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23話

Side グラジオラス


ふー、ここ二週間ほどの大仕事が今日で終わった。

最初はどうしようかとも思ったし、ばかげたことを言うあいつを殴り飛ばそうとも思ったけど…

自信がなかった私には真剣でまっすぐなあいつが眩しく見えて…結局依頼を受けてしまった。

さらに、結局売り上げで見ると赤字が出たし…お小遣いをくれるお父さんと趣味が少ない私に感謝だわ。

今までの貯金で何とかなったからね。


この勢いのまま父さんに話そうと扉を開けようとするが、ノブにかけた手が震える。

武器を作るときは絶対に震えない手が…情けない。


決断は済んだ。

前に、進め。

私も…夢に向かって進むんだ。


「グラ?…ってどうしたんだい?」


「……父さん、ずっと言えてなくてごめん、私…武器職人になる」


私にとってあまりにもまぶしすぎた父さん(あなた)が私の夢を曲げていた。

子供の時から防具職人(あなた)になりたくて、至高(あなた)になることはできなくて、私が本当に好きだったものが何かわからなくなっていた。

私は武器職人としてあなたを超える。

あたしは世界最高の武器職人になる。


いつか勇者を超えたあいつに、いつかあなたを超えたあたしが、武器を作るんだから。













「いやーすごい武器だな、本当に」


「うん、僕も彼女に依頼しようかなぁ…」


今俺たちはギルドの練習場で試し切りをしているのだが…

木の板がスパスパ切れる。


ちなみに、ダガーは右腰に、レイピアは左腰につけている。

取り出すときは交差するようにし、またいざと言う時はダガーだけ抜いて対応することもできるようになっている。

最速で武器を抜くときは利き手かつ逆手のほうが効率がいいからそれもできるって寸法よ。

やっぱりグラに頼んだのは正解だったなという気持ちと詐欺にあわなくてよかったという気持ちが同時に来る。


まあ、逆詐欺というか…あまりにもいいものを押し付けられたらしいのだが…

値段を知るのも知らないのも怖いのでとりあえず価値というものの存在を忘れることにする。


「しっかし二刀流ってのは慣れないな…」


「まあ難しいよねぇ」


上がった器用と知力のおかげか少なくとも前世よりかは両手別々の動きができていると思うのだが…それにしたって難しい。ただ、武器のバランスがちょうどいいおかげで武器を振るう感覚は悪くないので本当に後は俺の慣れだけだ。


【貫通】を普段の戦闘から使う意識をしているので剣を振るう先は狂ってはいけない。

ちなみに【貫通】で分かったことは以下のとおりである。


1、【貫通】発動はランダムではない。

2、貫通する可能性がある場合にその結果を確定させるような効果。


はっきり言ってかなり強いのだが…例えば鎧相手に剣を振るうのならば前の戦闘でついた細かな傷に沿うように剣を叩き込まなければいけず、【千里眼】との併用が必須になるし、実践の中で出すのはほぼ不可能と言ってもいい。

だから発動はランダムと言われてきたのだろう。


ただし、だからと言って最初からあきらめてかかると成長もしないので、意識できるときは意識しておこうという事である。

今さっきから木の板がスパスパ切れている原因は【貫通】にもある。


ただ…それはそうとしてこの剣の切れ味は異常だが…


それと、短剣『夢』のほう…

投げても戻ってくるという話だったので試してみると、今確認できる範囲内では距離がいくら離れていようが一直線に手元に戻ってきた。

グリップのほうから戻ってくるという親切設計だ。


この腕輪…一体どんな魔道具なんだ?と黒色の手枷のようなものをしげしげとみる。

魔力が通っているのはわかるんだが…具体的にどんな魔法が込められているのかは全く分からない。

これもグラが作ったものなんだろうか…



「よし、まあ実践と行くか」


「大丈夫そうかい?」


「ああ」


「よし、じゃあ行こうか」







森に入り、飛猿を見つける。

アランが【覇気】をまとった跳躍で突っ込んでいくので【軽業】と【剛力】を合わせて追いかける。

その状態で『糸』を手に突進をしようとするが、体が前に引っ張られる…!


これが風切羽の効果…


風に押されるまま群れに突っ込む。

アランに並んで戦えている。


アランが薙ぎ払い、動揺が走ったところを増えた手数と圧倒的なスピードで刈り取っていく。


「いいね!ギメイ!」


「ああ!」


ただし、頭が追い付かない。自分が切りつけたと思うよりも早く相手の肩に、首に、胴に剣が入り込んでいる。

思考を緩めて反射しろ!もっと、もっと、早く!




