12話
「…は?」
「今、ギルドマスターがグランドマスター…ギルド本部のマスターに掛け合って黒金級冒険者への緊急依頼発令を求めていますが…」
「…」
「黒金級は現在三パーティーしかいません。それらは、人類未踏の地を攻略中だったり、国とパーティー契約を結んでいたりと、簡単には動かせないんです」
やっと絞り出した声は驚くほど平坦だった。
「…一つの町が滅ぶかもしれないんですよね?」
「……一つの町が滅ぶだけです、黒金級はその次元にいます」
「そうですか…」
「だから現在ギルドとしてはこの街を守るべきか、見捨てるべきかで大きく意見が分かれています。現在会議中ですが、どのような結果になろうと迅速に行動ができるようにこうして準備しているわけです」
「なるほど、焔雷竜って推定レベルどれくらいなんですか?」
「なんでそんなことを聞くんですか?…65です」
「はは…」
なるほど…そりゃ確かに絶望だ。俺なんかがどうにかできるレベルを大幅に超えている。
「ギメイさん…絶対に無理ですよ」
「いやいや、分かってますよ」
なんで疑われるんだよ。さすがに無理だろ。
忙しそうなフランさんに挨拶をして、借宿に向かう。
この世界はステータスがある以上、絶対的な強者というものが存在する。それを俺が倒すのは不可能だ。
黒金級パーティーなら何とかなるらしいが…今のところ現実的ではない。
ただ…金級くらいなら大技が当たれば致命傷足りうるかもしれない。
もし、この街を守る場合は…時間稼ぎをすることが肝になる。
もしそうなった場合、必要なのは手札だ。ゲームで言うところのバッファー枠だ。
あいつらに火力なんて求めていない。しかし優秀なスキルによって強いキャラをさらに強くできるキャラは常にティアトップに君臨している。
つまり、俺に必要なものはスキルだ。
そこまで思考が働いた俺はフランさんからもらった攻略本を開き、目当てのものを探し始める。
「こいつが一番相性がいい」
スライム:主に夜行性、日中は地中に潜っており深夜になると死体を捕食するために地表にでてくる。視覚はほとんどなく、触覚がほとんどを担っている。推定レベル15
核を壊さない限り体が再生する。
みんなご存じスライム。この世界の自浄担当で在り、最近のファンタジー物の例にもれずかなりの強敵である。
なぜ冒険者が日が落ちるまでに依頼を終わらせ町に戻ってくるのか…夜中にスライムと遭遇したら暗い中、透明の体のやつと戦わないといけなくなるからだ。しかも負けた場合死体が残らないという恐怖もある。本体の戦闘力が低いわけでもない。しかも夜中になると遭遇しないほうがおかしいほど、うじゃうじゃ湧いてくる。
だからレベルが25を超えている銀級冒険者たちは一気に活動の幅が広がって稼ぎが爆増するわけである。
さて、お気づきだろうか。今の俺からしたら一番レベリングに適していることに。
【千里眼】で不利はほとんどカバーできる。15レベルというたくさん倒せたら経験値がおいしいレベル。死体に群がるという分かりやすい習性。数が多いという。
あとは俺が勝てれば…一気にレベルアップが見込める。
…最悪スライムの周りを【水魔法】でふさげば逃げれるだろう。
「んー、やっぱりやめたほうがいいと思うよ」
「逃げる方法は沢山考えてきました。安全第一でやってみようと思います」
「まあ、おかしなことはないし…おじさんには止める権利がないんだけど…」
「そうですか、心配してくださりありがとうございます」
カードを受け取り待ちの外へと出る。
心配してくれているのはありがたいし、言っていることもその通りなんだが。
やるしかないんだ。決心新たに夜の森へと飛び込んだ。
【千里眼】
とりあえず手元の石を拾って後ろのポーチに入れておく。
明りが見える。おそらくゴブリンの松明だろう。
ちょうどいい…近づいて数を確認する。4、数が少ない。ゴブリンの巣が崩壊した影響だろうか…
【水魔法】で松明の火を消し、暗闇にゴブリンの目がなれる前に全滅させる。
そこから離れて死体を観察する。
5分くらいたってからだろうか…3体の透明なもの、おそらくスライムがずるずると体を引きずってやってきた。
石を投石具にセットしようとしたところ続々とスライムが集まってきて10体に…一気に数が膨れ上がった。
攻撃するか悩んだが、少し観察することにした。
1、スライムの移動速度は地表だと早い。
2、スライムの消化速度は遅い。
3、スライムは近くに落ちてきた石には反応したが少し離れた場所だと反応しなかった。
以上のことから死体を餌に、距離をとって投石でスライムを討伐することにした。
まずは一投目。
「『マ ヘレゲル シータ』」(縮小、纏え)
石に【水魔法】を付け、制御できるようにする。それっ!
