後は待つだけだ
「なんでレミアちゃんの横に座ってるの? 貴方はそっちの床に座ればいいよね?」
「え? 流石に俺もちょっと驚きだけど……」
「テリーヌやめて。床に座るなんてできるはずないでしょ。それに、目だって恥ずかしい思いをするのは全員よ。あまりにも変人グループ過ぎるわ。そんなことになったら私は違う席に座るわよ」
「そんな、ダメだよ。嘘だから、近づかないって言うんだったら横に座るくらいは許すから」
「皆さんがどういう状況かわかりませんが、全員で取り合うのはパーティ崩壊の始まりですよ。気を付けてくださいね。それでは、注文が決まりましたらまたお呼びくださいね。ごゆっくり」
すさまじい勢いの女の子だな。一応、知り合いみたいだけどこれもレミアたちが常連だからってことだよな。
それにしても、今日だけで何回この勘違いをされるんだ? 俺じゃあ、この三人とは釣り合わないだろ。主に顔が。
「レミアちゃんも災難だね。やっぱり、この人をパーティに入れるのはやめたほうがいいんじゃないかな?」
「このくらい別にどうってことないわよ。勘違いされたのだったらそれを正せばいいだけでしょ。何も問題ないわ。というか、なんで誰も喋ってくれなかったのよ」
「私はレミアとテンジがどうこうという話は信じてないから。そもそも、あり得ない話だろう? それなら、否定しなくてもすぐに誤解は解けるさ」
「私はレミアちゃんが取られた見たいで悔しくて……やっぱり今のなしで。私からレミアちゃんが取られるわけないもの」
まぁ、全力で否定したりしても逆に怪しいからな。
俺は無難に静観だったな。そこに割って入るようなコミュニケーション能力も持ち合わせていないからな。下手に話に入ったところでごちゃごちゃしちまうだけだろう。
「なんで、テンジを全員で取り合うって言う話になるのよ。二人とも、今の聞いてなかったの? 他人事じゃなくなってるのよ? アムリから噂が広がって行ったら、私たちはテンジを三人で取り合っているパーティということになるの。絶対に避けないといけないわ」
「私にそんなつもりはないからね。言いたい人には好きに言わせて置けばいいんだよ」
「私も気にしないかな。それくらいで動じる私じゃないのさ」
二人は気にしないと言うが、俺も当事者の一人なんだよ。絶対に、男の冒険者どもから陰湿な嫌がらせを受けるに決まっている。嫌がらせ程度ですめばいいところなのだが、この三人は美少女だし、冒険者パーティーとしては珍しい女性のみのパーティだからな。それを俺がハーレム状態にしているみたいな噂が広がれば疎ましく思う連中は大勢いるだろう。というか、俺も逆の立場だったら消し去ろうとするかもしれない。ということで、とてつもなく危険な状態に陥ってしまうということだ。なんとしても、誤解を解いて噂が広まるのを阻止しなければ……いや、待てよ。噂がどうのこうのという前に俺がレミアたちのパーティに入った瞬間に同じような状況が発生してしまうよな。それじゃあ、一緒じゃないか。美少女三人のパーティに一人男がいる。それだけで、強烈な嫉妬の対象だろ。
パーティに入ってもできるだけ目立たないように行動しないといけないな。それか、滅茶苦茶目だって高ランク冒険者になれば俺に手を出そうなんて奴も居なくなるかもしれない。こっちのほうがいい気がするな。この作戦で行こう。
「ちょっと、テンジ。聞いてるの? 何食べるか決めた? もう、私たちは決まったわよ」
自分の頭の中で全力を出していた俺は、集中しすぎてしまっていたようだ。
軽く覗き込むような体勢のレミアが上目遣いでとてつもなく可愛い。いやいや、そんな場合かよ。
「俺はレミアが最初に言っていたかつ丼にする。聞いた時から凄い美味そうだったんだよな」
「オッケー。量はどうする? 普通、大盛、特盛まで行けるわよ。お腹空いてたって言ってたし、特盛でいいわよね?」
「ああ、それで頼む」
これで、全員が決まったようで、レミアが呼びベルを押した。
「はーい、注文は決まりましたか? 修羅場お疲れ様です。食事の時くらいは楽しみましょう」
アムリがやってきて、また同じように茶化すようなことを言ってくる。
レミアも適当にあしらいながらつつがなく注文を終わらせた。
「それでは、少々お待ちください。あっ!! 喧嘩して店を壊さないでくださいよ。美少女が争うさまは眼福ですが、この店に努める一バイトとしては止めないといけませんからね」
「だから、勘違いだって言ってるでしょ」
アムリはそれだけ言うと、すぐに厨房のほうへ帰って行った。なんというか、ほんと思い込みの激しい騒がしい子だな。
まぁ、今はかつ丼だ。俺の焼き鳥につぐ、第二の食事だからな。妙に慣れ親しんだ料理ばかりの気もするが、美味しけりゃオールオッケーだな。それに、特盛を注文しているからな。この世界の特盛の量とやらを俺が見定めてやろう。これでも、かなり食べるほうだからな。簡単に完食しちまうかもしれないな。




