2話
声のするほうへ近づきながらこちらの存在をアピールする。
「大丈夫ですかー!」
「!ほら助けが来たぞ!セシル!もう大丈夫だ!」
「すみません!ゴブリンの群れに襲われています!私たちが森の外に出るまで援護をお願いします!」
「わかりました!やるだけやってみます!」
さて、ゴブリンについて知っている知識は…こん棒などの原始的な武器は使うこと。力は強くないこと。人間の大人よりかは弱く、子供よりかは強い。だがスキルやステータス次第では子供でも勝てる。
ってことは耐久力はあまり高くなく、さらに今目の前から走ってきている人ひとり背負ってる人に追いつけていない時点であまり足は早くないのだろう。
Q.スキル、ステータスの確認ができていない俺でも勝てるか?
A.無理。俺よりかは経験ある三人組に勝ったんだ、正面からあたるのは危険
じゃあどうするか…足止めさえすればいいんだ。…どうすればいいんだ?
先頭を走る少女を背負っている大男が見える。距離にして15mほど。
「な!?一人か?」
さらに後ろから緑色の餓鬼のようなものが5・6体出てくる。
6対2か、確かに逃げるなぁ。
けどこれで6-3何とかならんか?いやまだ厳しいなぁ1体をなんとかできたら正面戦闘に勝ち目ができるんだが…
「あと少しで森は抜けられます!少しだけ足止めした後私も引きます!」
すこし体をずらす。あたるかわからない投石だが、もう逃げている人に当たる危険性がある距離じゃない。
つまり、やるだけただってことだ。
「ッシ!」
まあ案の定直撃はせず、だが遠からずと言っていい木の幹に当たったので少しゴブリンたちがひるむ。おそらく反撃らしい反撃をされてきていなかったのだろう。
そのすきに地面に落ちていた石を四つほど拾って次弾に備える。
「!君も無茶はしないでくれ!」
「私も少ししたら引きます!あまり時間は稼げません!」
そういいながら二つ、三つと投石を続ける。
今は恥も外見もあったもんじゃない。テレビで見た野球選手の体の動きを思い出しながら狙いを定めて投げる。
今のうちに距離を活かした戦いがしておきたい。
ハズレ、ハズレ、ハズレ
誰かに当たればいいじゃない。あの一体に確実に当てる。その意思を持て。
目があったなぁ!
投げられた石は十分な速度を伴ってゴブリンの首に当たる。
その一体が立ち止まると同時にほかのゴブリンはこれ以上の追撃を避けるよう二手に分かれて少し迂回しながら近づいてくる。
運がいい。ゴブリンの数は左右2-2、うずくまり1の計5だったらしいな。2-1なら潰せるか?いや無理だ。その前に合流されてリンチだな。
もうそろそろ俺も引こう。
石を一つ拾い上げ、たまに振り返って投げるふりをすると少し立ち止まるのでそれを使って最後は全速力で森を駆け抜けた。
「はぁ、はぁ」
運動あんまりしてないから…体力が…
これ、ステータスとか関係なく体づくりをしたほうがいいかもしれないな。
たまに背後を振り返りながら街へと帰還する。
「大丈夫だったか?さっき負傷した冒険者パーティーが帰ってきてね。足止めを一人の少年が請け負ってくれたからその救助に向かってくれって頼まれたんだけど…話を聞く限り君っぽいんだよ」
「ああ、たぶん自分ですね」
「けがはないかい?ゴブリンの武器で傷をつけられると膿んで大変だからね、消毒が必須なんだよ」
「けがはありません」
「よかったよぉ、じゃあ検問はこれでおしまい、お疲れ様ー」
軽いなぁふわふわしてる。オジサンなのに。
冒険者ギルドにつくと今さっきのパーティーで後方を走っていた女性が受付嬢と何か話している。
「助けを今から出すことは現実的ではありません。ゴブリンの群れがなぜ規模を拡大しているかの調査に切り替えることをギルドとしては強く推奨します」
「…っ!希望がないからって何もしなかったら彼に申し訳が立たないでしょ!」
「あの…」
「あら?」
「えっ!?無事だったの!」
「薬草採取…の完了手続き…を」
そんな感じの雰囲気じゃないのね…了解です。
「それでは説明をお願いします」
