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97話 バリアとの衝突

すると、近くにどこかの国の戦士がいた。

テオ自ら作動した警報アラームにより、サインとナスカンの戦士達は、テオの居場所を把握した。


その中で何とかテオとやり合えそうな一部の戦士達が、テオを追って通報のあった研究室に向かった。


だが既にそこにテオの姿はなく、あったのは体のあちこちを刺され死亡した研究員の群れだけだった。


アレスを含めた、まだ研究室には向かっていなかった戦士達にはすぐにその情報が伝えられ、恐らく既に街を出たという推測も伝えられた。


だが、それと同時に、アイラからテオのバリアの突破方も伝えられた。


「バリアに対し、全く同じ量の魔力を与え続ければバリアは突破される」との事だった。


それに、テオもまだ探せば見つかる範囲にいるはずなので、戦士達は総動員でテオを捜し続けた。


ここでテオを見失うわけにはいかない、テオはアイラ戦を経て弱っている、今が捕える絶好のチャンスだからだ。


アイラも黒い翼を展開し、とにかくテオを探している。


しかし見つからない、テオは一体どこへいったのか…


「くそ、この近くな気はするんだが」


「気じゃあ意味ないでしょうが!!」


アレスも含めた5人ほどの戦士達も、近くにテオがいないかと走り回っている。だがやはり見つからない。


「……………」


アレスはずっと気が沈んだまま、この即席の小隊についていっていた。


だが、やはりテオは見つからない、近くにいる事は間違いないのに、


アレスは段々と感情が抑えられなくなってきた。


「………あの、」


「どうした?」


「……とにかく、生きてくださいね」


アレスはそれだけ言って、超越光速を発動した。


「え?ちょっと!」


胸の苛立ちが抑えきれなかった、今自分のすぐ近くにフレミング軍が、しかもその中で最も影響力の強いテオがいる事に、


殺したい、殺す。今アレスの頭には、こういった言葉だけが埋まっていた。


そして、アレスはテオの正面の位置に止まった。


「…………」


「見つけた…」


超越光速は、光と同等の速度で移動するアビリティ、その速度を応用すれば、ジャリ付近の平原を1mmの見逃しなく探し当てる事に1秒もかからない。


「…正直、アイラからは逃げられる自身はあった、だがそうだな…やはりお前からは逃げられないか」


テオは僅かに顔を上げ、小さく深呼吸をして「敵軍を見てもなんの感情も沸かないか…」と吐露したが、アレスには聞こえなかった。


その後、光を失ったような目で「だが、今のでようやく、お前の能力を理解した」とアレスに突きつけた。


「…知るかよ、そんな事」


そう返したアレスの心は、もう完全に殺意で支配されていた。


時間が経てば経つほどフレミングへの怒りが込み上げてくる、テオがマイロを殺した奴ではないとわかっていても、抑えきれないほどの殺意が湧いて出てくる。


この苛立ちは世界そのものに向けられているんだと、さっきから毎秒悟らされる。


だからアレスは凍えるような鋭い眼で、「死ね」と発した。


その瞬間、またアレスの体から薄紫の魔力が煙状に溢れ出し、瞳もカメリア色に変わった。


アレス自身ももまたこれからと驚きはしたが、今はそんな事どうでもよかった。


この状態は、何故だか少し力が溢れてくるような気がする、だからやる事は一つ…


「殺す!!!」


アレスは超越光速を発動し、テオの目の前まで移動して剣を払った。


剣の攻撃はバリアに阻まれたが、やはりアレスから溢れ出る魔力に徐々にバリアを弱化されていっているようだ。


テオはアレスから距離を置くため後方に跳ね上がり、そのままバリアの破片を2つ投げ飛ばした。


「っ、、、」


アレスはそれらが両肩に突き刺さった、投げ飛ばされる速度についていけていない。


「クソが…」


だが、アレスから溢れている魔力に触れて、突き刺さったバリアが徐々に溶けるように消え始めた。


「なに!?」


テオはすぐに破片を元の位置に戻した。


「まだだ」


再び超越光速を発動してテオの真後ろまで移動し、バリアへ剣で切り掛かった。


だが、やはりバリアを弱化できている感覚はあったが、テオにバリアの一部を短剣に変化され、弱化させる前に離れられてしまった。


「!!」


そのまま短剣で切り掛かられ、アレスを徐々に追い詰めていった。


「お前の能力は、瞬間移動でも、ワープのようなものでもない、恐らく瞬間的に光速クラスの速度で移動する能力…だが一瞬しか発動しないとなると、負担も大きいのだろう」


テオは短剣でアレスを大きく吹き飛ばし、地面に激突させた。


「ぐはぁ」


アレスは地面に倒れ込んだ。


「最初は警戒したが、能力が分かればそれで終わりだ」


