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茂みから

 自然を破壊してしまった罪は世界を救うことで償おうじゃないか。

 俺も人間だ、失敗することだってあるんだよ。それも、不幸なことばかり起きていてそっちに気が取られちまったからな。普通だったらこんなことしてない。絶対にしてないんだ。


「ダメだダメだ、切り替えて先に進もう。俺の進むべき道はもう決まったんだからな」


 俺は自分の肘を信じて進む。

 神のエネルギーが宿った肘が決めた方角なんだ、俺が自分で決めたって言うのは難しいかもしれないが、こっちが正解であることはほとんど間違いないだろう。俺はそれくらい確信に近いものを感じている。

 でも、森の中だと町に近づいているかどうかなんてまったくわからないからな。どうしたもんか、何とかわかる方法があればそれを試しておきたいんだが……無理だな。俺がじいさんから強化してもらったのはこの肘、一点だけだからな。周囲の状況を把握する方法なんて持ってない。


 ただただまっすぐ歩くが、すぐに森を抜け出すことは叶わなかった。


「流石に数分で抜けられたりはしないか。ちょっと期待してたんだけど難しいよな。でも、この先が一番近くの町に続いていることは確かだ。そう信じてるんだ」


 森を抜けたら町が見えるはずだ。

 森さえ抜けてしまえばすべてこちらのもの。町が見えれば一直線に進めるしな。俺は目標があってこそ実力を発揮できるタイプなんだよ。見えないものを追うのはきついよな。


 でも、じいさんの話だとこの世界ではモンスターが生息しているってことだったけど、この森なんてひと気もなくていかにもって感じだよな。その茂みからいきなり飛び出してきたりしねぇよな……考えだしたら怖くなってきた。いざとなれば俺の肘で撃退すればいいんだよな。肘に宿った神パワーを発揮してば余裕だよな? 最初の森だし、それは弱いモンスターしか出てこないはずだ。いきなり、倒せないようなモンスターが出てきてゲームオーバー何て話にならなすぎるしな。


「危ないところだった。じいさんの言葉を思い出してなかったら、モンスターの警戒なんてまったくしないところだったぞ。無警戒で襲われるのと、警戒しているところに出てくるのじゃ俺の対応も違ってくるしな」


 俺は先ほどよりも周囲の警戒を強めた。というか、警戒を初めた。

 ただ歩いていただけだったが、こうやってきょろきょろしながら歩くだけでも大分違うはず。これを町中とかでしてたら、変な奴だと思われちまうんだろうが、誰もいない山の中だったらなんの問題もないだろうな。


 ガサガサッ。


「な、なんだ!? く、来るなら来いっ!!」


 茂みからした音に腰が引けながらも反応した。

 なんなんだ? ま、まさか本当にモンスターとか出てこないよな? ま、まだ心の準備ができてないんだってぇ。どうか俺の気のせいであってくれぇ。


 ガサガサッ。


「やっぱり気のせいじゃなかったぁぁーー!!」


 俺の声と共に、茂みから小さな影がのっそりと這い出してきた。


「ぎゃぁぁーー!!! ……って、スライム?」


 無様にも悲鳴を上げて後ずさりしてしまったが、茂みから出てきたのは雑魚モンスターとしておなじみのスライム君だった。


「おいおい、スライムとは俺も舐められたもんだぜ。この程度なら、何も力を貰っていない時の俺でも倒せるぞ? ははっ、マジでビビって馬鹿みてぇだったな」


 おー恥ずかしい。なんで俺はあんなに馬鹿みたいに騒いでしまったんだ。誰かにみられてたらどうするつもりだったんだよ。でも、飛び出してきたのがスライムでほんと良かった。これが、大型モンスターだったりしたら、腰を抜かしてちびってるところだったぞ。いやいや、流石に最初に転生した森で強力なモンスター何て出てこないってわかってたんだ俺も。


 茂みから出てきたスライムは俺の方をじっと見つめてくる。

 厳密にはスライムに目はないから俺のほうを見ているかわからないが、俺にはわかる。こいつは、俺に命乞いをしているんだ。こいつもついてなかったんだ。日課の散歩をしたいただけなんだろう。なんかこのスライムと自分が重なってきちまったぞ。俺も日課の散歩をしていて、運悪くトラックにはねられて死んじまった。こいつはまったく同じ状況で運悪く俺という最強の存在と出くわしちまったんだ。もう、死を覚悟してるんだろうな。見ただけで力の差くらいわからうだろうし、モンスターである以上狩られる運命だということも本能でわかるはずだ。でも、可愛そうだ。こいつの命を奪うことなんて俺にはできねぇ。だって、こいつは何も悪いことなんてしてねぇじゃんか。俺だって、散歩に行って死ぬことになるだなんて夢にも思っていなかった。


「おい、俺の気が変わらねぇうちにどっかに行け。早くしろ!!」


 スライムに撤退を促す。どうかこれが通じてくれ。早く茂みに帰ってくれ。

 俺の祈りはスライムには届かなかった。どういう感情かは俺には理解できないが、まったくその場を動く気配がない。つまり俺と戦おうってことなのか? 無謀にもこの俺に勝負を挑もうていうのか? はっ、こいつも男だぜ。そうだよな、男には引けねぇ時ってもんだあるんだよな。いいぞ、受けて立ってやろう。俺がお前を最高の男だったって世に語り継いでやるよ。

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