「ギメイ、いい戦いぶりだったね」


「…ああ」


「次いこう」


「おう」


使いこなせるのだろうか、この武器を…いや使いこなさなければならない。

これでひいひい言っているようじゃ勇者を超えるだなんて夢のまた夢だ。


「今日中に最低限慣れるようにする」


「ああ、ギメイならできるよ」


はは、期待が心地いいね…リーダー。









「お疲れ様、どうだった?」


「明日からはいつも通りでいい」


「了解した」


「俺は今日装備が大事だったことを実感したよ…」


「そうだね」


分かってたつもりだったんだが…どうしてもレベルやステータスのほうに頭が行っていた。

このレベルで変わるならどんどん装備更新していった方がいいな。

防具とかそういう話以前に、靴を変えないと。


下着や服、靴に至ってはいまだ一回も変えていない。悪くはないのだが…おそらく俺がレンジャー型のステータスになるのならば移動の根本である靴は最重要だ。


現在あるお金は今までに貯まった小金貨5枚と今日ためた小金貨1枚の合計6枚だ。

魔導袋を後回しにさえすればそれなりにいい靴が買えるのだが…


「なあアラン」


「ん?」


「俺今度は靴を新調しようと思うんだが…」


「ふむ」


「装備全体をちょっと上げるのと、靴とか一つに絞っていいものをそろえていくの、どっちがいいと思う?」


「うーん、難しい話だが…僕は後者の方がいいと思うよ。ただ限度はあって、衣類は小金貨2枚くらい、靴などの装備、道具類は金貨1枚くらい、主要な防具品は金貨3枚くらいかなぁ」


「となると…一式そろえるのにいくらぐらいかかるんだ?」


えーと下着、服、靴、ベルト、魔導袋、胸当て、籠手…はいるのか?短剣があるしなぁ…まああったほうがいいのか…

レンジャー系に該当するのなら防具も軽くて強いものとかに絞っていった方がいいな…

あとこの武器みたいに特殊能力もちのもののほうが強いだろうから…その能力も加味して…


合計で金貨9枚くらいは行くのか?

マジか…二年くらいは生活できる額だぞ…


「まあ黒金貨1枚くらいかなぁ」


「はは…」


「でもそうなるとレベルを上げる時間が無くなる」


「…」


「そのバランスが難しいのさ、まあとりあえずギメイは靴と外套くらいは買ったほうがいいかもね」


「外套?」


「ああ、雨が降った時や寒いとき…この国ではあまりないんだがこれから冒険を続けているとそういったことにあたるだろう?」


「でもアランも持っていないよな…」


「僕は【超回復】で失った体力は回復できるからねぇ…」


「ずりぃ…」


「まああとは見栄えかな…」


「見栄え?」


「……あんまりこんなことは言いたくないんだが、ギルドから指名依頼を出してもらえる条件として実力実績は当たり前として、注目されていた方が依頼されやすそうだろう?……僕は少し見た目がいいらしいからどうせなら最大限有効活用しようと思ってね」


「ああ、なるほど」


納得だ。

そういう事なら俺は目立たなくていいし、というか人と目合わせるの苦手だし…外套欲しくなってきたな。


とりあえず靴、その次に魔導袋、その後に外套の順番で行くか。







「というわけでして」


「なるほどね、僕のところに相談に来たわけだ」


結局俺はジオール防具店のアルゴスさんに相談しようと伺ったわけだが…


「すみません、こんな夜分に」


「ふふ、大丈夫だよ。僕は今君に興味津々だからね」


「え?」


なんか今までと雰囲気違くないか?アランともまた違う…アランがライオンの目をしているとするのならアルゴスさんは蛇の目をしている。

心の下をのぞいてこようとする…そんな目を。


「大丈夫かい?」


「あ、はい」


なんだったんだ…今の視線。


「それで、おすすめの魔道具屋と靴屋、防具屋を紹介すればいいのかな?」


「それぞれ予算が金貨1枚くらいなので、そこに収まるところがあればと思いまして…」


「ふむ、靴屋も防具屋も金貨一枚あればいいものを作ってくれるだろうね…おすすめのお店かぁ」


そういうとアルゴスさんは黙ってしまった。


「ヤマ防具店もいいし、アンミン防具店、クラマ靴屋、カンセー靴店とかもいいんだけど…職人の我が強くてね、よく予算を超過しちゃうんだよ。それで店側の責任になればいいんだけど…基本的には冒険者側が払っている。ただ、それより安価な店となるとギメイ君が求めているものからは一段階下がってしまうだろうね…」


