誤魔化せたか
「酒場って言ってたけど大丈夫なのか? そういうところは男だらけな気がするんだけどさ」
「ああ、そんなこと。大丈夫よ。私たちが行くところはしっかり個室がある酒場だから。ほかの冒険者に見られたりもないわ。その代わりちょっとお値段がいいのがあれだけどね……今日はお祝いだからいいでしょ」
「そうだよね。いつもだったら安いところで我慢してるけど、こう言うお祝い事の時は奮発しなくちゃ。しっかり楽しんで明日の糧にしないといけないんだから」
確かにな。楽しむときは全力で楽しむって言うのはすごい大事なことだと思う。俺自身だって、ずっとつらいことばかりだと疲れちまうもんな。こうやって、息抜きをするのは必要不可欠だ。
個室の酒場とかあるんだな。よかった、男どもと同じ空間で過ごすことなんかになっていたら俺がどんな視線に晒され続けることか……絶対に胃が痛くなる未来が見える。男どもの嫉妬ほど醜いものはないからな。
「さっさと行こうぜ。案内してくれよ」
「そう急かないの。急がなくても待ったりしないから。私たちの知り合いがやってるところで顔パスなのよね。私たちが行けば普段は開放していない場所を使わせてくれるから待つことなんてないわ」
「ずるくないか? それって、店側からしてもどうなんだよ。ほんとは席として使える場所なんだろ?」
「まぁ、色々あるのよ。VIPルームみたいなものね。私たち以外でそこを使える人はほとんどいないから。私たちが行けば大抵はそこに通してもらえるわよ」
「なんかメッチャ高そうだけど……大丈夫なのか? 今回の飯だけで、金貨5枚全部消えたりしないよな?」
VIPルームなんて絶対に高いに決まっている。それ以前に個室を使うんだからその分の金額もプラスされるって考えたらとんでもない金額になっちまいそうなんだが……まだ報酬は全部受け取っていないとは言え、使い切るって言うのはどうなのかと思うぞ。
「部屋代なんてかからないわよ。知り合いだから使わせてもらえるだけだもの。もちろんただよ。私たちと一緒に行けばテンジもいつでもそこに通してもらえるわよ。どう? すごいでしょ?」
「マジかよ。俺もいつでもVIP待遇が受けられるってことか。半端ねぇな。てか、レミアたちの知り合いなんだろ? そこの経営者は冒険者じゃないのか?」
「違うわ。冒険者とはまったく関係ないわよ。私たちの古くからの知り合いね。腐れ縁みたいなものよ」
酒場の経営者と腐れ縁なんて珍しいこともあるもんだな。でも、レミアたちのこともよく知らないし、そういう交友関係があっても不思議じゃないのか? そうだよな、俺が三人について知ってることなんて滅茶苦茶可愛いことと、Eランク冒険者だってことくらいだもんな。そんな昔からの知り合いについてなんて一切知らない。というか、知ろうともしていなかったな。これからは、同じパーティの仲間として活動していくんだから、それくらいは知っておかなくちゃいけないか。
「さぁ、行きましょうか。こっちよ」
レミアに先導され俺たちは歩き始めた。
テリーヌはてっきりレミアの横について歩くのかと思っていたが、俺の方について歩いている。幸いなことに腕に抱き着かれたりとかはないので安心だ。いや、抱き着かれたほうが嬉しいか。
「ちょっときいておきたかったのだけど、テンジって何処の町出身なの? ここではないのはわかるとしても色々と不思議だったのよね。冒険者について知らないなんてこと普通に生活していたら起こらないはずだけど」
「山奥の村から来たんだ。ずっと山の中で生活してたから都会ってもんをこの目で見たくなってな。意気揚々と村を出たのは良かったんだが、金を持ってないことを忘れてたんだよ。それで焦って、金を稼ごうとして冒険者になったんだ」
即興にしては割といい感じの言い訳ができたんじゃないだろうか。これで、三人も納得してくれたらありがたいんだが……。
でも、俺の故郷に行きたいとか言い出されたらつみだな。存在しない場所に案内なんてできねぇし、行くことなんてできっこないんだからな。
「大変だったのね。山奥の村なんて想像もつかないわ。自給自足の生活よね? 私も一度やってみたいかも」
「やめといたほうがいいぞ!! うん、やめたほうがいい。俺からしても相当に大変な生活だったからな。休みなんて一日もないし、ずっと働きっぱなしだ。それが、嫌で村を出たのもあるくらいなんだからな」
「そうなの? そこまで強く言われたら覚悟を決めるのに時間がかかりそうね。軽い気持ちで言っちゃってごめんなさい」
「いいんだ。俺もレミアたちにあの苦労を味合わせたくはないからな。それよりも早く酒が飲みてぇな」
誤魔化せたか。危なかった。これで、この話は当分話題に出てくることはないだろう。ちょっとでも興味を持たれたら終わりだからな。行ったらひどい目に会うことだけアピールしておかないとまずい。絶対に連れて行ってとか言わせねぇからな。




