町へ
俺は気合いを入れて森から一歩飛び出した。
「おお、明るい。光だ!!」
森ではずっと薄暗かったのだが、やっと森からでた実感が湧いてくる。
それと奥にはしっかりと町が見えている。ちょっと距離はあるだろうが、1キロもないくらいのはずだ。これなら十分に歩いていける範囲だな。
「やっぱりこっちであってたんだ。俺はもう不幸じゃなかったんだ。良かった、俺の不幸はこの世界に来て克服されたんだよ」
これほど嬉しいことがあるだろうか、ずっと悩まされていた不幸から俺はついに解放されたんだ。確かに、死ぬほどの不幸にあったんだからこれ以上の不幸なんて会うわけがないんだ。神のエネルギーを宿して俺は変わったんだ。肘だけに集中しているかもしれねぇが、俺は何も持っていなかったんだ。それだけでも大きな違いだ。
「今更だが……本当に今更だが、すぐ横に道があったんだな。これは、できれば見つけたくなかった……」
俺が森を出て、少し歩いていると俺が出て来たところからすぐ右手に綺麗に舗装されている道があった。
これを探すことができていれば、どっちに進むかの二分の一まで絞ることができていたってのにな。結果的に町の方角へ進んで言ってたから問題はないんだけど。いざこう言う現実を見てしまうと精神衛生上良くないな。何も考えないようにしよう。横に道があったくらいどうでもいいじゃないか。それだどうしたんだよ。俺は道を見つけるのと同じかそれ以上の速さでここまでたどり着いているんだ。俺の勝ちだろ。
「でも、こんなに近くに道が通っていた割には人の声とか一切しなかったよな。あんまり人が通らない道だったのか? でも、町はあんなに近いのにな……たまたま人が通らなかっただけか、俺が気が付かなかっただけかもな」
いいや、今からあの道を使ってやろう。町へはもうどうしようがつくのは決まっているが、折角なら見つけた道を使ったほうがいいだろう。平原とは言えども、舗装された道のほうが歩きやすいしな。
これだけひらけてるとモンスターとかはいなさそうだな。町も近いしその影響もあるのか?
「もう目的地は目の前なんだし、さっさと行こう」
俺は歩くスピードを上げた。
「意外と距離があったな。割と疲れたぞ」
俺は道をまっすぐに進み、町の入口までやってきた。
町は外壁に覆われており、この入り口以外は入れる場所はなさそうだ。もしかしたら裏には別の入口があるのかもしれないが、見える範囲にはなさそうだな。
これもモンスターを対策してのことなんだろうけど、俺の想像していた町とは結構違いがあるよな。
遠くから見えていた時は壁でしかなかったけど、なぜかここが町だということがわかったんだよ。じいさんが言っていた細かいことの心配がないおかげかな。普通に考えて壁が見えただけで町だとは思わないしな。
入口に鎧を身にまとい、剣を腰に下げている騎士のような人が立っている。
しかも、二人もだ。これって、入口で検問とかしてるわけじゃないよな? 身分証とか求められたりしないよな?
「いや、じいさんから心配するなって言われてるし大丈夫だよな。通行料とか払わないといけないってなったら最悪だよな。金なんて当然もってねぇしやべぇよ」
一旦様子を見てみるか? でも、様子を見てたところで何も解決しないよな? それなら、さっさと聞いたほうが良くないか? どうしようもないってことなんてないだろ。
金がなくても、身分証がなくても通れる手段がきっとあるはずだ。事情を説明して通してもらおう……って、どうやって事情を説明するんだよ。別の世界からやってきましたって馬鹿正直に言える訳ねぇって。神様から生き返らせてもらえた? いや、無理無理。誰がそんなこと信じるって言うんだよ。ただの頭のおかしい奴だって。余計通してもらえなくなるわ。
ダメだ、正直に説明するって言う手段は取れない。なら、適当に話をでっち上げるしかない。そうだよ、何も真実を告げる必要はないんだ。本当っぽく嘘の説明をすれば切り抜けるはずだ。悩んでてもしょうがねぇ。行くぞ俺。
「俺は普通の通行人だ。何もおかしなことはしてない」
自分自身に言い聞かせながら、なるべく不自然な感じを出さずにそのまま通り抜ける。
検問の人達も怪しい人にしか声をかけないはずだ。俺は何も怪しいところのない一般人だ。このまま通らせてくれるよな。
何も起きずに、入口を通り抜けられそうになったその時――
「止まってください。すいませんが、身分証を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「え? もしかして俺ですか?」
「はい。見ない顔だったので念のためです」
まずいって。本当に身分証を要求されるのか? ちょっと待ってくれよ。こんなはずじゃなかったんだって。やっぱり俺の不幸は終わってなんていなかったのか?
「ちょっと待ってください。確か、このあたりに……え? 何か入ってる?」
「どうしましたか? 身分証をお持ちでないのでしょうか?」
適当にポケットをまさぐっていたが、全く身に覚えにないものが指に当たった。
身分証はカードだよな。これ形は完全にカードだ。もう一か八かこれで行くしかねぇ。
「ありました。これです」
ポケットから勢いよくカード状のものを取り出した。
頼む、じいさんが俺のポケットに入れたんだろ。これが、身分証であってくれ!!