1話
ストックがある限り毎日12時投稿です。
Q.ゲーマー脳は異世界で無双するか
A.厳しい
大小さまざまな魔法が駆け巡り、そのすべてを灼熱と稲妻をまとったブレスが打ち払う。
人の命が踏みつけられる草花の様に潰えていく様は傍観者がいれば地獄とはこのようなものだろうと思うに違いない。
もっとも、この場において傍観する余裕があるものなど在りはしないが。
「ギメイ!この戦線は崩壊する!勇者が来るまで耐えられると思ったが無理だ!君だけでも逃げろ!」
「なんでお前が!」
「私はこの国の民だ、君は違う」
「…クソが!」
一人の少年が背を向け、もう一人は剣を持つ手に力を籠める。
そんな戦場に救いはないと思われたが
「間に合ったようだね」
突如として空から降って現れた、黒い鎧に身を包み色とりどりの宝石が散りばめられた大剣を背負う人間がこの戦場から音を奪った。
だれも、動けなかった。動けば死ぬことを本能で解ったからだ。
『魔力駆動、一刀をもって薙ぎ払おう』
七色の閃光。目の裏に強烈に焼き付いたそれは…希望か絶望か。
本人たちにもわからぬまま一つの町の存続をかけた戦いは幕を閉じた。
「どこだここ」
少しにおう街角、形容するなら小奇麗なスラムといえる場所で一人の青年が路頭に迷っていた。
彼は今異世界に転生されられたばかりなのだ。状況が呑み込めないのも無理はない。
「すみません、ここってどこですか?」
「あ?ここはスレイン通りの脇だよ。ああそういうわけじゃないのかい?じゃあ鋼の国のアーシャル領クコの町だよ」
そうとだけ告げた初老の女性は忙しそうに脇道へと姿を消した。
「本当にどうなってるんだ?」
「なるほど」
解った情報を整理するとこうだ。
1、ここは異世界らしい。
2、この世界には魔法はもちろんおおよそファンタジーに出てくるものはある。レベルもスキルもだ。
3、俺みたいな身元不明人がなれるものは奴隷か鉱夫か冒険者ぐらいのものだ
4、この世界は1日24時間ではなく12刻で動いているらしい。それはこの世界が平面説で動いていて夜になる仕組みが違うからだろう。
5、この世界は一つの大陸、六つの国で成り立っているらしく一つの大きな山を囲う形でそれぞれが国を作っている。そして放射線状に国を伸ばしている。
「ありがとうございます、本当に」
っていうのを親切に教えてくれた冒険者ギルドの受付のお姉さんに感謝する。
「それで冒険者登録はしますか?」
「ええ、ぜひお願いします」
どのみちこの世界で生きていくための手段なんてかぎられている。…それに冒険者ってのは…こう、わくわくするしな。
「ではこちらの水晶に手を当ててお名前をお願いします」
ん?なんか名前が…あれ?こうやって思い出そうとすると家族の顔とかもちょっとぼやけてるな。
「…?」
あーなんか変な目で見られてる!早く名前!かもん!
「ギメイ・アカラサマです」
Oh NO!なんでゲームのプレイヤーネームのほうが出てくるんだよ!まあ、この際いいや…異世界での名前なんてなんでもいいし。
「はい、ギメイ様。では簡単にギルドの説明を…」
長かったのでまとめると…
1、ギルドに仇なす行為を広く罰する。
2、等級というものがあり、等級があがると受けれる依頼が増える。
3、依頼には恒常依頼と単発依頼があり、恒常依頼は依頼完了品を持ってくるだけでいい。
4、パーティを組んだほうがいい。安全だし。
なお最後の話はわれら紙等級には関係がない話だ。なにしろゴブリンやホーンラビットといったいかにも低級なモンスターの討伐依頼ですら我々の一つ上の鉄等級にならないと受けられないからである。紙等級は言ってしまえば子供が大人のお手伝いをするような簡単な依頼が大半を占めている。
なお、私は家に引きこもってゲームばかりしていたのでありがたいものとする。
紙で作られた冒険者カードを渡されたあと少し考える。今後のことだ。この世界では転生してくることって珍しいことなのだろうか?もしそうでないのならば元の世界に帰る方法などあるのかもしれない。が、当分は生き残ることを優先しよう。
まずは寝食の確保だ。
「すみません、おすすめの宿とかってありますか?」
「予算はどれほどで?」
「…今はとくに、依頼次第です」
「なるほど、でしたらギルドの貸し宿はどうでしょう、一日銅貨一枚。格安で泊まれますよ」
「是非それでお願いします」
「わかりました、ほかに質問などございましたら」
「あー薬草採取の依頼なんですけど、薬草って具体的にどういったものを…」
「でしたらあちらの資料室をご利用ください。冒険者になりたての方に役立つ情報がたくさんあります」
「ありがとうございます」
さっそく資料室に移動する少し薬品臭い暗めの部屋だが整理整頓されているので物が探しやすい。
初心者のための薬草大全と、冒険者の心得、これを読もう。
えっと、初心者が知っておくべき薬草は…
体力ポーションのためのハヤリ草、アリーオ草
魔力ポーションのためのママンダ
この三つ。似ている毒草もないことから初心者おすすめだと。
んでゴブリンとかは子供でも倒せなくはないが群れているので危険。森だと危険度が上がるので草原で活動すべし。
なるほど、なるほど。
