授かった力
「俺は生と死の狭間の世界に呼び出されて何をさせられるって言うんだよ。じいさんが神だって言うんだったらもう少し証拠を見せてくれねぇと俺も信用できねぇっての」
「その返答はありふれ過ぎておって面白みに欠けるのぉ。もっとほかにあるじゃろう。これでわしの中でのおぬしの評価はかなり下がったぞい」
「無茶ぶりすぎるってそりゃ。まだ状況も飲み込めてないのにボケなんて噛ませられるわけが無いだろうが。俺はいたって普通の人間なんだぞ。それこそ、世界で一番普通の人間と言えば、それは俺だ。それくらい俺という存在はありふれたもんなんだよ……だったら、俺がありふれた返答をするのも必然だな。何もおかしなことなんてなかったんだ」
一体、ここで面白い回答を返すことができる奴なんて全世界に何人いるんだろうか? どう考えてもそれどころじゃないもんな。ただただ自分が疑問に思ったことについて追及する。これ以外にできることなんてねぇよ。
「最初からおぬしにそのあたりのことは期待しておらんかったから、大した影響はないんじゃけどな。まぁこの話はこれくらいでよいじゃろう。それでは、本題に入るとするかの」
期待されていないって言うのは少し引っかかるが、現に俺は普通の発言をしてしまっただけの一般人だ。反論の余地もない。これから始まる話とやらを何とか理解するために頭をフル回転させることが今の俺にできる唯一のことだろう。
「おぬしには異世界に転生してもらうことになったんじゃ。そのためにここに呼び出した。これがおぬしの知りたかった真実というやつじゃよ。これから、おぬしは異世界に行ってもらい、そこでモンスターを倒すという任務が与えられるんじゃ」
「え? いや、そんなの俺にできる訳ねぇって。言っただろ、俺は一般人なんだよ。モンスターって絶対危険な存在だろ。俺なんかが倒せるわけないって」
「もちろん今のおぬしでは帰り撃ちにあってすぐに死ぬのがおちじゃろうな。そこで、わしがおぬしに力を授けるというわけじゃ。どうじゃ? これなら、希望が見えてこんかの?」
神であるじいさんから俺が力を貰う。それなら、俺でもモンスターと戦えるんじゃないか。こう言うことは先に言っておいてくれよ。俺の無駄にすり減らしちまった心を返してくれ。とんでもねぇ無理難題を押し付けられたんじゃないかって焦ったんだからな。
「最終的には異世界の魔王を討伐してほしいんじゃが、そこまで至るまでには相当時間がかかることじゃろうし、頭の片隅に覚えておくのじゃな。最初のうちはモンスターを倒してレベルを上げることを優先するんじゃ。そうすれば、いずれは魔王を倒すことができるほどの力を手に入れているはずじゃからな」
「じいさんの力を貰ってもその魔王ってのには勝てないってことか? それなら、俺に魔王に勝てるだけの力を授けてくれればいいだけの話だろ。なんでそうしてくれないんだ?」
「まぁ、そうしてやりたいのは山々じゃが、ただの人間であるおぬしに渡せる力なんて言うのは高が知れておるんじゃよ。それでも、おぬしは神の力をその身に宿せる量で言えば、人類でもトップクラスの素質を持っておるんじゃぞ。これが、おぬしがこの任務に選ばれた理由じゃよ。じゃから、時間はかかるかもしれんがレベルを上げる以外に方法がないいというわけじゃ」
俺は自分が知らなかっただけでそんな素質を持って生まれていたって言うのか。
普通に生きていくうえではなんの役にも立たなかったはずの力が、俺が不幸にも死んでしまったことで日の目を見ることができたんだな。俺が今までついていなかったのもこの素質を持っていたからと言われれば少しは納得できるってもんだ。難しいことはよくわからないが、俺に力があるんだったらその力で異世界の魔王だって倒してやろうじゃないか。
「わかった。俺にやらせてくれ。じいさんからもらった力で魔王を倒してやるよ」
「やらせてくれも何もおぬしに拒否権なんぞないぞ。最初からおぬしはこのまま異世界に行く運命なんじゃ。そのまま送ってしまうのも気が引けるからこうして説明をしてやっておるだけじゃ」
「俺が折角やる気を出してたって言うのに水を差すようなこと言うなよ。今の話なんてじいさんが言わなかったら絶対に俺は知ることがなかった話だぞ。わざと俺のやる気を削ごうとしてるんじゃないだろうな?」
「そういう意図はまったくないぞい。そうじゃ、肝心のおぬしに授ける力の説明がまだじゃったの」
今じいさんは確実に話を変えたよな。俺にツッコまれてもめんどくさいとでも思ったんだろうか?
俺はこれから異世界で生きていかなくちゃいけないってことなのか。拒否権もないって言われてるし、もう元の世界に戻ることもできないんだろうなぁ。流石に寂しいもんだな。やり残したことだってあるのにな。
「おぬしにはわしの神エネルギーを右の肘に一点集中して授けよう。これで、おぬしの肘には文字通り神が宿っているというわけじゃ。神の肘じゃな。それはもうすさまじい破壊力を生み出すエルボーが撃てるというわけじゃよ」
「なんかピンポイントピン過ぎないか? もっと全体的に強化できないもんなのかよ」
「じゃから、さっきも言ったじゃろうが、おぬしに渡せる力には上限があるんじゃよ。それも考慮して一点集中型を選択したんじゃ。どうしてもとおぬしがいうんじゃったら全身にまんべんなく力を宿らせることもできるんじゃが、そうなれば出力という面ではとてつもなく低下するぞい。同じエルボーでも100倍以上の差が出るじゃろうな」
一撃必殺のエルボーを取るか、安パイの全身強化を取るか。でも、こんなのエルボーをとるしか道はないよな。魔王を倒そうって言うんだ、俺もそれくらいの必殺技を持っておかないと太刀打ちできないッてもんだ。
「わかった。俺の肘に全部力を集めてくれ」
「ほぉ、おぬしは案外見どころのある男なのかもしれんのぉ。その心意気やよし!! ありったけのわしの力をおぬしの肘に宿してやるぞ」
そう言うと、俺の肘はすさまじい光を放った。