10話
「おはよ」
「うーん」
「珍しいね、寝坊なんて」
「え?寝坊!?」
慌てて起き上がる。目の前でアランが微笑んでいる。周りを見渡しても普段通りの朝なら寝ている冒険者もいない。
本当に寝坊したらしい。
「すまん、急いで準備する」
「いや、今日は装備の更新と昨日教わった魔法言語の習得に充てよう」
「君その装備で銅級依頼に行くつもり?」と聞かれる。
まあ、ゴブリンをいくら倒しても微々たる経験値しか入らないことはなんとなく昨日で予想がついたので、もうそろそろとは思っていたが…
そういえば武器っていくらくらいなのか知らないなぁ…
えっと、現在の所持金が…銀貨2枚と銅貨33枚と鉄貨が7枚だ。だいたい銀貨5枚くらい。
「銀貨5枚分はある」
「んー防具と…武器だね」
「武器なら…」
「いや、あの剣は買い替えたほうがいい。ゴブリンリーダーが雑に使ってたからだろうね。持ち手と刃にガタがきてる」
「そうか…」
とはいってもいらなくなった装備ってどうすればいいんだ?
「銅貨1枚ってところだな」
「あ、それで大丈夫です」
というわけで古具屋にきてこの剣を売った。まあ、値が付いただけましだろう。こうやって駆け出しにめぐっていくのだろう…
「あと、ベルトってあります?」
「あそこだ」
もう一つ古具屋に来ている理由がある。それはポーチやらポーションやらを持ち歩くにはベルトがあったほうがいいという話があったが値段を聞くと新品で銀貨1枚くらいはかかるので防具が揃えられなくなる恐れがあるということだ。
それなら、信用と信頼の古具屋さんに期待しようという、そういう話だ。
さて指さされたところには10本くらいのベルトが落ちているわけだが…
実際につけてみてフィットするものを選ぶ。
見た目は二の次だ。
「これ、いいな」
だいぶ使い込まれたであろう革のベルト。結構太めでしっかりしている。
短剣のホルダーと、ポーチが大中小一つずつついている。
「いくらですか?」
「銅貨2枚と鉄貨5枚だ」
「じゃあ、これで」
「まいど」
いやーいい買い物ができたなぁ。しかもベルトとリュック。だいぶ冒険者っぽいのではと思ったところで剣を失ったことを思い出す。
いやいや、今から買いに行くのだ。るんるん気分ってやつだい。
「やぁ」
「アランさん~、どうです?いい装備はありましたか?」
アランは俺が剣を売っている間に武器屋を回って銀貨5枚で買える装備の組み合わせを考えてもらっていた。
俺がお願いしたわけじゃないが、価格交渉は得意なんだなんて言われた時には何も言い返せなかった。
そりゃイケメンがやったほうがいいよなって。
「ああ、あとは君の体に合わせるだけさ」
アランさんのお仕事はとてつもなく速い。それを実感した今日この頃であった。
というわけで、一新した俺の装備を紹介するぜ!
武器 鋼の剣 銀貨2枚 しっかりした材料と匠の技でよくある見た目ながら扱いやすく、斬りやすいぜ!お値段以上だぜ!
防具 革の籠手 銀貨1枚 動かしやすいぜ!ストーンボアの革というものらしく燃えないぜ!お値段以上だぜ!
革のブーツ 銅貨8枚 丈夫でしなやかだぜ!荒い地面でこそ真価を発揮するぜ!お値段以上だぜ!
革と鋼の胸当て 銀貨1枚と銅貨2枚 動きやすくも、防御力は十分だぜ!お値段以上だぜ!
計銀貨5枚で俺の財布にダイレクトアタック!アランは容赦がないぜ!
