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19話

扉を開けると中は防具品や装備品でいっぱいだった。

奥のカウンターからアルゴスさんが顔をのぞかせている。


「いっらっしゃい…あ、ギメイ君じゃないか!早速来てくれたのかい?」


「こんにちはアルゴスさん…気になる武器種が絞れたので具体的な相談をしようかなと思って…」


「武器かぁ…そういうことならうちの娘のほうが適任かもねぇ」


後ろでアランが笑いをこらえている…お前も他人事じゃねえぞ。


「あ、いや…」


「おーい、グラー」


できれば貴方とお話がしたいです。なんていう隙もなく、後ろのドアに向かって娘を呼びに行く。

俺たちの予想が正しかったら…


燃えるような赤い髪に切れ長の茶色の目をした少女が入ってくる。

予想は的中だ。


「なに?…って昨日の失礼な二人組じゃない」


「ああ、ども」


「なんだい?知り合いかい?」


「いや、知り合いって程じゃ」


「それで?何の用?」


「……武器の相談に乗ってくれないか」


「武器ならグラのほうがよく知っているだろう?」


「…はぁ、いいけど。昼食べながらでもいい?」


「ああ、ありがとう」


「うんうん、グラも学んできなさい」






無言で歩いていくので二人してついていく。

すると小奇麗な店の前で止まったので俺たちも止まる。


「ここよ」


「あ、はい」


「…そのとってつけたような敬語はやめて。昨日のことも別に…そんなには怒っていないから」


「あー、分かった」


「よし、それじゃ入りましょ」



店に入り肉とパンを頼んでいたので俺たちもおんなじ物を頼む。


「グラジオラス・ブラックハンマーよ。グラでいいわ」


「ギメイ・アカラサマ。ギメイと呼んでくれ」


「アラン・ハート。アランって呼んでほしいな」


「それで、武器の相談だっけ?」


「主に彼の…だね」


「ああ、武器の更新を考えているんだが…剣を使い始めた理由がゴブリンを倒した時に使っていたっていう…あの時から大きくステータスも変わったしほかの武器種も試したほうがいいのかと思ってな」


「そう…今使っている剣に不満があるの?」


「…いやあんまりない」


「じゃあ、なぜ武器を更新したいの?」


「武器が強くなるとより強い敵に勝ちやすくなる」


「…あなたたちの目標はなに?」


「………強くなること」


「強くなってどうしたいの?」


「その質問は関係あるのか?」


「あるわ。質問に答えて」


「俺は…何かが起きたときにどうしようもなくなることがいやだ」


「なるほど」


「俺たちがいた街に焔雷竜が来たんだよ」


「焔雷竜?なんで?」


「わからない…だけど多くの人が死んだ。アランだって死にかけた。だけど、勇者…様が来てあっという間に焔雷竜を倒したんだ。だから俺は思った、強くなれば多くの人を守れるって」


「あなたちも勇者様にあったの?」


「…あったという表現が正しいかはわからないがその力の一端はみた」


「そう…それで勇者様みたいに人を助けられるようになりたいと?」


「ああ…まあアランは違うが…」


「ああ、そうなの?」


「強くなりたいという目標が同じだけだ」


「僕は何にも縛られたくないだけさ」


「……………あんたたち、どこを目標にしてる?」


「ん?…だから強くなるためって」


「違うわ、どこまで強くなるつもりって聞いてるの」


勇者を信仰している彼女だ。勇者をもしのぐ最強になるだなんて言ったら怒って帰ってしまうかもしれない。

ただ…この質問に真摯に答えなかった時点で武器の相談から降りることになる。


質問が始まった時彼女の雰囲気が変わった。

彼女は真剣に取り組んでくれている。


仲良しこよしがしたいだけか?否、信じろ。

一呼吸し、質問に答える。


「グラ、あんたを信じて正直に答えさせてもらう。俺たちの目標は『最強』だ。勇者をも超えて、誰にも何にも負けない、そんな強さだ」


目の前の彼女の表情が一気に険しくなる。


「…………質問を続けるわ」














すっかり冷めきった料理が並ぶ机に二人の冒険者と一人の鍛冶屋が座っていた。


「……なるほどね」


あの質問の後、グラは質問の答えには触れず淡々と質問を繰り返していた。

それが今止まったということは、彼女中で一つの答えが出たことを意味する。


「結論から言うわ。レイピア・マンゴーシュを基軸としたオーダーメイド、これよ」


「マンゴーシュ?」


レイピアもオーダーメイドも分かるが…マンゴーシュがわからない。


「短剣の一種よ。レイピアと併用して使うことが多く、相手の攻撃を受けるために使うわ。ただあなたのステータスの伸びならば普通に二刀流としても扱えるだろうからマンゴーシュを攻撃にも転用できるようにしないといけないわ」


「…なるほど」


頑丈な短剣くらいの認識でいいのだろうか?