練習によって投石具自体のコントロールがよくなったことで魔法による軌道修正がだいぶ楽だった。
一発目、的中。スライムの核にクリーンヒットする。
スライムはびっくりしたようだが死体近くのやつが食事を続けたのを皮切りに周りのやつも食事に戻る。
ゴブリンならここで何かしらの対処を返そうとしてくるだろうが…これが脳があるかないかの差だろうか。
これなら…一生安全にスライムを狩れる。得た確信を胸に、第二投、第三投と投げていく。
それにも関わらず、スライムは増える一方だ。
どれだけいるんだ…
それからも周りの石があらかたなくなるまでスライムを狩り続けた。ちなみにスライムは狩っても報酬はもらえない。基本的には人間に害がある生き物じゃないからだ。
なので証拠品の回収を一切考えず、ばんばん狩ってきたわけだが…
スライムが来る方向というのがほぼ右奥からと統一されているのが不気味だ。
さすがに石がなくなってきたので左に体を移動させていく。
すこし移動して、石を投げて、なくなったら移動して、石を投げて、その繰り返し。
右肩が痛くなってきたあたりでスライムの群れがぱったりと途切れる。
見るとゴブリンの死体がなくなっていた。
なんというか…分かりやすい生物だな、スライムって。
【千里眼】を使ってゴブリンを探し、道中ほかの魔物がいたら倒し、なんなら歯が立たなかったゴブリンリーダーも倒しながら、寄ってきたスライムを狩り続ける。
夜の行軍は続いた。
「やあ、ギメイ話は聞いた?」
「ああ、すまん俺はちょっと寝る。昼になったら起こしてくれ」
「え?もうそろそろギルドから発表があるよ?」
「任せる」
すまん、カフェインもなけりゃアドレナリンがでる戦いでもなかったから眠気が限界突破している寝させてくれ。
貸し宿に戻り、装備を外し、そのまま寝る。一瞬で意識は落ちた。
目を覚ます。
見ると空が茜色になっていた。昼に起きれなかったんだろうか…アランに申し訳ないことをした。
顔を洗い、すっきりした頭で考えると…朝の俺の行動はパーティーメンバーの意見を聞かずに行動し、普段だったら朝から行動していたところをすっぽかしたことになるのか…クビを切られてもおかしくないな。
装備を着なおし、ギルドに向かう。
「やあ」
そこには変わらずアランが立っていた。
「本当にすまん、俺、昼起きなかったんだよな…。それに、今日の朝のも…」
「ああ、昼起しには行っていないんだ」
「そうか…」
そうだよな。さすがに自分勝手すぎた。
「体力回復は大事だろ?」
「え?」
「ん?」
「いや、俺、自分勝手な行動でアランの予定をおそらく乱しただろ。さらに起こしてだなんて、おこがましかったなって」
「いやいや、あの後ちょっと考えて門番の方に聞いてみたみたら君が夜、町を出て朝戻ってきたっていうじゃないか。何か考えが有るうえでの行動だろう?」
「それは、そうなんだが…」
ここまで優秀な仲間がいて、俺は幸せ者だ
「ありがとう」
「いいよ。それで、何をしてきたんだい?君のことだ、あの竜を倒そうなんて言い出しても不思議じゃない」
いや、そこまで馬鹿じゃないです。
「スライム狩り。レベリングをちょっとな」
「しかし…ちょっとレベルが上がったからと言って…」
「ああ、俺たちは竜の相手にはならない。だが相手足りうるかもしれないものの力にはなれる。そのためには多彩な手札が必要だと思ってな。【スキル】ねらいのレベリングだ」
「なるほどね、成果は?」
「今から確かめる」
「僕も同席していい?」
「当たり前だ」
「こちらが、ギメイさんの新しいステータスです」
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ギメイ・アカラサマ Lv 18
体力 D
筋力 C
魔力 C
器用 B
知力 C
スキル【千里眼】【水魔法】【剛力】
【軽業】
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「【軽業】は身軽になり、移動が速くなったり軽やかになったりするスキルですね。ほかにも体幹や平衡感覚が強化されたり、投げ物がうまくなったりと冒険者からは垂涎もののスキルです」
…現実はそううまくいかないか。今、自分を強化するスキルが来てもあまりうれしくない。
「そうですか…」
「なんかうれしくなさそうですね…いいスキルですよ?」
「けど、竜の足止めには役に…ああ、違います違います!別に俺だけでどうにかしようとしてるわけじゃなくて!」
目の前のフランさんの目つきが急に鋭くなったので急いで説明する。
「なるほど、それはこの街に住むものとしてはうれしいものですし、現実的にそう言ったことならレベルが足りなくても戦力になりますね」
「そうです、そうです。だから別に無茶しようとしてるわけじゃないんですよ」
「いやぁ、よく一晩で18レベルまで上げたねぇ」
「アラン!いや、フランさん違うんですよ、実際一回も攻撃を食らってません!楽勝でした!」
「そうやって油断した先から死んでいくって前言いましたよね」
ああ、もう何言っても駄目だ
「冗談です。アランさんは見かけよりずっと考えている人なのは知っています」
バカみたいな顔してるって言いたいのかな?ん?