「アランさん、これ、俺が買おうとするといくらくらいなんですか?」
「銀貨8枚くらいかな」
前言撤回、アランさん一生ついていきますぁ。
剣とセットで鞘が来たことに少し感動し、ベルトに通す。
防具一式を身に着けると…
「おお!」
「うん…なんというか…」
「駆け出しっぽい」
見た目は二の次だもん。
「いや、でも動きやすい。もっと制限がかかると思ってた」
「君の戦い方を見るにそっちのほうがいいと思ってね…どうやら正解みたいだ」
「剣も…ちょっと重いけど、慣れたら変わらず触れそうだ」
「あと、これは僕からのプレゼント」
「これは?」
「冒険者なら良い短剣を一つ持つべきだ。有名な金級冒険者の言葉だよ」
そういうアランの手には流れるような刀身を持った刃渡り15㎝くらいの短剣が置かれていた。
握りは革でまとめられており、手に張り付くとはいかないものの握りやすく振りやすい。
「まあ、料理とか解体とか短剣はいるから持っておいて後悔はしないよ」
「これ、一体いくらするんだよ」
「プレゼントにその質問って…はぁ」
「まあ、ありがとう。ありがたく使わせてもらうよ。それで、パーティーの名前ってもう決まったんだっけ?」
「まだだけど…いい名前でも思いついた?」
「『アランと愉快な仲間たち』でどうだ?」
「馬鹿か」
俺はマジだぞ。
「確かに…名前が決まらないんだよねぇ」
「そうだな『マ シータ ゾルデ クルド』」(纏え、集まれ、放出しろ)
草原に移動して水鉄砲を撃ちながら会話は続く。
「違うなぁ『マ グレンデ ゾルデ クルド アボール』」(拡大、圧縮、放出、膨張)
ミスト散布みたいになっている…だめだ、たくさん命令を入れると自由度は上がるが出力がなぁ…
「『マ ゾルデ クルド』うんやっぱりこれぐらいだな」(圧縮、放出)
高圧の水の糸が前方に射出される。
けれど使って思う。ぶっちゃけ砂水壁と剣を使って戦ったほうが強い気がする。魔力の消費が少ないし…
「で、名前だよ」
「名前なんてなんでもいいだろ…」
「よくないよ…名前は大事さ」
「そうかい」
パーティーの名前なぁ…まあ俺が思っている以上に大事なのかもしれない。それこそ2つ名みたいな感じなのかもな…『森の狼』のアレスですみたいな。そう考えるといい名前のほうがいい気がする。
それからもいくつかの検証をして、ゴブリンの群れに試験運用してみたところ強い使い方は以下の通りだ。
1、膨張 操作できる霧を作れる。移動の途中に体の周りに薄く纏っておくとすごいばれにくい。
2、拡大、圧縮 十分な硬さをもった水の壁や槍を作れる。操作は自分でやらなければいけない。
3、縮小、纏え 石に纏わせて投げる。軌道修正ができるので練度が上がれば命中率は100。スピードを殺さない操作が少し難しいが、一方的に攻撃できる。一番レンジが長い。
そして一つ決心した。投石具…作ろう。弓矢と違って金がかからないし、投石はもう異世界に転生してきてからずっとお世話になっている。装備がそろったら使うことはないだろうなんて思っていたけど、魔法を使ってすることが投石の強化な時点でお察しだ。そして投石の威力や飛距離を伸ばすにあたって最も手っ取り早いのはスイングをつくることだ。
ダビデに俺はなる。
というわけで市場で針と糸、紐と革を買ってきた。
「何作ってるの?」
正面で夜ご飯を食べているアランが聞いてくる。
ちなみに今日のご飯はアランもちだ。俺は金がなかった。
「投石具…を作りたいんだが、初めて作るから自信はない」
「なるほど」
「たしか真中に石を乗せる革があって、その両端に紐が付いていればいいので」
針で革に穴をあける。そこから糸を通した針で小さな穴から紐をひっぱりだす。それを両方でやると紐を固く結んで出来上がり。
ん?こんな簡単でいいのだろうか?なんかもう少しあったきがするが…まあいいや。
「完成だ」
「おおぉ」
「明日少し練習させてくれ」
「いいよ、まあ明日は銅級依頼を試しに受けてみようと思っていたから、効率重視じゃない日さ」
効率重視の日が恐ろしい。
「じゃあごちそうさまでした」
「どういたしまして、じゃあ明日は寝坊しないでくれよ」
「ああ、そうだアラン、パーティーの名前なんだけど」
「?」
「『針と糸』とかでどうだ?」
「安直だねぇ…了解、それで申請しておくよ」
うるせえやい。