「いや、説明するも何も声がしたので助けがいるのかなと思って…」
「一人でゴブリン六体と渡り合ったと?」
「いや、石を投げて、運よく当たって、追手が二手に分かれたので自分はそのまま逃げただけです。別にゴブリンを倒したわけでも渡り合ったわけでもないです」
「ふむ…そういうことでしたら…おかしくはないですね。ですが、今回は大丈夫でしたが気を付けてくださいよ、あなたはまだ紙級なんですから」
「はい、気を付けます」
「そういうことでしたらギルドからは特にいうことがありません。薬草採取の報酬は銅貨3枚と鉄貨5枚になります」
「じゃあ、失礼します」
このお金で今日の晩御飯と宿代を賄わないといけない。と思いながら市場にでも行こうと思ったのだが、呼び止められる。
「ちょっとまって、それはそうとしてお礼をさせて頂戴」
「そういうことなら…」
「いやー今回はたすかった!ありがとう!」
「いえいえ、大事にならなくてよかったです」
ここは冒険者のためのリーズナブルな酒場だ。まだ夜ではないので冒険者は少なく、食事を楽しむ一般の人のほうが多い。
目の前に座るのは少女を抱えていた大柄な男。名をアランといい、銅級パーティー『森の狼』のパーティーリーダーだそうだ。
その隣に座る女性がリリー、土魔法使いだそうだ。もう一人、ヒーラーのセシルと三人でパーティーをやっているらしい。
自分も「ギメイです」と名乗り、自己紹介が終わったところで冒頭に戻るというわけだ。
「しかしいいのかい、普段行っている食事処を一食おごるだけでいいなんて」
「ええ、この街にきて日が浅いもので、おいしくて手頃な価格のお店が知りたかったんですよ。ここはいいですね。おなか一杯食べても銅貨三枚くらいでしょう」
口にほおばった肉を嚥下してから話す。しかし、この世界…紙は量産されているし、料理はおいしいし、あまり世界の差というものを感じない。この世界の人たちの感覚の違いといったものはせいぜいが外国の人の感覚の違いぐらいなのだ。
「それならよかった。ああそうだ、君は紙級だと聞いた。わからないことがあったら何でも聞いてほしい。今回は助けられてしまったが、力になれるはずだ」
「そういうことなら、わからないことばかりですので頼らせてもらいます」
質問を交えながら食事会は続いた。
細かいことは省いた情報は以下の通りだ。
1、依頼を20回こなすと鉄級冒険者になれる。
2、銅級には比較的簡単になれるが銀級になるのが大変。かわりに銀級からは稼げる。
3、レベルやスキルはステータス鑑定で分かる。
4、ステータス鑑定はギルドで銅貨1枚でやっているが、鉄級になると報酬で1回ただでやってもらえるのでとりあえず鉄級になるといい。
5、魔法は誰でも使えるが、スキルがあるとないとでは雲泥の差。
こんなところだろうか、薬草採取は5個で一回とカウントされるらしいので20回依頼をクリアするはかなり簡単にいきそうだ。今日だけで7回クリアしていることになる。
明日、遅くとも明後日には鉄級だ。ステータス鑑定、すっごいわくわくします。
「じゃあ、ごちそうさまでした」
「ああ、またセシルが元気になったら挨拶にむかうよ」
「本当にありがとうね、困ったことがあればおねーさんたちに頼りなさい」
「はい、ではまた」
助けに言った理由は正直自分でもよくわからない。
だが自分のした行動で、この世界につながりがうまれた。
そのことが無性に誇らしくて、気を抜いたら走り出してしまいそうな心を抑えて帰路につく。
「すみません、ギルドの貸し宿ってどこにありますかね」
銅貨を一枚渡しながら受付嬢に尋ねる。
「ギルドの裏にありますよ」
「ありがとうございます」
「なるほどな」
ギルドの裏に、確かにそれはあった。
宿といえるか疑問がのこる道場みたいな、小さな体育館みたいなもの。屋根と壁がある。ただそれだけのもの。
だが、異世界に飛ばされてよくわからないところで生きようとすること、ゴブリンといういうなれば動物に石を投げつける行為、それらはギメイの心身に疲労をためていた。
中に入り落ち着いたところで横になると意識はすぐに暗転した。