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神の肘

「ここは俺の勘がすべての頼りってわけか。一体どの方向へ進めばいいものやら……ってか、俺の不幸はこの世界に来てもまだ継続しているのか? それがわからないことには、俺がそっちだって決めた方向に正直に進むことはできねぇよな」


 ついていないままの俺ならば確実に一番の大外れの方角を選んでしまうに決まっている。そんなことになっちまったら、異世界で野垂れ死になんてのもあり得るぞ。

 やべぇ、考え始めたら自分で選ぶのが怖くなってきたぞ。こういう時は棒を天に向かって立て、すべてを神に任せるのがいい案だよな。でも、俺はついていない可能性があるんだぞ。一番運に任せちゃいけねぇじゃんかよ。でも俺の右ひじには神が宿ってるしな。肘で決めるか。もうそれしかねぇよな。


「いざ肘で決めるとは言いつつもどうやって決めればいいんだ? 目をつむって肘の指したほうに進むか……名案だな。それしかねぇよ」


 俺はゆっくりとその場で目をつむった。

 今俺が考えることはこの世界で順風満帆な人生を送るイメージだ。そのイメージを現実にするために何処へ向かえばいいのかをこの肘に決めてもらうんだ。折角異世界に転生したんだ、少しでも楽しい人生を送りたいって思うのは当然のことだろう?


「よし、こっちに決め……ようか……ちょっと待てよ。今俺は目をつむって目の前に肘を突き出したよな。なら、それは俺が目をつむる前に見ていたほうを指しただけじゃねぇか」


 とんでもないことに気が付いてしまった。俺はなんて馬鹿なんだ。そのまま前に肘を突き出したらそのまま向いている方向へ進むことになっちまうじゃねぇかよ。そんなの肘が決めたって言えるのか? 俺が決めてしかねぇよな。


 一端仕切りなおそう。

 そうだ、俺自身が回転すればそれはもう俺の意思なんて介在する余地もねぇ。それでこそ真に肘に宿った神が決めたって言えるだろう。さっそく回転だ。俺は回るぜ。


「くるくるっと。これで完璧だ。後は肘を突き出したタイミングで止めれば……ここだぁぁぁーー!!」


 俺は小気味いい叫び声とともに肘を突き出した。


 ズガァァン!!


「なんか凄い音がしなかったか? いや、気のせいだよな。だって俺の周りには誰もいなかったんだし」


 閉じていた目を開ける。

 目の前には当然木が飛び込んでくるはず……おっと、木が何者かに薙ぎ払われてるぞ。


「誰がこんなひどいことを!?」


 すぐに周囲を見渡してみたが、人っ子一人見当たらない。

 目をつむっていた間に誰かがやってきたような感じもまったくしなかった。つまり、これは完全犯罪というわけだ。この場で木をなぎ倒すという無慈悲な犯行が可能な人間が存在しない。唯一可能だというのならば、それは俺くらいのもんだろう……てか俺にしかできねぇよな? でも、俺にこんな木をなぎ倒したりするほどの力なんて……


「待てよ。今俺は神が宿った肘を勢いよく突き出したよな。もしかしたら、その衝撃波で木をなぎ倒しちまったんじゃないか? 確か、すごい音が下のも俺が肘を突き出したタイミングだったし、それしか考えられねぇ」


 とは言いつつも、確固たる確証があるわけでもない。

 俺が犯人というのならば証拠を用意してもらおうかと言いたいくらいだが。残念なことにもう一度目を開けた状態で同じことをしてみれば、俺に犯行が可能かどうかを判断することができてしまう。


 試してみて大丈夫なのか? もし、俺が起こした衝撃でこんなことになっちまったて言うんだったら俺はどう責任を取ればいいって言うんだ? 目の前に無残になぎ倒されている木は数本ではない。10は軽く超えているだろう。これほどの木を弁償する金なんて俺は持ち合わせていない。金すら持っていない。ならば、これはみなかったことにして現場を立ち去るのが得策じゃないだろうか。そうすれば、目撃者だって誰もいない。もちろん、直接触ったわけでもないので指紋も残らない。完全犯罪の完成だ。


「いや、でも俺は誠実な人間だ。もしかしたら自分が犯人かもしれないって言う状況で逃げ出すなんてことはできねぇ。しょうがないよな、もう一度試してみよう」


 俺は今度はしっかり目を開けたまま、同じように肘を前に突き出した。


 ズガァァン!!


 すさまじい音と共に、俺の肘から衝撃波が吹き荒れた。

 それは、倒れていた木をさらに吹き飛ばし、奥へと進んでいった。


「こりゃ俺だわ。自首しよう」


 恐れていたことが現実となってしまった。悪気はないと言ってもそれでも俺は犯罪を犯してしまったんだ。この場所では誰も見ていないし、俺が黙っていれば誰もわからないことかもしれない。でも!! それでも、俺は自分に嘘はつきたくないんだ。


「ひとまず、町を目指して進もうか。神の肘はこっちだって言ってたことだしな。すべては町についてからまた考えよう」


 ここで一人懺悔していても何も変わらないし、解決だってできない。この森の持ち主にしっかり謝って事情を説明しよう。そうすれば、きっと許してもらえるさ。

 俺は薙ぎ払われた木を超え、まだ見ぬ町へと歩き出した。

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