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どうしたもんか

 お願いだ。これが俺の身分証であってくれ!!


 そんな絶対にありもしない可能性に賭けるくらいしか俺にできることは残されていない。


「はい。確認できました。お引止めして申し訳ありませんでした。もう大丈夫ですので、どうぞお通りください」


「え? あ、はい。ありがとうございます」


 まさかの展開に俺は頭がついていけていなかった。

 ちょっと待ってくれよ、今俺がポケットから出したのは俺の身分証で間違いないのか? そんな都合のいい話があるもんなのか?


 入口を通りながら取り出したカードを確認してみる。


「えーと……スギヤマ テンジ……俺の名前じゃねぇか。マジであのじいさんここまでの出来事を見通して用意してくれてたのか? どうせ、適当に流してるだけだろうとか思ってたけど最高じゃねぇか」


 じいさんの神対応に俺は心を震わせた。

 ここまでのことを予測して準備しているなんてやっぱり神様なんだな。ただの適当じじいと思ってたが、それは俺の大いなる勘違いだったらしい。今夜からじいさんに足を向けて寝れねぇな。まったくいい仕事するじゃねぇかじいさんよぉ。


「さてと、無事に検問も突破したことだし、これで俺を止めるものは何もないぜ。さっそく金を稼いで今日の飯とするか」


 さらっと言っているが、これが今の俺の一番優先しないといけないことなんだよな。ここで、お金を稼ぐことができなければ当然飯も食えないし、泊るところもない。そんなことになれば、俺はすぐに飢え死にだ。森でモンスターに襲われて死ぬのと何ら変わらないほどに惨めな死が待ち構えているのだ。もちろん、そんな未来にはさせないように俺は努力するつもりだが、どう努力すればいいのかさっぱりわからないという現状がまずい。何を頑張ればいいのかわからないまま頑張るのは無理がある。


 一歩町に入っただけでも外とは大違いで大勢の人で賑わっている。

 俺が今歩いているのがおそらくメイン通りなのか、人通りがすさまじい。通りに並んでいる露店に人が押し寄せている。


 店も様々なものが並んでいるがとにかく目を引くのは飯だ。どれも美味そうな飯を店で買って食べながら歩いているばかりだ。これが異世界での食べ歩きか。持つものだけに許された贅沢だな。今の俺にはまだ遠そうだ。

 でも、俺だって腹が減っている。よっしゃ、今日の目標はここに並んでいる店で飯を食うことにしようじゃないか。目に見える目標は大事だからな。やる気を出すうえでは必須だ。これで俺も気合いが入ったぞ。今の俺ならどんなことでも喜んでできそうだ。


「でもどうやって金を稼ごうか? 何をするのが一番効率がいいんだ? 誰かに聞いてみるかないか」


 異世界でまったく知らない人に話しかけるなんて芸当は俺にはハードルが高いが、いずれにせよやるしかない。ここで怖気づいているようじゃこの先も同じことを繰り返しちまう。

 金を稼ぐにはどうしたらいいですか? っていきなり聞くのはちょっと不審者過ぎないか? 何かいいきき方があれば俺もそれで攻めることができるんだけど……財布をなくしたとかいう路線で話をつなげていくか? 小難しいことしても自分の首をしめるだけか。


「今日もがっぽり稼げたな。モンスターも行動パターンさえ理解しちまえば楽勝だ。いっそ、このクエストを一生続けるのもありなんじゃね?」


「馬鹿言えよ。レベルが上がるにつれて俺たちも強くなるんだからな。もっと効率のいいクエストがあるに決まってるだろ」


「それもそうか。やっぱ、冒険者って最高だぜ。こうやって腕っぷしにさえ自信があれば楽に稼げちまうもんな。多少危険は付きまとうが用心すりゃなんてことねぇし」


「言えてるぜ。俺たち二人ともスキルの恩恵だけどここまで来たようなもんだしな。ラッキーでしかない。もっと、レベルを上げてガンガン稼ごうぜ」


 俺の前を歩く二人組がでかい声で会話しているのが聞こえてきた。

 強ければ楽して稼げる。しかも、俺はモンスターを討伐していくのが任務みたいなもんだ……天職だぁぁーー!! まじかよ、こんなついてることがあるか? どうすればいいかわからなくて困ってたら前の奴らが解決策を提示してくれる? そんなの都合良すぎだろ。ってか、俺が真のラッキーボーイだ。不幸なんてもう俺には微塵も残ってねぇよ。


「さっさと報告をすませて今日も一杯いこうぜ」


「そうだな。クエストの後の一杯は最高だからな。これのために生きてるって言っても大げさじゃねぇぜ」


 クエスト? 報告? つまり、この二人組はその稼げる場所に向かっているということだよな。あーあ、もう二人の後をついて行くだけでおしまいじゃん。流石にこれはやりすぎたってじいさん。俺を助けてくれるのはいいけど、もう少し適度に頼むよ。ヌルゲー過ぎてちょっとなんかなぁ。


 尚も二人組は会話に花を咲かせながら歩いて行く。

 その後方を見失わないように俺はついて行くだけだ。聞き耳を立てていると色々なことが聞こえてくるもので、冒険者とやらは、モンスターを討伐することを仕事にしている職業らしいということ。今向かっているのは冒険者ギルドという場所だということ。他にも冒険者にはランクが存在していて高位の冒険者になればなるほど稼ぎも良くなるという話だ。もう、俺は冒険者といっても差支えないほどに冒険者のことを知ってしまっているな。これで俺はもう安泰だ。モンスターの討伐を頑張ろう。

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