一撃だよな
「すっごい、今更の話なんだけどさ。このクエストってホブソンズ5匹の討伐だろう? ということは巣を壊滅させないでもクエスト達成という事だったら5匹討伐した時点で帰っていいのか?」
「問題はないわね。一応冒険者ギルドに入っている情報としてこの巣にはホブゴブリンが5匹居るって言うことでしょうから、必然的に巣は壊滅状態にすることになるわ。でも、それでいいわけ? ここのゴブリンを見逃したら私たちの町にも被害が出る可能性があるのよ? それなら、報酬も増えるのだし、壊滅させない手はないでしょ」
「それもそうだよな。ちょっと気になっただけなんだ。俺も完全に巣を壊滅させるつもりだったんだぞ。でも、ふと疑問に思ってな」
「まぁいいわよ。私たちも無理しない程度にっていうのが前提にあるわ。今日の戦力なら楽勝だろうから、最後までケリをつけて帰りましょう。ゴブリンキングとかゴブリンロードがいない限り問題ないわ」
なんか強そうな名前だな。でも、所詮はゴブリンなんだろ? というのが先に来ちまうな。もしかしたらとんでもない高危険度のモンスターなのかもしれないが、知らない俺からしたらちょっと名前のかっこいいゴブリンでしかない。つまり、恐れるに足りないってことだな。
しかし、この洞窟はジメジメしてるな。なんか不気味だし、俺が持ってきたアンデット系のモンスターしか出ないダンジョンと大差ないんじゃないのか? 匂いも決していいにおいではないしな。ゴブリンどもの悪臭が漂ってこないだけまだマシなのかもしれないが、奥に進めばそうも言ってられないんだろう。勝手にゴブリンは臭いもんと決めつけているが果たしてどうなのだろうか? その答えはもうすぐわかるな。
「ゴブリンキングなんて居たらこのクエストの危険度がBやAになっちゃうよ。ゴブリンロードなんて町全体に緊急クエストが発令されちゃうね。特殊個体見ないな感じだし、相当特別な環境下じゃないと出現しないみたいだけど。でも、いないのはわかっててもやっぱりちょっと怖いね」
「怖いなんてテリーヌも可愛いところあるじゃないか。まぁ、ほんとに出てきたって俺が討伐してやるよ。怖かったら俺に抱き着いて泣いててもいいんだぞ?」
「ぶちのめすよ?」
ちょっと軽口を言っただけなのに、ガチの顔でこれである。
ゴブリンロードなんかよりよっぽどテリーヌのほうが怖いって。マジで、殺されるんじゃないってくらいの目力だ。ありがとう、俺の人生。
「冗談だって。でも、ほんとに出てきたとしても俺が討伐してやるって言うのはガチだぞ。所詮はゴブリンだからな」
「テンジはモンスターを舐めすぎね。ゴブリンロードなんて危険度Sランクの超危険モンスターよ。数万のゴブリンを率いる姿は、まるで軍隊って聞いたことがあるわ。単体でも信じられない程強いらしいわ」
「そりゃすげぇな。でも、そんな大量のゴブリンなんてこの洞窟にいるわけじゃないじゃないか。つまり、ゴブリンロードはいないってことだろ? ならテリーヌも安心だな」
「ほんとにぶちのめすよ? 次はないから」
「す、すいませーーん!!」
俺は光速で謝った。
テリーヌの顔が怖すぎた。ゴブリンロードなんて目じゃない。テリーヌはSSランク級の怖さだ。
「そろそろ気を引き締めるわよ。近くに3匹反応があるわ。二匹はゴブリンで一匹はホブゴブリンね。いける? テンジ」
「ああ、今の俺に怖いものなんてないさ」
レミアが指示した方向へ足音を殺しながら移動する。
ほぼ走るような速度で走って、距離を詰めたところを俺のエルボーでフィニッシュだ。
「おら、おら、おらぁぁ!!」
バンッ!! バンッ!! ドゴォん!!
見るからに体のでかさが違ったホブゴブリンには、念のため少し威力をあげた一撃をお見舞いしてやった。
それでも、すべてのゴブリンが一撃でこの世を去ったな。俺のエルボーはまだまだこんなもんじゃないぞ。まだ、全力の1割未満だからな。完璧に力を制御できているわけじゃないから厳密にはどれくらいの力を入れているかわからないんだけどそれくらいだろう。
「ホブゴブリンも一撃で? ほんとにこの人は強いの? レミアちゃんの言っていることはほんと?」
「だから言ったでしょ。それに、私が見たときの威力よりも全然しょぼいわよ。ねぇ? まだ全力じゃないんでしょ?」
「当たり前だって。洞窟のなかで全力なんか出せないっての。全力出したら地上でも地形が変わっちまうぞ?」
「ハハッ。これは本格的にパーティに勧誘しないといけないんじゃないかな? テリーヌも見直し始めてるんじゃないかい?」
「まだまだだって。私たちだけでもホブゴブリンくらい倒せるよ。それなのに、わざわざ男の人の力を借りる必要なんてないんだから」
俺のアピールはまだ足りていないってことか。もう少し威力をあげても洞窟は平気そうだし、こりゃ威力をあげる必要があるな。都合よく、ゴブリンキングくらいが出てきてくれれば俺の力の証明にはピッタリなんだけどそううまくもいかないよな。




