宿へ
「こっちよ。迷子になったりしたら明日また冒険者ギルドで会うまでは会えないと思うからちゃんとついてきてよね」
「ああ、そうだよな。手とか握ってもいいか? そのほうが絶対にはぐれないよな」
「え? 本気で言ってるの? そういうことはパーティーメンバー同士でするようなことじゃないわ。流石に二人にもなんて言えばいいかわからなくなるし、そこは気合いで見失わないようにして」
「冗談だって。見失わないように努力するよ」
そこそこの人ごみの中をレミアについて行く。
もちろん、すぐ後ろを歩いているからそうそう見失わないとは思うがこういう時は一瞬の油断が命取りになっちまうからな。慢心したら終わりだ。こんな時こそ、慎重にいかないといけないんだよ。
「どうしようかしら……」
「なんだ? 道に迷ったのか? 自分の宿くらい覚えておいてくれよ」
「違うわよ。どうして私がそんな間抜けな真似をすると思うの? 私はただ、テンジのことを今日二人に紹介しておいた方がいいのかと思ってね。明日クエストに行く前にいきなり言うのもどうかと思うのよ。そんなの断れるわけもないじゃない。なんというかずるい気がするのよね」
「別に良くないか。こんな遅い時間に……いや、そこまで遅くもないか。でも、どちらにせよ今言われたところでどうしようもないんじゃないか? 会ったばかりの俺のことをすぐに信用してくれるとは思わないが、いきなり嫌われることだってないはずだろ? それなら、明日の朝一緒にクエストに行ってみて、二人の意見を聞けばいいじゃないか?」
「それがいきなり嫌われる可能性があるから問題なのよ。二人とも男嫌いだから。テンジがというか、男って言うこと自体が問題なのよね」
まずいじゃないか。俺が男という時点でかなり詰んでいるようなもんじゃないか。
どうしろって言うんだ? 最初からマイナスの評価をプラスに変えることは並大抵の努力じゃ難しいだろ。そもそも、なんで冒険者してるのに男嫌いなんだよ。冒険者なんて男だらけじゃないか。
「ちょっと待ってくれ。それは初耳だぞ。明らかにまずい状況じゃないか。そもそもなんで俺をパーティーメンバーに誘ったんだよ。明らかに無理じゃないか。二人に反対されたら、レミア一人だけの意見じゃ押し通されるだろ」
「だって、テンジが強かったんだから仕方ないじゃない。私だって、最初は困ってそうだったから声をかけただけよ。それに、今日はパーティーの活動もお休みだったから。でも、あんなに強さを見せられたら誰かに誘われちゃう前に誘っておかないとダメでしょ。駆け出し冒険者でテンジみたいな強さの人なんてほかに絶対いないわよ」
「褒めてくれるのは嬉しいんだけどさ。それでも、俺がパーティーに入れなかったら意味ないよな。それで? 実際どうなんだ? レミアはその二人を説得できそうなのかよ。無理だったら、俺はほかのパーティーを探さないといけなくなるからな」
「ちょっと時間を頂戴。明日すぐにって言うのはもしかしたら……本当に万が一くらいの可能性でしかないのだけど、すぐはダメかもしれないから。ほかのパーティーに入るのは少しだけ待ってくれない? ダメかしら?」
うわっ。ちょっと困って涙目の上目遣いの破壊力がやばすぎる。
レミアにお願いされて断れる奴なんてこの世にいるのか? いやいや、絶対無理だろ。俺は到底無理そうだ。顔面の戦闘力が高いって言うのはここまで人生を有利にしてくれるだな。あまりにも自分には無縁だったから気が付かなかった。
「わかった。俺もできる限り待つことにする。それでも、一人で冒険者活動自体はすることになると思うから、ランクは上がってしまうと思うぞ。それは大丈夫か?」
「ううん、その必要はないわ。明日からお試しで一緒にクエストに行くように二人を説得して見せるから。正式なパーティー加入は待ってもらうと思うけど、仮パーティーみたいな感じで行きましょう。二人もクエストでテンジの強さを見たら、きっと意見を曲げてくれるはずよ」
「そうか? それなら、俺は遠慮しないけど。でも、あからさまに嫌がられたりするのはメンタルが持たないからやめさせてくれよ。俺としても、パーティーのメンバーとして認められるように頑張るつもりではあるが、完全に拒否とかされたらもう無理だと思うからな」
女の子に気持ち悪がられてまでパーティーにいようとは思わない。それが、レミアみたいな可愛い子だったらなおさらだ。二人がとてつもな不細工でレミアだけが女神だったら、二人に何を言われようが耐える自信はあるが、二人も可愛いとなれば俺のメンタルは一瞬でズタボロにされちまうだろうな。
まったく、すべてが都合よく進んでいると思ってたのにな。まさか、パーティーに加入するところで思わぬ伏兵が存在しているとは。こういう時こそ、ご都合主義パワーで何とかなれば最高だったな。まぁ、このおかげで宿がすぐに見つかったとかだったら別にいいんだけど。




