98話 だったらどうすればいい
「よし、あいつにするかー」
バリアをすり抜けたダークボールが、そのままテオの心臓へと向かっていった。
(殺せる…!)
ダークボールがテオに直撃する……
「万華鏡結界」
その寸前にテオが妙なアビリティを発動した。
この瞬間、俺は時が止まったように体が動かなくなり、更に辺りも夜のように暗くなったような気がした。
だがそれ以上に変な感じだ、正方形の先にあり得ない角度でもう一つの正方形が複数ある感じというか、とにかく気持ち悪くなった。
そして、その正方形がやがて集束するように俺とテオの方に集まってきて、やがて繋がった。
それと同時に、俺の意識が戻った。
気がつくとお互いの体のあちこちにバリアの破片が突き刺さっていて、その痛みで2人とも地面に倒れ込んだ。
「ぐああ…ぐあああああ」
俺は断末魔にも等しい悲鳴を上げた。
破片が突き刺さった痛みもそうだが、それ以上に超越光速の代償が重なってもう体力は疾に限界を迎えていた。
テオはこの隙に自分のバリアを抜き取って消滅させた。
と同時に消えていたバリアが戻り、そのままこの場を立ち去ろうと後ろに下がっていった。
「待…て…」
だが、アレスから溢れ出る魔力が、すぐに突き刺さった破片を消滅させた。
「逃す…か…待て…待て………!!!」
アレスは薄れゆく意識の中、何度もテオにそう叫んだ。
だがテオが歩みを止める事はなく、アレスはそのまま、気を失った。
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………!!!」
目を覚ますと、置いてきた4人の戦士達が俺の前に集まっていた。
「おい、大丈夫か?」
「勝手に飛び出しやがって、なにがあった?」
溢れ出ていたあの魔力はすっかり消えていた、あのゴブリンの死体もどういうわけか、完全になくなっている。
あれだけ膨れ上がっていた殺意も収まっていてどこか気分がいい、今ならまともな会話ができそうだ。
「勝手に出ていった事については…すみません、軽率でした。今のこの状況についてですが、さっきこの場でテオを発見して戦い、すみません…逃げられました」
俺は事実だけをありのままに説明した、これに対し、「勝手に飛び出した割に迷惑だけかけやがって」と愚痴をこぼす者もいれば、「あのテオと戦って生き延びられただけでもすげぇよ、よくやった!」と励ます者もいた。
だが、生き延びられた…というのは違う気がする、
あのテオには殺意というか、戦意すらほとんど感じられなかった。
さっきだって、俺を殺せる機会は何度かあったはずなのに、今俺は生きているし…
「まぁアレスはゆっくり休めよ、アレスが足止めしてくれたお陰で、βが十分に追えるようになっている」
βか…確かに今のテオになら、βなら確実に勝てるだろう。
これで戦争終結に大きく動けるのだろうか、そんな気は全くしないのだが…
アレスを撒いたテオは、そのまま草原を走り抜け、無気力にフレミングに戻ろうとしていた。
その時、背後から巨大な何かが隕石のように降り立ってきた。
「β…」
アレス相手に時間を取られすぎたか、βにガルーダを使って追いつかれた。
「…………」
テオは改めてβを見て、どんどんと感情が薄れていった。
直接彼女を見ても、答えが出るわけではなかったようだ。
「…お前、今俺の前に敵として対峙している…それはお前の本心なのか?」
すがるように質問してしまった。
「うるさい…」
それに対しβは思ったよりも低く、強い声でそう返した。
そして、βは目元を前髪で隠しながら、胸部から顔を出してきた。
「またその質問?お前本当にうるさい」
βは胸元を強く握り締めた。
「お前と話していると、本当内気分が荒立つ、ずっと肯定してきた物事を、自分から否定したような気分になる…」
βは立ち上がり、小さく叫ぶように言った。
「だから、お前嫌い」
テオはその言葉に一瞬だけ後ずさったが、すぐにその言葉の意味を理解した。
嬉しくなった。
今βは自分を話して、見て、それで苛立っている。
それは恐らく、自分がずっと、敵の命令に人形のように従い、戦うだけの彼女を毛嫌いし、その感情を向け続けていたから。
そして、彼女がその感情を何よりも感じ取っていたからだ。
恐らく、今までそんな事を思う人はいなかったのだろう、当然だ、彼女の考えは、一般的に見れば兵士として理想と言えるものかもしれないものだから。
そんな中テオと出会い、この感情を向けられた。
それは、βがサイン軍に拉致されてからずっと植え付けられてきた思想とは相反するもの。
そして、リフレクションを投与した関係で、今のβにも拉致前の感覚や記憶自体は確かに残っているはずだ。
テオのこの想いとβに残っている記憶が何らかの反応を起こして、彼女の苛立ちを作ったとするならば、
今もまだ、拉致前の彼女の記憶は生きている、想いは生きている。
だとすれば救えるかもしれない、本当の彼女の記憶を取り戻して、サインの支配から彼女を解放する事が…!
「………!!!」
そうだ、この時テオは初めて自覚した。
βを助けたいのだと。
だがその為には、結局あの最悪の思考を天秤にとる事になってしまう、自分にそんな事ができるのかと不安になる…が、
今はそれを悩んでいる時間はない、自分の本当の想いに気づけた、それだけで今は十分だ。
「さっさと…ぼくの前から…消えて!!!」
βは胸部に戻り、ワイバーンを放ってきた。
テオはバリアでそれを防ぎつつ、robotをジャンプで飛び越え、そのままフレミングへと向かっていった。
「!待て!!」
βはそのままワイバーンを放ち続けたが、全てバリアで防がれて効果がなかった。
「…逃げに徹されたらどうしようもない…か」
βは発散し切れない苛立ちを発散する為、一度強くrobotを叩きつけた。
「本当に…なんなの…これ…」
結局、テオはそのままフレミングに帰還する事に成功した。
徐々に近づいていく、テオとβの想い…
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