「それで、これは理想の話よ」


「ん?」


「意図的に予算の話はしないでおいたわ」


「ああ」


そうだった。


「いくらくらいするんだ?」


「さあ」


「さあって」


「オーダーメイドを想定するなら、いくらになるなんて依頼する人次第じゃない」


「じゃあ…あんたならいくらでやってくれる?」


「…金貨3枚よ」


「そうか…じゃああんたに頼むよ」


「え?」


「ん?」


「え?」


アランまで俺のほうを驚いた顔で見てくる…そんなおかしいこと言ったか?


「なんであたしなのよ」


ああ、あくまで武器を作れると仮定したときにいくらぐらいって話だったのか


「ああ、ごめん。アルゴスさんが武器のことならあんたにっていってたから武器を作れるのかと勝手に思ってた」


「いや…作れはするけど…」


え?じゃあなんでだ?


「グラさんには少し失礼だけれど…ギメイ、グラさんがどんな武器を作れるのかわからないのに即決しちゃって大丈夫なのかい?金貨三枚は大金だよ」


「ああ、そういうことか」


確かに、武器職人としての腕は見ていないけど


「初めに言っておくと、俺は今までの問答でかなりあんたのことを信用している。それは人としてとかじゃなくて…鍛冶師っていうのかな。武器に対してストイック…真摯に感じた。それに、今さっき考えていたってことはあんたの中でどういう武器がいいかは結論がでているんだろ?だったらほかのオーダーメイドの人に説明して作ってもらうよりも本人に作ってもらったほうがいいかなと思ってな」


「…そういうことなら僕は納得かな」


「それでどうだ?受けてくれるか?」


「…はぁ、馬鹿じゃない」


馬鹿ぁ!?言いすぎだろ…こっちは信用して頼んでいるのに…


「その依頼、グラジオス・ブラックハンマーが受けるわ」


まっすぐ目を合わせて言われた言葉には重みがあった。





それからはご飯を食べながら話が続いていく。


「それで?金貨3枚を持っているようには見えないけど」


「あー…何日くらいだ?」


「一日小金貨1枚くらいだとしたら15日くらいかなぁ」


「そう…それなら15日後に支払ってもらったらそれでいいわ。あたしのほうもそれぐらいはかかるもの」


「そうか、よかった」


「そうと決まったら…この後は暇?」


「ん?ああ、一応」


「じゃあ一旦うちに戻った後、必要なものを取って調整しに行きましょう」


「調整って?」


「試し切りよ」


物騒…






街の外、神山の麓の森にて。


「結局きたな」


「結局きたね」


「何言ってるの、早く行くわよ」


今日はお休みのつもりだったんだが…まあいっか。



「はい」


武器を渡される。

レイピアだ。


「これを使って戦えばいいのか?」


「そうよ、飛猿は適していないし…グレートベアーがいいわね」


「ベアーね。了解」


【千里眼】


「ここらへんにはいなさそうだな」


「そう…じゃあできるだけ敵を避けて移動しましょう」


「了解」




「いた」


「そう、じゃあいつも通りにやって」


「大丈夫か?」


「自分の身を守るくらいはできるわ」


「そういうことなら…」


「行くよギメイ」


「応」


手に持つレイピアは軽く、手に吸い付くようだ。


砂水球で相手の視界を潰して一気に接近する。

やみくもに振られる腕を避け、左側の腕と脇を刺す。

左半身にヘイトを集めたうえでアランに背中が行くように足音を大きく鳴らしながら下がる。


ようやく目を開けた熊と目が合うときにはアランが首を飛ばしていた。



「って感じだ」


「…聞いてはいたけど変な魔法の使い方」


「でも実用的だろ?」


「人と戦うことを想定してるみたい」


…PvPの影響だろうか?まあ人が工夫するときは人と戦う時だしな。思考の根本にあってもおかしくはない。


「そうかもなぁ」


「まあいいわ。次に行きましょう」


ん?もしかしてだけどこいつもアランと同じタイプか?











結論、アランと同じタイプ。


上下する肩を深い呼吸で抑えながらグラに聞く。


「どうだ?もう、そろそろ、終わりそうか?」


「ええ、十分よ」


討伐証拠品は優に40を超えている。

ベアーが10と飛猿が30くらいだ。あわせて小金貨1枚くらいだな。


手元にある紙に一心不乱に書き続けていたグラが顔を上げる。


「明後日、依頼終わりでいいからうちに来なさい。グリップと重心の調整をするわ」


「あ、ああ」


「それじゃ、帰りましょう」









「じゃあ、明後日ね」


「ああ」


鍛冶屋地区と宿屋地区は反対方向なので街に入ったところで分かれる。



「すまんな、付き合わせて」


「いいよ、それに僕も装備を考えるきっかけになったしね」


やっぱりこいつは聖人だ。


「じゃあ、お金も貯めないとだから、明日からも頑張ろうか」


「ああ」


でもストイックです。





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