おにぎり
やっちまった。すぐに準備しないとレミアたちに置いてかれちまうって。置いてかれたら冒険者ギルドにたどり着けないんだよな。というか、服はあるのか? このままいけないって……あった。部屋の端っこに服が畳まれて置かれている。これも、最高の宿のなせる技なのか。俺をまったく起こさずに服だけをいつの間にか持ってきているなんてとても人間にできる技じゃないぞ。
「よいしょっと、さっさと服を着替えて」
手早く身支度をすませていく、このあたりは学校で訓練されているから慣れたもんだ。すぐに終わる。
「悪い、マジでごめん」
「やっと出てきたわね。もう約束の九時はとっくに過ぎてるわよ。ほら、セラとテリーヌは外で待ってるから早くしなさい。ほんと、初日からこんなことじゃ先が思いやられるわ」
「返す言葉もないな。こればっかりは百パーセント俺が悪いからな。以後気を付ける」
見た感じの感想だが、レミアはそれほど怒ってないように感じる。
レミアとか本気で怒らせたらマジで怖そうだし、これくらいのもんじゃないだろ。知らないけど、顔の怖さだけで人を殺せそうだ。美人は怒った顔が怖いって言うもんな。
「もう飯とかは済ませてるのか? 俺まだなんだけど……」
「当然でしょ。準備してまってないさいっていったわよね? それが、まだ寝てるなんて……」
「お客様、こちらのおにぎりを持って行ってくださいませ。こう言うこともあろうかと準備しておきました。どうぞ」
「え? マジですか? 流石女将さん!! ありがとうございます。これなら、ギルドに向かいながらでも食べれます」
「喜んでもらえたようで良かったです。では、今日もうちに泊まって行ってくださいね。帰りをお待ちしております。行ってらっしゃいませ」
宿を出ようかというタイミングで女将さんが俺におにぎりを渡してくれた。
こんなに気が利く宿がほかにあるのだろうか? おにぎりって言うチョイスがまたいいよな。マジで素晴らしいと思う。
「やっと来たよ。レミアちゃん、何があったの? もしかして、寝ぼけてて襲われたりしてないよね? もしそうだったら、今すぐ騎士団に突き出すから正直に教えて」
「俺は変態か!! ごめんなさい、ただの寝坊です。誠に申し訳ございませんでした」
「ハハッ、誰にも失敗くらいあるさ。私も寝坊くらいはしたことがあるよ。気に病む必要はないね」
「セラちゃんも甘いって。これは重大な減点だよ。もう既にマイナス百点だね。不合格でいいんじゃないかな?」
「実力以外のところの採点が多すぎないかそれ。そこは、大目に見てくれよ……いや、ほんと悪かった」
俺が言い訳じみたことをしていたところをテリーヌから睨まれた。
怖かったよ。なんで俺はこんなに怒られなくちゃいけないんだ。そんなに睨まなくてもいいじゃないか。レミアからも怒られたんだし、もういい加減許してくれてもいいだろ。俺だって、悪気があって寝坊したわけじゃないんだよぉ……。
「もういいからさっさと冒険者ギルドに向かいましょう。こうしている間にも優良なクエストがなくなって行っているのよ。私たちのパーティランクだと行けるクエストも限られてるし、急がないと」
「そうだね。まだ、Eランクだもんね。もっと頑張らなくちゃ」
「私はもうDランクに上がってもいい頃合い何じゃないかと思うんだ。ギルドマスターに直談判してみようか?」
「やめときなさいよ。ついこの間Eランクに昇格したばっかりじゃない。正気を疑われるわ。それに見合う実績だって残してるわけじゃないじゃない。でも、それも今日で終わりよ。何といっても期待の新人、テンジを獲得したのだからね。私たちがDランク冒険者になる日も近いわ」
俺は期待されているのか。ほんとレミアだけは俺をパーティに入れてくれる気満々なんだよな。
これくらい、ほかの二人も歓迎してくれたら俺も大喜びでパーティに入るんだけどなぁ。なんせ、ゴミを見るような目で見られるからな。いや、まだネガティブになるな。俺はまだ、実力を見せてないじゃないか。それでも、ダメだったら諦めるって決めただろ。
「4人で報酬を割るとなるとかなり寂しいことになるんじゃないか? 銀貨一枚とかだと一日過ごすのも怪しくなってくるけど……」
「もちろん報酬の良いクエストに行くわよ。昨日は初めてのクエストかつ、二人だったからあの難易度だったのよ。今日は、フルメンバーなの。これなら、もっと難しいクエストだっていけるわよ」
「いいね。私も賛成だ。難しいクエストをクリアしてこそ冒険者だ。一番報酬の高いクエストに行こうじゃないか」
「ダメだって。いきなり無理したら私たちでも大怪我しちゃうよ。セラちゃんがいるとは言っても、限界があるだろうしね。堅実にいかなくちゃ」
セラはちょっと戦闘狂な一面があるのか? それに比べてテリーヌは慎重派だな。俺もどっちにも賛成してあげたいところだが、ここで下手に意見を言うことは俺の評価を下げることに直結してしまうからな。無言が正解だ。




