そんな馬鹿な
俺たちはこの調子で巣の中をどんどん進み、既にホブゴブリンの討伐数は4匹に達していた。
「もうそろそろ、この巣も最後だろうか? もう4匹討伐してるんだから普通に考えてあと1匹ってことだよな?」
「そうね。後は、この巣のボスを倒して終了だと思うわよ。最後の部屋にいるのじゃないかしら? もしかしたら数匹くらいは護衛がついているかもしれないから気を抜かないようにね」
「ああ、任せろ。もうホブゴブリンの強さは完璧に把握したからな。問題なく最適な力加減ができるってもんだ。強すぎず、弱すぎずこの力加減が難しいんだよ。あまり威力を出しすぎても洞窟に負担をかけちまうからな」
そうして、少し進んでいると目の前に大きくひらけた場所を発見した。
きっと、あそこに最後のホブゴブリンがいるんだろう。これで、俺たちのクエストは終わったようなもんだな。でも、これじゃああんまり俺の強さはアピールできなかったな。あまりにも相手が弱すぎる。俺の力に数パーセントくらいしか出せていない。まぁ、それは言ってるし、きっと理解してくれるだろう。
「みんなちょっと止まって……なにかおかしいわ。正面にいるホブゴブリンの反応があまりにも大きすぎる……」
「ちょっとでかいホブゴブリンだろ。だって、この巣のボスなんだろ? そりゃほかのホブゴブリンよりも少しくらいでかくなくちゃ務まらないだろ」
「そんなレベルの話じゃないの。これは危険だわ。冒険者ギルドに戻って報告したほうがいいわ。すぐに戻りましょう」
「ここまで来て何言ってるんだよ」
「レミアちゃんどうしたの? スキルの検知で何かわかったの?」
レミアのスキルでモンスターの気配がわかるとかそう言うのは聞いていたが、そのモンスターのデカさもわかるのか。でも、レミアが慌てるぐらいのデカさってことなら、ホブゴブリンとしてあり得ないんだろうか?
「気が付かれるとまずいわ。小さい声で話しましょう。それと、物音は出さないようにして」
「そんなにまずい状況なのかい? 私には何もわからないんだが……」
「絶対におかしいわ。ホブゴブリンの5倍以上のサイズは確実にあるわよ。もしかしたら、ゴブリンキングかもしれないわ」
「え!? 嘘だよね? だって……え? ゴブリンキングなんてこんなところに現れるはずないよ……」
「いいから、このままゆっくり後退しましょう。気が付かれたら私たちは全滅するわ」
何か凄い深刻な雰囲気になっている。
俺だけがこの緊張感についていけていない。ゴブリンキングだからって何が問題だというのだろうか? 確かに、三人はまだEランク冒険者だけど、俺が一緒にいるんだ。たかがAランク級のモンスターとかどうでもいいだろうに。そうか、俺の力を見てないからか。そうだよな、俺の力なんて精々ホブゴブリンをワンパンするだけのもんだと思われてるのか。
「ギィギャァァァァァァァァーーーー!!!!!」
三人がゆっくり後退を始めたその瞬間、とんでもない咆哮が洞窟内に響き渡った。
「うるさっ。なんだこれ」
「まずいっ!! 気づかれたわ!! 走って!!」
レミアが叫ぶ。
しかし、もう遅かった。
ドォォン!!
「え? ……う、そ……」
俺たちの頭上をひとっ飛びで超え、入口を塞ぐように立ちはだかった。
さっきまではよく見えなかった姿が俺たちの目の前にいきなり現れた。
レミアが言っていた通りすさまじいサイズだ。これがさっきまで戦っていたゴブリンと同じって言うのはどう考えても無理があるだろ。
「終わったわ……こんなのどうすればいいのよ……」
「キャァァーー!! 何なのこいつ!? も、もう無理だよ……」
「諦めずに戦わないと。わ、私たちならできるさ」
レミアとテリーヌは絶望の表情を浮かべ、一人気丈に立ち向かう姿勢を見せているセラも声が震えている。
唯一俺だけが平然とした態度でゴブリンと向き合っている。
「ちょっと待って、こいつゴブリンキングじゃない……ゴブリンロードよ!! なんで!? なんでゴブリンロードなんているのよ?」
「無理だよ。無理に決まってるよぉぉ……」
ゴブリンロードだって? それはさっき話してたSランク級のモンスターじゃないか。俺の実力を見せつけるのにはおあつらえ向きな相手だな。いやいや、神様もいい演出をするじゃないか。ここで、俺がかっこよくこいつを倒して三人にパーティに歓迎してもらえるって話だろ。Sランクモンスターを倒せる男ならテリーヌだってパーティに入れてくれるだろ。
テリーヌなんて、ゴブリンロードを目の前に泣き出しちゃってるからな。
レミアも半泣きだし、セラに関しては倒れて失神している。
「ガギギャァァァーーー!!!」
「だからうるさいって。ほら、三人が怖がってるじゃないか。ここは俺の出番だよな? なぁレミア?」
「え? テンジもしかしてゴブリンロードと戦う気? 無理よ、こいつは単体でもSランクの強さを持ってるのよ。もう無理なのよ……私たちはもう終わり……」
「諦めんなって。いやぁ、三人はほんとに幸運だな。こんなの俺が居なかったら確実に全滅だったな。まぁ、任せとけって」
これでいい感じに決まったな。後は、こいつを倒すだけだ。とはいえ、この洞窟内の状況でどこまで力を入れていいものやら。




