俺は奢りなら無限に食うぞ
「どこに食べに行くんだ? 俺はできれば腹いっぱい食べれるところがいいんだけど」
「私たちの行きつけの店よ。あ、勝手にいつもの店に向かってたけど、二人は良かった?」
「いいよ、私もあそこの店は大好きだ。それに、テンジの要望通りお腹一杯食べることができるだろう」
「私も異論ないかな」
俺以外の賛成で行く店は一瞬にして決まった。
三人ともが好きな店ということは相当期待できるだろう。ただ一点だけ不安なところをあげるとするならば、三人とも女の子というところだな。俺はがっつりしたものを食いたいが、女の子はサラダとかを好む可能性がある。もちろん、詳しいことは俺にはわからない。単純に人生の経験不足だな。勝手な妄想ということもあるだろうけど、これでサラダ専門店とかに連れていかれたらたまったもんじゃないんだよな。
「俺も別に何処でも構わないんだが、そこの店って何が食べられるんだ? 俺が腹いっぱい食べられるって言うことはそれなりにボリュームもあるんだろうけどさ」
「メニューは豊富よ。丼物が美味しいわ。私のおすすめは、レガー豚のかつ丼よ。これは絶対に食べてもらいたい一品ね。サクサクの衣で揚げたカツが最高なのよ。量も自分で大盛とかにできるから安心していいわ」
まさかのかつ丼。異世界でかつ丼を食うことになるとはな。とは言っても、使っている豚の名前は聞いたこともないし、俺の慣れ親しんだものとは別物である可能性もまだ少しだけではあるがありそうだ。
丼物が美味しいということは天丼やステーキ丼、生姜焼き丼とかまであったりしてな。流石にそこまで求めるのは異世界に酷ってもんか。俺も目新しいものを食べてみたいって言う気持ちはあるからな。慣れ親しんだ物よりも新しいものに挑戦してみたい。でもかつ丼は食べよう。絶対に美味しいに決まってるからな。
「テンジのパーティ加入前祝いで今日は私が奢ってあげるから好きに食べていいわよ。お腹一杯食べても銀貨1枚程度だろうし、私に任せなさい」
「ほんとか? マジで助かる。今日の報酬を一日で全部使っちまうのは気が引けたんだよな。いざという時のために金は手元に持っておきたいし、レミアは最高だぜ」
「私はまだパーティに入るのを認めてないよ。レミアちゃんはいつも気が早いんだから。それに、お金は大事に使わないとダメだよ。私たちだって余裕があるわけじゃないんだからね」
「テリーヌの言うことにも一理あるが、ここは先輩冒険者として奢ってあげるべきだと私も思うな。それくらいは許されるだろう? 私たちも散々先輩方にはお世話になったじゃないか」
「うぅ……そう言われると反論できないよ。わかった、でもあくまでも先輩として奢るだけであって、パーティ加入を認めたわけじゃないってことは覚えておいてよね」
なぜか俺は奢ってもらえることになったみたいだ。
この世界でも先輩は後輩に飯を奢る習わしがあるんだな。俺もいずれは後輩に飯を奢れるような先輩冒険者にならなくちゃいけないのか……まぁ、一瞬だろうな。すぐに、高ランクの冒険者になっちまって、レミアたちに奢ることになるかもしれない。でも、それは後輩じゃないからまだまだ俺が奢ってもらわないとおかしいか。いくら俺の冒険者ランクのほうが高かろうが後輩には変わりないからな。
「もうすぐ見えてくるわよ。目立つ看板だからテンジも次からは自分で来れるようになると思うわ。味も値段も両立してるところがここのいいところなのよ。冒険者の中では知らないものがいないほどの有名店なんだから」
「そんなに人気なんだったら人とかも滅茶苦茶多いんじゃないのか? 並んだりしないのかよ」
「その心配はないわ。店は広いし、一番混雑する時間からはかなり外れてるから大丈夫よ。それに、冒険者たちがクエストに成功したときは大抵酒場で飲むものだから、こぞってこの店に来るわけではないわ」
「そうなのか。それじゃあ、俺たちも酒場に言ったほうが良かったんじゃないか? 一応、クエストをクリアしたわけだしな」
「酔っぱらってレミアちゃんに手を出そうものなら、問答無用で頭をたたき割るけどそれでもいいんだよね? 普通、今日会ったばかりの男女が一緒に酒場に言ったりしないんだから」
それもそうか。よっぽど意気投合したとかでもないかぎり、いきなり酒場に誘うのはおかしな話か。
そもそも、俺は奢ってもらう立場なんだし、店を選ぶ権利なんてないよな。とはいえ、この世界では酒が飲めるのだろうか? また年齢制限などという煩わしいものがあるんじゃないだろうな? よしっ、決めたぞ。俺がどでかいクエストを達成したら、酒場で酔っぱらうまで飲んでやる。実は俺は酒豪という可能性もあるからな。酒ってどんな味がするんだろうな。実際に飲んだことはないが、みんな美味しそうに飲んでいたからな。さぞかし美味いんだろう。おっと、俺としたことが関係ない酒に気を取られすぎちまってたな。とりあえず今日は飲まないんだ、考える必要なんてなかったな。