行ってみるか。
薬草採取は恒常依頼なので特に事前に準備はいらない。金もないので袋などは持ってきていないが、大丈夫か?まあ試しに片手で持てるくらいの量で頑張るか。
関門は冒険者カードを見せたら特に検問なしで出入りできる。いいのかこれで…
出た先は道なりに草原が広がり少し奥に森があるといった感じだ。
なんというか周りを見る余裕がなかったが、意外ときれいじゃないか。この世界は。
「ええっと、あった。こういうのか。」
おもったより分かりやすいな。見つけたら、これだってのがわかりやすい形をしている。
すこし見つけやすくなった四つ葉のクローバー探しみたいだ。
なるほどなぁ、この距離にあるなら取る難易度が低いからはした金にもならないと思ってたが少し手間がかかるのねぇ。
んでその手間かけるよりかは買ったが早いと。
たまに周りを警戒しながら薬草探しを続けていく。どこから必要になるか書かれていなかったので、できるだけ根っこからとっている。
なんというか、雑草ぽくないな、根が張っていない…
これでハヤリ草とママンダがそれぞれ5個ずつ。種類関係なく5個で7鉄貨らしいのでこれで14鉄貨。
ここでこの世界の通貨について触れておくと、鉄貨10枚で銅貨1枚に、銅貨10枚で銀貨1枚に、銀貨10枚で小金貨1枚に、小金貨5枚で金貨1枚に、金貨10枚で黒金貨1枚だ。
金貨から先は庶民にはあまり関係ないらしい。
銅貨1枚と鉄貨4枚状態なわけだが…もう少しいるな。とはいっても、もうそろそろ片手で持てる限界量だ。
一回町まで戻って手に入ったお金で袋を買うか。
そうと決まったら動かねば。せめて今日が終わる前に宿代と飯代を稼がないと。
そういえば飯代っていくらなんだ…それも調べないとだな。
今さっき顔を合わせた関門のおじさんが対応してくれる。ちょっと早かったので驚かれたが少し戻ってきただけの旨を伝えると納得していた。
さて、時間がないので急ごう。
「すみません、薬草採取の恒常依頼の完了報告はここでいいですか?」
「はい、左手のものですね」
「これであっていますかね」
「ええ、ですが根は使いませんので次からは結構です。合計10個でこちら銅貨1枚と鉄貨4枚です」
「ありがとうございます。えっと収納のためのバックのようなものを買いたいのですがこれで買えるものなのでしょうか?」
「そういうことでしたら古具屋に行くといいでしょう。まだ使えるものが格安で手に入ります。そこでなら銅貨1枚あれば巾着ぐらいは買えると思います」
「ありがとうございます」
受け取った貨幣をしげしげと見つめながら説明された古具屋へと向かう。途中道がわからなくなったが質問したら道行く人が教えてくれる。優しい。
こういう初心者の時って楽しいよなぁと思いながら、ここはゲームじゃないんだぞと自分を戒めていて気付く。ここはゲームじゃないんだろうか?
いや、こんなリアルな…んー?でも俺前世の記憶うっすらとしかないしな。
そういうことを考えていると古具屋についてしまった。いまは自分の置かれている状況より目の前の問題に対処しなければと思い扉をあける。
だれもいない…ガラクタ、と言ってしまったら申し訳ないんだがそういったものがゴチャゴチャある室内の一角がのっそりと動く
「失礼しますー」
「あん?客か?あんた」
おお、ずんぐりむっくりの体にもじゃもじゃのひげ、これはドワーフってやつか?なんかファンタジー。
「ええ、銅貨1枚くらいで背負える袋があればと思って」
「ああそういうことか…あるぜ、好きに選びな」
といって店の一角を指さす。そこにはナップザックやリュックサックといったものが積み上げられていた。
条件としてはそんなに汚れていなく、頑丈そうで、破れていないやつ。
えっと、この二つならその条件をみたすな。麻布で作られたナップザックのようなものと、緑色の布で作られたリュックサック…背負いやすそうだしリュックサックにしておくか。
「これください」
「あいよ、銅貨1枚と鉄火4枚だ」
あっぶねー、危うくお金が足りないところだった。
「はい、これで」
「まいど」
よしこれでたくさん集められるようになった。
アイテム集める系はバックがそろってからだよね。
そうと決まれば薬草採取頑張っちゃうぞお!
関門に行けば顔を覚えてもらっていたのでさらにスムーズに抜けられ、草原での薬草採取が始まったわけだが…
…見つからないちょっと場所を変えたほうがいいな。森には近づかないように横に移動していく。
お、群生地じゃん。ラッキー
こっちにも、群生地だ、最高
ちょっと森に近づきすぎたかなと思って、もう一度町のほうへ移動しようとしたその時だ。
「ちょっとセシアしっかりして!」
「森を抜けたら護衛隊が助けてくれる!意識を保て!」
かなり緊迫した声がかすかに聞こえた。
声の聞こえ方的に森を抜けるにはもう少し時間がかかる。
町まで助けを呼ぶ?
それは間違っていない。正しいだろう。
しかしこの声の主たちは助かるかどうかわからない。
一瞬の思考。まとまるのは早かった。あっているかどうかはわからないが、冒険者なんだ。冒険してやろうじゃないか。
彼は近くに落ちてた石を握りしめながら森の中へと飛び込んだ。