ギルドマスター
「私たちの番よ。ここはガツンと言ってやらなくちゃね」
「当たり前だよ。ギルドマスターをすぐ呼んでもらおう。私たちが死んでたらどう責任を取ってくれてたのか話をしておかないといけないからね」
「おいおい、最初からそんなに詰める気で行くなよ。冒険者ギルドだってわからないことくらいあるだろ。俺たちだって今日は楽しめたじゃないか。あんな経験普通じゃできないぞ? それに、俺たちはまだEランクなんだから、Sランクのモンスターと戦えたのはいい経験だったって思おうぜ。そうすりゃ、ちょっとは怒りも収まるんじゃないか?」
「そんな考えになれるわけないでしょ。戦闘を楽しんでいたのはテンジだけよ。私とテリーヌはただただ死を覚悟する時間だっただけよ。本当に怖かったのよ」
「そうだよ。私なんてちょっと涙でてたんだからね」
テリーヌよりもレミアのほうががっつり泣いてたような気もするが、ここはレミアの名誉のためにツッコむべきところじゃないな。何か言ったら俺がギルドマスターの代わりに標的になりそうだ。それはちょっと怖いな。また色々怒られるのは勘弁願いたい。
普通に考えてもあんな町の近くのゴブリンの巣にゴブリンロードが出てくるなんて思わないよな。冒険者ギルドだって万能ってわけじゃないんだし、調べれていないことくらいあってもしょうがないとは思うけど……いざ、そのミスが自分たちに当たってしまうと頭ではわかってはいても納得はできないもんだよな。
「あら? レミアさんにテリーヌさん、セラさんまで。どうしたのですか? 三人そろって達成報告なんて珍しいですね?」
「ちょっと話があるの。ギルドマスターを呼んでちょうだい」
「え? それは、本当にギルドマスターを呼ぶほどの事なのでしょうか?」
「もちろんよ。重大な事よ。だから、早くギルドマスターを呼んで。話はそろってからにしましょう。それと、ここで話すにはちょっと人の耳が多すぎる気もするからギルドマスター室にあんなにしてくれてもいいわよ?」
「わ、わかりました。すぐに話をつけてきますので、少しだけ待っていただいてもよろしいでしょうか?」
それだけ言うと、受付のお姉さんはすぐに裏の扉に消えていった。
裏にギルドマスターがいるのか。そうりゃそうだよな。ギルドマスターなんて偉い人がその辺に立っていたらおかしな話だ。校長室みたいな場所で仕事をしているほうがしっくりくる。
「これで、大丈夫そうね。後は私たちがギルドマスター室に行くことになるのか、それともギルドマスターが出向いてくるのわからないけど。どちらにせよ、早く話しておかないといけないものね」
「うん。でも、今のレミアちゃんかっこよかったなぁ。いつにも増して凛としてたと言うか。ねぇ、セラちゃん」
「ああ、レミアはカッコいいよ。これでは、私もレミアにカッコいいお姉さんポジションを奪われてしまいそうだ」
「何言ってるのよ。セラはカッコいいじゃない。たまにポンコツだけど、それも味がでていいと思うわ。まぁ、私はそんな大層なもんじゃないわよ」
確かに、さっきのレミアはかっこよかったかもしれない。ちょっと受付のお姉さんが可愛そうな気もしたが、それでもこちらだって急いで報告しなくちゃいけないんだからな。それくらいは許してやってほしい。
ギルドマスターってどんな人なんだろうな。やっぱり、おじいちゃんか? 一番偉い人って言うのはおじいちゃんって相場が決まっているからな。何にせよ、俺も緊張しないで話せるように心の準備をしておかなくちゃな。権力を持っている人と話すって言うのはどうしても緊張してしまうんだよ。だって、俺みたいな下っ端は一瞬できれちまうだろ。
「お待たせしました。ギルドマスターがお待ちです。こちらにお願いします」
走って戻ってきたお姉さんがそのまま俺たちを案内してくれた。
受付のすぐ横にある扉をくぐり、そのまま廊下を進んでいると、ギルドマスター室と書かれた表札が扉にくっついているのを発見した。
「こちらです。私は中に入って一緒に話を聞くことはできませんが、皆さんがどうしてギルドマスターに会うという判断に至ったのかは個人的に興味がありますので、また良かったら教えてくださいね」
「機会があったら話すわよ。私の口よりも先にギルドマスターの方から伝わっちゃいそうだけどね」
「それは間違いないです。どうぞ、お入りください」
コツコツとノックをし、ギルドマスターらしき声から入れという短い返事があったのを合図に、お姉さんが俺たちを部屋に入るよう促した。
「「「「失礼します」」」」
俺たちは……いや、主に俺は緊張しながらも一緒に部屋に入る。
Sランクのモンスターであるゴブリンロードを前にしたときのほうが冷静だったってのは我ながらおかしな話だよな。なんで、俺はギルドマスターに会うということくらいで緊張しているんだ? 謎すぎる。そうだよ、俺はSランクのモンスターを倒した言わば英雄だ。俺が緊張する必要なんてどこにもないんだよ。




