
「ああ」
目が合う。おびえていることがわかる。なんで目を合わせた俺!くそ、もうやるしかないんだぞ!慣れろ!この世界に!適応しろ!
「フッ!」
「お疲れさま、かなり手際よかったじゃないか。レベル1とは思えないよ」
「ああ、ありがとう」
「さて、まだ余裕があるなら次行こうか?どうする?」
試すように俺の目をのぞき込んでいる。もちろん俺の答えは決まっている。
「次だ」
殺した分だけ、強くなる。
この世界は残酷で、そして少し生きやすい。
「はい、お疲れ様。本当に今日だけで見違えるほど強くなったよ」
「ありがとう。どうだ?外から見て、レベルは上がっていそうか?」
「上がっているんじゃない?ゴブリンを倒した数が、えーと…25体くらいでしょ?10レベルくらいの人でも1レベルくらいは上がるくらいだからね」
「じゃあ俺なら」
「まあどれくらい上がっているかはわからないけど、上がってはいるだろうね」
「へへ、じゃあ銅貨1枚分稼いで帰るか」
「なんで?」
「鑑定に必要な料金だ。俺、生活費でいっぱいいっぱいだから…ちょっと薬草採取するだけだしな」
「いやそう意味じゃなくて、ゴブリンこんだけ倒したんだから…報酬も結構もらえない?それこそ銅貨1枚くらいなら誤差くらいに」
「え?その金ってもらっていいのか?」
「え?そういう話じゃないの?」
「いや、こっちは手伝ってもらっている身なわけで…」
「いや、それをいったらこっちは恩を返している途中だよ」
「んーじゃあ済まない。言葉に甘えさせてもらう」
生活費が心もとないのと、アランは銅級だから俺よりかは金を持っているだろうという思考で、今回はその言葉に甘えることにした。
「はい、こちらがゴブリン討伐と魔石回収の報酬、合わせて銅貨22枚と鉄貨5枚になります」
な、あ…銀級まで稼げないとか、嘘だろ…俺の全財産を軽く上回ってきやがった。
「あ、あとステータス鑑定をお願いします」そういって銅貨1枚を渡す。
「わかりました。では、こちらへどうぞ」
「じゃあ、僕はここで、また明日同じ時間でいいかい?」
「あ、ああ。よろしくたのむ」
なんか…金銭感覚狂いそう。
「では、こちらがギメイさんの新しいステータスです」
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ギメイ・アカラサマ Lv 6
体力 E
筋力 C
魔力 E
器用 C
知力 D
スキル【千里眼】【水魔法】
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魔法!?魔法だ!
いやまてよ…逆に言うと、強くなったステータスを活かすためには魔法の勉強をしないといけないわけで…最速でレベルを上げたい、今来られても少し困るな。
アランは恩を返すと言ってくれているがあまり拘束できないし…
いや、朝なんだかんだ集合までに時間の余裕がある。今日の夜と、朝の余裕がある時間を使って、アランの時間は奪わずに魔法の勉強もする、これだ。
「ギメイさん…」
「あ、はい!なんですか?」
考えすぎだっただろうか?受付嬢さんが話しかけてくる。
「レベルを上げる、これはいいことだと思います。無謀なことにも平気で首を突っ込んでしまうギメイさんが安全に近づく方法の一つです」
「は、はい」
「しかし、冒険者として危険なことは見極めなければなりません。それを間違えたものから死んでいきます。そしてギメイさんには常識と合わせてそこが欠落しているように感じます」
「はい…」
「だから…もし疑問などがあれば私に聞いてください。どんな簡単な質問でも構いません。情報は武器です、冒険者にとっては闇夜を照らす松明のようなものです」
「それは…ありがとう…ございます。…でもなんで?」
「なんでってどういうことですか?」
「いや、受付嬢さんは、」
「フランです」
「フランさんはなんでそんなに良くしてくれるんですか?」
「…人を助けるあなたを、周りの人が支えるべきだと思ったからです」
なんだろう、今まで見えてなかったんだ。栗毛のふわふわカールのちょっとかわいい系の人だと思ってた。もちろん仕事人って感じはしてたから想像だけど…
違う。
この人、最高にカッケェじゃん。
「ギメイさん?」
「フラン…さん。俺、結構馬鹿なんで、おかしい質問ばっかかもしれないっすけど。お世話になります」
「いえ、私も…なんか、かっこつけっちゃいましたかね?」
「最高にかっこよかったです」
「やめてくださいよー」
「お世辞じゃないですよ」
場の空気が和やかになる。
そして、今一つ決めたことがある。俺は強くなって困っている人たちを助けよう。この世界のシステムなら、俺でもできるはずだ。
困った人をたすける、もちろん無償の愛だとか正義がどうこうじゃない。
親も兄弟も親友もいないこの世界で、俺が居場所を作る最も手っ取り早い方法だ。
「早速魔法について聞きたくて」
「…!はい、ぜひ」