炸裂
こいつ俺が仕掛けるのを待っているのか?
強者の余裕ってやつか? それをやっていいのは真に力のあるものだけだぞ。スライムにカウンターなんて高度な真似できねぇだろ。
「いいだろう、そっちがそういう態度を取るって言うんだったら俺も最高の一撃で答えてやるぜ」
俺は開幕から全開、エルボーで勝負を決めることにした。
これこそが俺の最高最大の技。シンプルイズベスト。その名もエルボー。神のエネルギーを内包した俺の肘は当たれば即撃滅の一撃必殺だからな。スライムよ、見事俺の技に対応してみやがれ。
「行くぞ!! おらぁぁぁーー!!」
バシュン!! ズガァァン!!
「は?」
俺の肘を避けることもなく真正面から受けたスライムは瞬時に爆散。後方へ衝撃波をまき散らした。
「スライム……お前もしかして、何も攻撃を防ぐ手段がなかったのか? それなのに逃げもせず俺の肘を真正面から受けるなんて男だぜ」
俺はこのスライムのことを一生忘れることはないだろう。
この世界に来て初めて戦ったモンスター、そして初めて出会った男だ。もうこいつ以上の男には出会わない可能性すらある。俺は本当に惜しい男をなくしてしまった。
「切り替えるんだ、スライムだって俺に精神的なダメージを与えることなんて望んでないはずだ。俺はこいつの死を乗り越えて先に進まなくちゃいけねぇんだよ。それが、生き残った者の使命だ」
ってか、また森を破壊しちまったな。
今回は戦闘の余波だし、俺が気に病む必要はないのはわかってるんだが、森林愛好家の俺としてはいくらかダメージを負ってしまうんだよな。むしろ、スライムを殺してしまったことよりもこっちのほうがダメージが大きい。俺も薄情な奴だよな。
まぁ、このまま進もうか。モンスターとの戦闘経験が積めたのはでかい。この先別のモンスターと遭遇しても同じように戦うことができるはずだ。ただ、またスライムが出てきたら俺はもう容赦はしない。スライムだからと言ってほかのスライムはあいつじゃないんだからな。無駄な情が湧く前に倒してしまおう。
「やっぱり、スライムはスライムだったか。じいさんもその辺の気遣いはできるみたいだし、ほかのモンスターが出てきても同じようなレベルだろう。これで一安心だ。未知って言うのは怖いもんだからな。一回、どういうものか体験しちまえばこっちのもんだ」
俺は先ほどの戦闘で相当レベルアップすることができたみたいだ。
精神的な余裕がこの世界に来てからの元とはレベルが違う。さっきまであれほど不安だったのが嘘みたいだ。人間自分の力が通用するとわかれば安心するもんなんだな。
もうそろそろ森の出口が見えてきてもいい頃合いじゃないのか?
俺はその後も自分を信じてまっすぐただひたすらまっすぐ進み続けた。
俺が進むのは道なんて生易しいものじゃない。舗装すらされていないただの森だ。人が通ることなんてこれっぽっちも期待できない。我ながらよくこんなところを歩いてるよな。先に道でも探せば良かったのかも。
「今更色々考えたところで後の祭りか。俺はこのまま行くって決めたんだ。それに従うのが当然だ」
もう道を探すのなんて馬鹿らしくてする気も起きない。
もしかすると、ちょっと探せばあったのかもしれない。でもそんなこと関係ないんだよ。俺が進めばそこが道だという精神で行こう。
「うん? なんか明るいような……ああ!! 森が!!」
俺は前方に指す光に気が付いた。
よく見ると、森が終わっている。まだその先までは見えないが当たり前に町があることだろう。ついに、俺はこの森から脱出することができたんだ。苦節数十分。俺はやっとの思いで森から出ることができる。自分を信じて本当に良かった。もしさっき道を探そうなんて馬鹿な真似をしていたらまだ森でさまよっていたはずだ。ナイス俺。
「出口さえ見えればこっちのもんだ。もう走っちゃおうかな……いや、こんな森で走るのは危ないか。こけて怪我なんて馬鹿すぎる。出口は逃げやしない、ゆっくり歩いて行こう」
走り出した気持ちを抑え、俺はゆっくりと進んだ。
ここからもう見えているんだ、今までと同じペースで進んだとしても数分もあれば十分に到着できる距離だ。焦る必要なんてどこにもないんだよ。俺は冷静だからな、こう言う場面でこそ落ち着かないと。
これでこの森ともおさらばと思うと感慨深いもんがあるよな。何といってもこの森は俺の異世界生活のスタート地点なんだ。モンスターとの初戦闘もここだ。もうこの森は俺にとってただの森を超えてるな。神林とかいてもりと呼ぶことにしよう。
そう言えばこの世界での文字はどんな感じなんだろうか? じいさん曰く問題ないって話だけど、こっちも一回書いてみないと安心できないよな。いずれ、書く機会もあるか。それよりも言語だろう。もしかしたらスライムに俺の言葉が通じなかったのもそのあたりの問題があったのかもしれないな。
「いいや、後で考えよう。もうすぐ森も抜ける。さてと、ここから更なる大冒険だ。気張っていくぞ」