宿決定
「見張るという意味でも私たちも同行したほうが良さそうだね。テリーヌはどうするんだい？」
「もちろん、私も一緒に行く。レミアちゃんがこの人の毒牙にかかるかもしれないって言うのに、部屋で呑気にしてられないよ。私が目を光らせている間は絶対に安全だからね！！」
「二人とも……もういいわ。一緒に行きたいんだったら来てもいいわよ。その代わり邪魔はしないでよね」
なんだかんだこのメンバー全員で行くことになりそうだ。なんとも前途多難なことやら。
俺もずっと監視されるって言うことかな。マジで勘弁してくれよ。どう考えても俺がそんなことするような奴には見えないだろ。なんというか陰の気を纏ってるだろ。
「テンジの所持金的にはどのくらいなんだい？ 私たちが三人そろえばそれなりにこの町の宿のことはわかるはずだ」
「ああ、夕飯を食べることを考えたら銀貨一枚程度かな。安いのなら安くて全然構わない。汚いからと行って文句を言うつもりもないしな」
「それなら私がいい場所を教えてあげましょう。汚いのが気にならないんだったら、ただで泊まれる宿を知ってるから。あそこの豚小屋でいいよね？ だって、何処でもいいんでしょ？」
こいつマジで張り倒してやりたい。
誰が汚くてもオッケーって言って豚小屋を進めてくるんだよ。汚いにも限度ってもんがあるし、金は一応持ってるんだよ。これもあれだな、テリーヌが美少女じゃなかったら手が出てたな。俺もまだまだだ、精神的に成長しなければならない。
「勘弁してくれよ。普通の人間が泊まる宿にしてくれ」
「テリーヌ、今のは冗談よね？ まさか本気で言ってたりしないわよね？」
「もちろん冗談だよ。でも、その人が豚小屋でいいって言ったら泊まらせてたけどね。あーあ、折角ただで泊まれる場所を教えてあげたのに」
こいつ悪魔だ。友達に対してはどうなのか知らないが、男に対しての態度は悪魔そのものだ。
絶対に信用しないようにしよう。平気な顔してとんでもない嘘をついてきそうだ。騙されたらただじゃすまないようなことも平気で言ってくるんだろうな。あんまりだって……。
こんなしょうもないやり取りばっかりしてたら俺の泊まる宿なんて見つかるはずがない。
なんとか、宿を探すほうへ軌道修正しなければ。
「テリーヌもあまり嫌悪感を出すのはやめようか。私たちはまだテンジを見極める段階なんだ。それでは、公正な判断ができないだろう？ いつもの優しいテリーヌに戻ってくれないかい？」
「セラちゃん……ごめんね。でも、男の人ってだけで……その、苦手というか。レミアちゃんが取られちゃうかもしれないって考えるともう駄目なんだよ」
「心配しないでも私がテンジに取られるようなシチュエーションが来ることはないから。でも、もしかしたらテリーヌがこのままの態度を貫くって言うのだったら諦めてテンジとパーティを組むかもしれないわね」
「それさっきも言ってた……うぅ、絶対レミアちゃんは渡さないんだから」
「俺もその気はないから安心してくれよ。レミアと二人のパーティを組んだところでバランスが悪すぎるだろ。前衛とウィザードだったっけ？ サポートする奴が一人もいないんだったらそれはもうソロで戦うのと変わらないだろ」
俺は別に鬼じゃないからな。テリーヌがレミアを連れて行かないでって言ってるのに連れて行くような真似はしないし、そもそもパーティを組むメリットが激減しちまうからな。
「ちょっと考えてみたんだけど、そこの宿とかいいんじゃないかな。たしか、銅貨８枚で泊まれたような気がするんだ」
セラだけは俺の宿のことを考えてくれていたようだ。
見かけだけじゃなくて、性格もイケメンなんだな。でも可愛い。
「そうなの？ 私は知らなかったわ。いいんじゃないそこで。私たちの泊まっている宿の目の前だし、クエストに行くときに合流しやすいわ。そこに決めましょう」
「そうだな、特にこだわりもないしここで決めることにする。マジでありがとう。こんなあっさり決まるなんて思ってなかった」
「礼には及ばないよ。これくらい当然のことをしたまでさ。それと、良かったら私たちと夕飯を食べに行くのはどうだろうか？ まだ色々と聞きたいこともあるしね」
「いいのか？ 俺が一緒に行っても邪魔じゃないか？」
「邪魔だよ。セラちゃん何言ってるの。まさか、セラちゃんまでこの人の術中に？ 大丈夫、私に任せて。私だけは何があってもかからないから」
「そんなことしてないっての。何だよ、俺は洗脳でもできるスキルを持ってるのかよ。生憎だが、スキルは一つしか持ってないんだよ」
「セラがそう言ってくれて助かるわ。明日の打ち合わせくらいは軽くしておきたかったのよね。テリーヌもいいでしょ？ これくらいは判断するのに必要だと思うわ」
「……うん、わかったよ」
俺はそのまま、宿の中へ入り手早く部屋を抑えた。運よく、一室だけ空いているということだったのでこれで完全に決まりだ。
そして、飯を食べに行くことになった。
