洞窟へ
一時間近く歩くとなると数キロくらいの距離があるってことか。でも、ゴブリンの巣が町の数キロ範囲にあるって考えたらやばいと思うんだけど、それは俺がこの世界の考えがわからないからなのかもしれないな。俺の感覚だと、近くのスーパーみたいな距離感にゴブリンの巣だもんな。やばいじゃないか。いつでも襲われる可能性を秘めてるんだぞ? どう考えても安心して生活できないだろ。こりゃ俺がこの町の平和を守らないといけないな。俺の肩にこの町の平和が乗っているんだ。
「馬車でも借りたほうが良かったかしら? 片道一時間の往復二時間かかっちゃうのよね。なかなか体力を削られちゃうわ」
「それは贅沢だね。私たちは冒険者なのだから自分の足で歩くべきだ。今後もお金が必要になる場面も多いからね。私たちはもっと上を目指しているんだろう? それなら、こういう時はお金に頼るのはやめるべきだろうね」
「ごめんなさい。なぜか歩くのがきつく感じちゃったの。そうよね、私たちの今後のためにここは自分の足で歩くべきよね」
「反省できて偉いよレミアちゃん。その調子でこの人をパーティ誘ったことも反省して改めようね」
さらっと俺を誘ったことを悪かったことみたいにするのやめような。
なぜ、俺はこれほどまでにテリーヌに嫌われているんだろうか? 俺が嫌われているんじゃなくて男が嫌いって言う可能性もあるか。いや、そっちの可能性のほうが高いよな。そうだそうだ、俺が嫌われてるんじゃない。ただテリーヌは男嫌いなだけなんだよ。危なかった俺自身が嫌われてるんじゃないかと思って、自分を追い詰めちまうところだったじゃないか。
「テリーヌもテンジの実力を見たら、きっと驚くはずだからもう少し我慢しててちょうだい。男だからどうとか関係なくなるわよ」
「絶対あり得ないんだけどなぁ」
どうしても俺をパーティに加入させたいレミアとどうしても俺をパーティに入れたくないテリーヌの激突だな。俺はできれば入れてもらいたいな。こんな美少女たちがそろったパーティなんて金輪際入れる可能性は無いだろうし、というかこの三人以外に存在していない可能性も高いな。もしかすると、美少女たちがいるパーティ自体はあるのかもしれないが、男が一人もいないって言うのはあり得ないんじゃないか?
「やっとついたわね。案外疲れるものだわ。疲れないようにゆっくり歩いたつもりだったのだけど、この距離歩いたら疲れて当然かもね」
「私はまだまだ余裕だよ。日頃から鍛えてるんだから。これくらいで疲れたりしないよ」
「テリーヌも余裕そうだけど、セラも全然息も乱れたないわね。ほんと、二人は凄いわ。ちょっと見て見なさいよ。テンジの疲れよう、まるで全力疾走でもしてきたみたいになってるわ」
「……悪いな、マジで体力には自信がないんだよ。ここまでとは自分でも思ってなかったんだけどな、レベルアップすればこれも大丈夫になるよな? 毎回毎回こんなに疲れてたら冒険者なんてやってられないって」
「確かにレベルアップすれば基本的な能力値は向上するわよ。それでも、自分の元の能力値が影響してくるから、自分自身を鍛えることも忘れちゃダメなのよ。例外として、圧倒的なレベルがあればそれも関係なくなるのかもしれないけど、そんなこと無理に決まってるからテンジも明日からトレーニングしなくちゃね」
マジかよ……レベルアップすれば何もかも解決するんじゃないのか? なんで、体を鍛える必要なんてあるんだよ。そんな面倒なことしてまで体力つけたくなんてないんだよ。モンスターを討伐して、金を稼ぎながらレベルをあげる。この、完璧な流れが今の情報によって崩壊してしまったからな。なんてことだ、俺の完璧な計画が……おとなしく体を鍛えておかないといけないのか。
俺たちは今、洞窟が目視で確認できるところで一旦止まっている。
遠くからでも確認できるが、洞窟の前には見張りらしきゴブリンが二匹立っているんだよな。はたして、こいつがゴブリンなのか、ホブゴブリンなのかは俺にはわからないが、どちらにせよ討伐しなくちゃいけないってことには変わりないんだよな。
「見張りのゴブリンはどう処理するんだ? 俺が正面から行ってやっちまおうか?」
「ダメに決まってるでしょ。そんなことしたら、騒がれて仲間を呼ばれちゃうわ。ここは、できるだけばれないように近づいてから、一瞬で討伐しないといけないわ。テンジには難しいだろうから、私かセラがやるわね」
「俺をあんまり舐めてもらっては困るな。要するに、騒がれる前にやっちまえばいいんだろう? 俺にだってできるさ、後ろからゆっくり近づいて一撃でドカンッ!! これで完璧だ」
「ほんとに? セラとテリーヌもその作戦でいいかしら? 万が一テンジが失敗したときのために私とセラでサポートに入りましょうか」
必要ないといいたいところだが、そこまでして拒否するのも変な話だよな。俺だって、初めての挑戦だし失敗する可能性くらい少しはあるんだ。ここは、素直に甘えるとしようかな。




