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帰ろうか

 後2匹倒せば終わりだ。

 これで、金の心配もしなくて済むようになるし、この世界に来て初めての飯も食える。今更ながら思い出してもう腹が減ってきちまった。冷静に考えて、森から歩いて来て、一度も飯を食ってないなんてやばいよな。俺の体は本当によくやってるよ。普通の人間だったらもう空腹でゲームオーバーになっちまってるところだろう。まぁ、俺も思い出してやばい状況になっちまってるんだけどな。


「何ぼぉっとしてるの? モンスターから襲われるかもしれない場所でそれは特にやっちゃダメな行為よ。もしかして疲れてきちゃった? 大丈夫? 残りの2匹は私が倒してあげようか?」


「ちょっと腹が減ったなって思っただけだ。まだまだ体力的には余裕だからその提案は断らせてもらおう。俺だって一つのクエストを自分の力でやり遂げたいって思いくらいあるんだ。任せてくれ」


「そう? それならいいんだけど。でも、本当に疲れたときはいってよね。怪我の原因になるから」


 なんだかんだ言いながらやっぱりレミアは優しいよな。

 今日会ったばかりの俺のことをこんなにも気にかけてくれてるんだからな。普通だったら、まず声もかけないだろ。


「あれ? あそこに都合よくスライムが2匹いるわよ。一緒に2匹討伐するのは初めてだと思うけど大丈夫? 何だったら片方は私が倒すけど?」


「大丈夫だ。1匹も2匹も大した違いじゃない。サクッと倒して町に帰ろうぜ」


 俺は見つけたスライム2匹の元ヘ近づいて行き、一瞬で詰めることができるくらいの間合いで一度止まった。

 この距離なら俺の間合いだ。スライムに気が付かれるまでにゼロ距離まで接近することができる。近づいてしまえばこっちのもんだ。スライムの反撃が来る前に2匹に攻撃を当てちまえばいいだけだ。一気に倒しちまうってのも少し考えたがそうするとどうしても威力を上げなくちゃいけないからな。これ以上森を破壊するのも心ぐるしい。


「ハッ!! っせい!! っせい!!」


 バゴォン!! バゴォン!!


 俺の肘が的確に2匹のスライムを打ちぬいた。

 華麗なワンツーを放ったような心地よさがあったな。これが両肘だったらもう少し楽なんだろうけど、まぁ一か所に集中しているからこその威力なのは俺もわかってるんだ。でも、どうしてもひじだけだと自由度にかけるよな。そこは、レベルアップして少しでも身体能力を強化してカバーするしかないか。


「今のは結構良かったじゃない。てっきり、最初やってたみたいな無駄な威力で一気に倒すのかと思ったけど、最低限の力で2匹倒したのは見事だったわ。テンジもこのクエストの中で成長していたようね」


「まぁな。俺も最初はそうしようかと思ったんだけどな。それじゃあ、今後のためにならないと思って、連続攻撃にしてみたんだよ。レミアから見てもいい感じだったってことはどうやら成功だったみたいだな」


「うん。スライムじゃなくても通用すると思うよ。Fランク冒険者としてもうテンジは規格外だね。威力だけに頼りきりじゃなくなって言うのは相当大きいと思うわよ。これからもその調子で頼むわ。もっと高ランクになればテンジの高火力も必要になる時もあるだろうから、その時は思いっきりやってちょうだい」


「ああ、レベルアップするごとに俺の身体能力も強化されていくからな。次に力を入れた俺の肘がさく裂したときの威力は俺でも想像ができないな。でも、1回くらいは全力攻撃を試してみてたほうが良かったのか?」


「やめておいたほうがいいわよ。最初の攻撃でも全力じゃなかったのよね? あれ以上の力なんて、また木を薙ぎ払っちゃうじゃない。それに、私も近くにいたら巻き込まれそうで怖いわ。もしやるとしたら何もない更地で私とも十分に距離を取ってからにしてよね」


 レミアのいう通りだな。

 間違いなく横にいるレミアは巻き込まれるだろうし、森にどれほどのダメージを負わせるかなんて予想もつかない。何て言ったってこの力は神様から授かった力だもんな。この世界で唯一魔王に対抗できる存在が俺だ。そんな俺が、意味もなく全力攻撃なんてする必要もないし、したらいけないだろ。まったく、自分の力を正確に把握できないってのも不便なもん何だな。相当贅沢な悩みなんだろうけど、誰かこの気持ちを共有できるやつはいないのか? もしかしたら、魔王は俺の気持ちをわかってくれるかもしれないな。


「これでやっとクエスト完了だな。もう冒険者ギルドに戻っても大丈夫なのか?」


「討伐したモンスターについては冒険者カードに記録されているからテンジが何かする必要はないわよ。もう、このままギルドに帰りましょう。後は達成したことを報告して報酬を受け取ればすべて完了よ」


「へぇ、便利なもんだな。よく仕組みはわからないけど、冒険者カードさえ持ってれば倒したモンスターの数も数える必要すらないってことだよな。こんなもん無料でもらえるって冒険者やばいな」


「冒険者にとって冒険者カードは必需品だから。逆に持ってないと不便すぎてクエストすらいけないわよ。まず、クエストを受ける段階でつまることになるわよ」


 確かに、クエストの受付も冒険者カードをかざすだけの簡単なものだったもんな。それが、できなくなるって考えるだけでも面倒だな。


「絶対になくさないようにしないといけないな。いやでも、これだけ便利機能を搭載してるんだったらなくしてもすぐに見つける機能もついてるんじゃないのか?」


「残念ながらなくしたら全力で探す以外の方法はないわよ。というか、こんな話なんて帰りながら話しましょうよ」


「それもそうだな」


 俺たちは冒険者ギルドへの帰り道を歩き始めた。

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