「な、なるほど…」


「……んーあんまりこういうことはしないんだけど…僕が作ろうか?金貨一枚でしょ?」


「あ、はい。でもいいんですか?店頭に並んでるものは全部黒金貨から始まってるじゃないですか…さすがに自分は払えませんよ…?」


「ああ、ちがうちがう。金貨一枚で収まるものをちゃんと作るよ。大丈夫、そこら辺の調整は昔からうまいんだ」


「あ、じゃあお願いします!」


「外套と、靴ね」


「はい」


「じゃあ明後日に金貨2枚持ってきてくれたらいいから」


「あ、はい。失礼します」


「うん、いい夢を」


グラの時はあった調整とかがなかったが…まあそんなものか、普通は。

それよりも明後日までに金貨2枚にしないといけないってことは…現在所持金小金貨6枚だから…二日で小金貨4枚稼がないといけない。

これは金策ルートにしないとだな…アランにお願いしよう。






二日後の夜。せっかくだからとアランと一緒にジオール防具店に行く。


「やあ」


「どうも、こんばんわ」


「こんばんは」


「ほら、早速だけど…これだよ」


渡されたこげ茶のブーツに足を突っ込む。

なんかの革だろうか?


「うわっ」


掃いた瞬間あまりのフィット具合に気持ち悪くなる。

なんだこれ…


「え?」


「まあ完璧に調整されてるからね」


はは、こりゃぁ至高の防具職人と言われるだけはあるなぁ…


「その靴はナーガの腹膜を使っているから沼地など足元が不安定な場所でも歩きやすいはずだよ」


「へー」


「あとは、これ」


そういって渡された外套は黒く、端が認識できずにひらひらとしている。

これ、死神とか、悪役が来てるやつじゃない?


「ナイトメアの繭から作った。軽い認識疎外と闇に紛れる性質を持っている」


「へー」


「普通の外套としても十分な性能を発揮してくれるよ」


いや、もうそこは疑っていないです。

でも…結果的にすごい中二病な見た目になってしまったことが少し不服です。


某アサシンアクションゲームとか、某魔法使いと不思議な石の敵に出てきそうな感じになってしまった。


諦めて腕を通して羽織るが、なんというか装備に着られている感じがすごい。


「はあぁ…」


「なにか不備でもあったのかい?予算内で最も理想に近づけたつもりだが…」


「いや、装備に自分が見合っていないなと…」


「はは、いいじゃないか。お金で安全が買えるんだ、安いものさ」


「まあそうですけど」


「ギメイ、これから見合うようになればいいんだよ」


「それもそっか」


「そういえばアルゴスさん、僕も装備の更新をしたくて、鎧を更新したいんですけど頼まれてくれませんか?」


「…アラン君だよね。君の話はギルドから聞いているよ」


アルゴスさんの目が細くなる。またあの目だ。


「そうなんですか?」


「ああ、君のスキルに適応できる鎧となると…それなりの値段がする。銀級の君では厳しいかもしれない」


「いくらでしょうか?」


「最低でも黒金貨1枚だ」


「う…」


さすがの金額にアランの言葉が詰まる。


「それで大丈夫です」


「ギメイ?」


「アラン、今まで俺の装備の更新とかやってくれただろ?今度は俺の番だ、二人で貯めれば黒金貨1枚なんてすぐだぜ」


「ギメイ、黒金貨1枚がどれだけの価値がわかってるのかい?」


「…正直言うとよくわかんないけど、けど装備更新のために時間をかけすぎるのが得策だとは思わない。もちろん装備を更新しないこともな」


「それは、そうだけど…」


「結局バランスなんだろ?」


「……ありがとう」


「俺たちパーティだろ。装備を更新して最強まで一直線だ」


「ああ…」


ようやくアランに恩返しできる。

もちろんせっかくアランに並んだのにまた差をつけられそうでちょっと複雑だけど…ライバル関係以前に俺たちは仲間だからな。


二人の稼ぎは一日あたり小金貨4枚くらいだ。

また15日くらい稼げばアランの鎧も手に入る。


「じゃあお金がたまったら作り始めるからその時また依頼の話をしよう」


「はい」


「それじゃあ、いい夢を」


アルゴスさんに挨拶をして宿に戻る。


「ギメイ、ありがとう」


「いいんだよ、今まで迷惑かけてきたしな。これまでのお返しだ」


「迷惑なんて…」


「あーもう、いいの。俺も強くなったし、お前も強くなる。それでいいだろ」


「…うん。そうだね」


「じゃあまた明日な」


「…ギメイも十分強くなったし、もっと高難易度でもいいかな」


なんか怖い言葉が聞こえたけど、知らない知らない。



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