1 内なる声
声に導かれるまま避難した。恐るべき大震災だ。病院は人手不足だ。重症患者が多い。
1 内なる声
私は大学病院に勤務する女性医師、もう30歳直前の外科医だ。出勤途上だ。勤務の前に受持ちの患者さんの顔を見ておきたくていつも1時間前には出勤する。間もなく到着という時に声が聞こえた。
「次の信号右折よ。公園の何も無い広場に行くのよ。歴史上類見ないほどの大震災が後10分に来るわ。あなたの出番は起こった後よ。まずは万全の体調で震災を乗り切る事を考えなさい。」
声は違うが自分が自分に語り掛けている事が判った。信じられないが信号を右折して公園の駐車場に駐車してグランドに急いだ。グランドの真ん中でハンカチを敷いて座り込むと間もなく、信じられないほどの揺れがあった。周りの建物が次々と倒れるのか見える。私もここに来なければ、下敷きになっていたのだろう。
何かまだ揺れているような感じがするが取り敢えず移動することにした。駐車場まで来た。車は無事のようだが動かせないようだ。
駐車場のあちこちに亀裂ができ駐車場出口には電柱が横たわている。必要なものだけ取って病院に行くか。それともマンションな戻った方がいいのか。
「車はアイテムボックスに入れておきなさい。それからマンションに戻りなさい。必要なものは全てアイテムボックスに入れなさい。特に電気が止まったから冷蔵庫のものは移しなさい。」
声は車のアイテムボックスへの入れ方やマンションへの転移の仕方を教えてくれた。部屋は散乱しているが、崩壊には至ってない。私は通帳やカード保険証や現金、冷蔵庫の中身や着替えタオル、ティシュなどアイテムボックスに入れていった。意外なアドバイスとして電池とラジカセを持っていくように言われた。
「しばらくここは整理すれば使えると思うけど、ガスも電気も水道も止まっているから寝るのに使えるぐらいね。まずは病院に行かないと。」
予想通り、外科病棟は酷い有り様だった。電気も水道も止まり。入院患者も酷い状態だった。職員も呆然としたり、怪我を負ったりしているのでその対応から始めた。声を掛けたり職員の治療を始めやっとやるべきことが判ったのだろう。外科病棟は少しづつ持ち直した。外来の時間になっても10人出勤の筈が3人しか出勤していない。外科部長も不在だ。3人で話しあって私は外来対応に回ることになった。非常用電源が作動しており治療薬の心配はないが、非常用電源に繋がるところしか照明が付かないので薄暗い。外来は数が多いらしい。救急外来で対応出来ない人々がこちらに回るらしい。医師も看護師もいない状態で患者の数は多く、重症者が多い。入院ベッドも満床だ。
昼食にありつけたのは夕方の6時だ。外科医師の安否がだいたい判ったのは一週間経った頃だ。20人の外科医師の内5人が死亡。10人が重軽症だが軽症の4人は業務に復帰する。怒濤のような一週間、自分でも何が起こっているのか判らないままに過ぎて行った。
アイテムボックスに洗濯機能が付いて居たのがありがたかった。
医師だけが大変だなどと思っていない。人手不足はどこも同じだし
洗濯機が非常用電源に接続されておらず、業務士さんの負担は大きい。光熱水の早い復旧が望まれる。
光熱水が復旧が遅れるのが人手不足に拍車を掛ける。