鉢合わせた
「レ、レミアちゃんがお、おと、男とぉぉーー!!」
「落ち着いて、テリーヌ。きっと道を聞かれただけさ。レミアは優しいからね、親切に対応してあげてるんだよ」
「そ、そうだよね……私、早とちりしちゃったよ。レミアちゃんが男といるってだけでこんなに取り乱しちゃって、まだまだダメダメだね」
最初に気が付いた子は自分よりも取り乱している子を見て少し冷静になってるな。
わかるなぁ、でも自分よりも取り乱しているやつがいるとやけに冷静になれるんだよ。どういうわけかいまいちわからないんだけどな。
「あ、えーと、二人とも奇遇ね。もしかして今帰り?」
レミアが気まずそうにしながら二人に話しかける。
ここで、下手に俺との関係性を見せないあたり完璧な対応なんじゃないだろうか。もう、道を聞いてただけだって行って立ち去ったほうがいいのでは? そうしたほうがこの場では何も起きずにすむよな。さっきの反応を見る限り、絶対に簡単に納得してくれないことだけはわかった。もっと作戦を練り直したほうが良いに決まっている。
「色々買い出しに行っていたんだよ。その帰りさ。ところでレミアこそ、今帰りなのかい? 見たところそちらの男性とお話し中だったみたいだけど」
「テンジはね……あっ、いや、何でもないわ。ちょっと今日も冒険者ギルドに顔を出しててね。今帰ってきたところなのよ」
「今言ったのってもしかしてそちらの男性の名前なのかい? でも、道を聞かれただけだったら名前なんて知ってるはずないと思うんだけど? 一体どういうこと?」
「セラちゃん。レミアちゃんが今言ったのは名前じゃないよ。きっと、私たちの知らない何かだよ。だってそうでしょ。レミアちゃんが私たちの知らない間に男と仲良くなって帰ってくるなんてあり得ないことだよ。そうだよね、レミアちゃん!!」
場がどんどんヒートアップしていくのがわかる。俺でもわかるぞ、このまま話が進んでいくとまずい。というか、ぼろを出したレミアが悪い。なんでここで、俺の名前なんて呼ぶんだよ。なんとか誤魔化してくれよ。
もう、俺がこの場から立ちさる以外の方法がないんじゃないのか? そうか、俺が立ち去ればすべて解決か。俺が居なくなって二人が落ち着いたところでレミアから説明をしてもらったほうが幾分か可能性があるんじゃないだろうか。
「いやー、道を教えてくれてありがとうございます。俺はなんか邪魔みたいなんでそれじゃあこれで」
「え? ちょっと待ちなさいよテンジ。この状況で私を一人にするわけ? この薄情者」
おーーい!! 何言ってんだこの馬鹿野郎は。俺が折角何事もなかったように立ち去ろうって言う気を回したのがまったくわかっていないのか? というか、俺を引き止めてどうするつもりなんだよ。俺がいたところで空気を悪くするだけじゃないか。
「テンジ? いや、俺の名前はヤマダタロウですけど。すいません、人違いみたいですね。それでは!!」
「セラちゃん、逃がさないで」
「お任せあれ」
「な、何だ? うおっ!!」
その場を立ち去ろうと踵を返したまでは良かったが、すぐにセラという子に捕まってしまった。
「逃げるのは良くないね。まだ君には聞かないといけないことが山ほど残っているんだ。それで? レミアとは一体どういう関係なのかな?」
おい、レミア。二人は男嫌いじゃなかったのかよ。なんで、俺は羽交い締めにされてるんだ? 男嫌いだったら普通触るのも嫌がるもんじゃないのかよ。
まずいぞ、これは本格的にまずい。ひじ以外は俺はいたって普通だからな。ひじを使おうにも、女の子に向かって肘で攻撃なんてしたら大怪我させちまう。もう、このままおとなしくしてるしかないのか。
「ちょっと離してくれないか? これはあまりにも密着しすぎだって」
「ダメだね。私が君を離したら君はすぐにでもレミアか、テリーヌに襲い掛かる気だろう? わかるよその気持ち。二人は可愛いからね。私が守らないといけないんだよ」
「セラ、テンジはそんなことしないから離してあげて。二人にもちゃんと説明するから」
「ダメ!! レミアちゃんは貴方なんかに渡さないんだから!! どうしてもって言うんだったら私を倒してからにして!!」
もうわけがわからなくなっている。これをどうやって収拾つけるんだ? 俺にはもうどうすることもできない。考えるのはやめよう。俺が何を考えたところでどうにもならないんだ。俺が頑張る必要なんてないんだよ。
「テリーヌも聞いて。テンジは私がパーティーに入ってもらおうと思って誘っただけなの。冒険者登録で困っていたからクエストについて行って上げたら凄い強くてね。テンジなら私たちのパーティーの前衛を担えるって思ったのよ」
「要するに君がレミアをたぶらかしたって言うことであってるかな?」
「だから、違うって。私のほうからパーティーに誘ったの。二人もテンジの強さを見たら納得するはずよ。今日冒険者になったばかりの新人の強さじゃなかったんだから」
「新人冒険者を騙ってレミアちゃんを騙したのね。許せない、レミアちゃんの良心に漬け込むなんて絶対許せないんだから!!」
「もうっ!! 二人とも一旦落ち着きなさい!!」
レミアが大声をあげて訴えるが、二人は収まる気配すらない。
もう俺がこのパーティに入るって言う話は完全になかったことになっちまいそうだ。というか、ここまで第一印象が最悪だと仲間になれそうもないよな。