場の空気が緩んだのでこれ幸いと話題を変える。
「そういえばギルドの会議ってどうなったんだ?」
「ん?ドラゴンがゴブリンの巣から動かないことと、領主様が国に申請して勇者様が討伐しに来られるらしいよ」
「ああ、だから少し街の雰囲気が落ち着いているのか」
「そうそう、勇者様がくるなら安心だーって」
「勇者様ってどんな人なんだ?」
「この国の勇者様はあまり表に出てこない人でね…一説によるととてつもない大男だとか、エルフのような美貌を持つとか、あんまりまとまりがあるものじゃないんだよね」
「なるほど、でいつ来るんだ?」
「さあ」
「さあって」
「僕は知らないよ…そちらの受付嬢さんは?」
「フランです。私が聞いた情報によると2日らしいです」
「なら、意外と何とかなりそうだな」
「そうなんだよねー僕もいずれ竜を倒せるようになりたいなぁ」
「気持ちはわかる」
「子供じゃないんですから…」
「失礼します」
そういってドアがノックされる。
そういえばここは鑑定水晶があるところだった。長居しすぎたかな?
「はい、どうぞ」
「アランさんはどちらでしょうか?」
「私だ」
「冒険者会議への出席命令がギルドマスターよりでています。四刻にギルドに来てください」
「私だけか?」
「命令が出ているのは。ですがパーティー単位での出席も認められていますよ」
「そうか、ありがとう」
「いえ、失礼します」
そういって扉が閉まる。
「ふー…ギメイ、君も来なよ。気になるだろ?」
「もちろん」
現在の時刻は三刻半。夜ご飯を食べて戻ってこようという話になり一度ギルドからでる。
「冒険者会議って何を話すんだろうな」
「竜が町を襲ってきたときの作戦とか?」
「そんなのあるのか?」
「それこそ時間稼ぎだけなら少しできるんじゃないかい?」
「まあ、情報の共有はしておくに限るか」
「そういうこと」
相変わらず金がないのでアランの金でご飯を食わせてもらった。
「すまん、すっかり忘れてた」
「いいよ、出世払いってやつさ」
軽く雑談しながらギルドに戻ってくると
「待っていたぞ!早くこっちへ」
なんかかっこいいひげの筋骨隆々なおじさんが歓迎してくれた。
正確には俺たちではなくアランを。
「それではこれより冒険者会議を開始する」
そこそこでかめの会議室に連れてこられ本当に何の前置きもなく会議が始まった。
「今回の議題は皆の予想と少し違う、調査を担当した『夕暮れ』説明を頼む」
「はい、我々は遠方から焔雷竜の動向を監視していました。竜は一日中寝ておりましたが、たまに起きては周囲の魔物を食っていました。そんな竜に大きな動きがみられたのがついさっきになります。山を二つ超えた先にいた竜が急にこちらへと移動して現在は町から歩いて半刻ほどの距離で止まっています。はっきり申しますといつこの街が教われてもおかしくない状態です」
「そういうわけでな、いかに勇者が来るまでの二日間…正確にはあと一日と四刻を耐えるかという話だ」
会議室を静寂が満たす
「ふむ、もしかしたら…かな」
破ったのはアランだった。
「ギルドマスター、おそらく私は【夢魔法】で呼ばれたんでしょう?」
「ああ、いったいどんな魔法なのか、前例がない」
「【夢魔法】は相手が見ている夢を操作することができる魔法です」
「それは…」
ギルドマスターの顔に落胆の色が見える。
「ですから、できますよ。相手に終わらない夢を見せることが」
一縷の望みが湧いてきた。