テオは目元を前髪で隠しながらそう言って、この場を去ろうとした。


だが、一度やられた程度でアレスの殺意が収まるはずがなかった。


アレスは右手を強く握り締め、凄まじい剣幕で「待て…」と言った後、超越光速を発動し、そのスピードのままテオをバリアごと弾き飛ばした。


テオを飛ばした先で土煙が舞っている。


「はぁはぁはぁ」


アレスは鼻血を出しながらその場で立ち止まり、呼吸を荒げている。


その時、土煙の奥からテオが飛び出してきて、アレスの腹部を切り裂いた。


その寸前に超越光速で後ろに下がったので助かりこそしたが、それでも僅かに傷つけられ、更に超越光速の代償も相まってかなりのダメージを受けてしまった。


アレスは移動直後にその場で倒れ込んだ。


「………」


その様子を見ても、テオにサインへの苛立ちが湧き出る事はなかった。


いやそれ以上に、今テオは世界中全てのものが白く視えていた。


焚き火の火が一瞬で冷め切ったような気分だった。


その中でもずっと頭に、βの事が突っかかっている。


彼女を一体どうすればいいのか、どう思えばいいのか、一瞬過った最悪の思考を、このまま否定し続けていいのか、


「………」


「殺す…殺す…殺す」


アレスは腹部の傷口を押さえて何度もそう呟きながら立ち上がった。


「はぁ…はぁ…はぁ」


息切れと深呼吸が混ざったような呼吸を繰り返すアレス。


こうでもしないと殺意に呑まれて暴走してしまいそうだった。


明らかに過剰に興奮している、さっきから溢れ出ているこの魔力のせいだろうか…いやこの際そんな事どうでもいい。


この衝動のまま、テオを殺す、それだけでいい。


だがこのままじゃテオには絶対勝てない。


バリア以前に力の差がありすぎる、間違いなくミアに匹敵するレベルだ。


それが逆にチャンスでもある、テオは間違いなく、アレスにバリアを突破できるとは思っていない。


その油断を利用する、やり方は分かってる。


「バリアに対し、全く同じ量の魔力を与え続ければバリアは突破される」か、


要するに込める魔力量を一切ブレさせずにアビリティを数秒間当て続けるという事だろうが、そんな芸当普通できない。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()時点で至難だし、それ以上に出力する魔力をブレさせないという動作。


それにどれだけの集中力と潜在的な魔力量の支えが必要だと思っているのか、


普通は無理だ、けど…俺ならできるかもしれない。


俺には超越光速がある、これを応用すればもしかしたら…


アレスは一度、荒々しくも深い深呼吸をした。


その瞬間、アレスから更に凄まじい量の魔力が溢れ出た。


そして、その魔力から産まれたように、何もないところからゴブリンが出現した。


「!?」


テオはそれを見て当然驚愕した、薄紫の魔力を纏い、目をカメリア色に光らせたゴブリンが、ゆっくりとテオに近づこうとしている。


「!」


俺もそれに気づいたが、ひとまずゴブリンの首を斬り落として始末した。


今のについて考えるの後だ、今はとにかくテオを殺す。


アレスは剣を端末に戻し、手元にダークボールを作り出した。


それと同時に、超越光速でテオの目の前まで移動し、それをバリアに擦りつけた。


だが、やはり出力する魔力量にブレがある。


テオはそれを確認すると、バリアを針状に変えてこのまま串刺しにしようとした。


その瞬間、アレスはこのままで超越光速を発動した。


「!!!」


だが特に移動するというわけではなく、ただその場でダークボールを擦りつけているだけだった。


更にアレス自身が調節して、テオが勢いで吹き飛ばされるという事もなかった。


「………」


テオは警戒し、一度バリアによる攻撃を中断した。


確かにアレスでは、普通にやってもバリアを突破する事はできない。


だがこの方法なら…


「こういうのをなぁ、ある戦士が言うには、裏技というらしいぜ…」


そして、アレスのダークボールが、テオのバリアをすり抜け始めた。


「!!??」


アレスは確かに、バリアを突破できるような技術は持ち合わせていない。


しかし超越光速は光と同等の速度で移動するスキルだ、


それだけの速度でバリアに当たり続ければ、多少魔力がブレていても、一瞬だけでも同じ魔力量で当たる時間に普通ではあり得ない速度で連続して命中させられる。


そうすれば強制的に突破条件を満たせられるのではないかと考えた。


アレスのその目論見は当たり、バリアを完全にすり抜けたダークボールは、テオの心臓へと向かっていった。

だがテオには、あのアビリティがある…


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