96話 β 後編
アリエルは近くに誰か戦士がいないかと辺りを、再び辺りを見回した。
『β記録ファイル-coon-※※※※-※※-008』
生き残った少女は、事故のショックか、言語能力を失っていた。
こちらが話しかけても何の反応も示さず、また、感情の起伏も大きく失われていた。
恐らく家族や孤児院時代の記憶も失われていると思われる。
我々はこれを利用し、少女をopiclaの媒体としての完全利用を決めた。
とはいえ、このままでは基本的なコミニュケーションですら不可能であった為、しばらくは一般的な精神ケアを行う事にした。
また、これに並行して[リフレクション]という薬品の開発を開始した。
そして、言語能力と判断能力がある程度回復したところで、一般的なケアを中止した。
『β記録ファイル-coon-※※※※-※※-009』
少女の土台部分を完成させると、軍は少女に特殊なリハビリテーションを行った。
これにより、少女は我々の命令に一切の疑いなく忠実になり、同時に自らの思考判断を元に命令を遂行する能力を有した。
兵器としては完璧(に近い)状態といえる、この彼女の状態を人形と比喩する者もいた。
我々は更に、完成したリフレクションを彼女に投与した。
これは被験者の潜在的に眠る記憶や人格を一時的に呼び覚まさせる薬である。
軍は感情もなく、ただ命令に従うだけというのは長所であるが、同時に弱点であると主張された。
今の状態では生存本能が正しく機能されず、万が一彼女よりも強い戦士を相手にした場合、マニュアル以上の力を発揮できず、敗北が確定してしまうとも主張した。
我々はその意見を汲み取り、本来捕虜に使用する為に開発していたリフレクションを彼女用に改良した上で使用する事にした。
彼女が死、又は敗北の危険性を察知すると自動でリフレクションが発動し、彼女の、事故に遭った当時の感情を一時的に呼び覚ます。
その際の爆発的な衝動と、それに対応してopiclaの内部使用を一時変更させる事で、瞬間的に本来以上の性能を発揮させ、万一の窮地を脱してもらおうという算段だ。
『β記録ファイル-coon-※※※※-※※-010』
5年の歳月を用し、ようやく彼女を完成させた。
同時に便利上の都合のため、彼女を計画の原型であるβ計画に準え、[β]と命名する事にした。*7
その後、βの身体にopiclaの能力を移植する事にも成功した。
βは軍の命令でスキルを発動させると、理想通りβ本来のスキルではなくopiclaが発動し、鉄の巨人に変身できた。
つまりβ本来のスキルを削除し、それをopiclaに置き換える技術を確立したという事、これは後々応用が効きそうだ。
しかし、βの実年齢はこの時点で21歳を迎えていた。
このまま成長が進めばやがて老いが始まってしまう。
それによる兵力の低下を防ぐため、我々は特殊な薬を投与し、βの肉体年齢を15歳にまで引き下げた。
更に、opiclaをβへ移植させる事に成功した後でも、テオのバリアを確実に突破して勝利するにはまだ能力が足りなかったため、opiclaの強化研究は続けられた。
*7:これに伴い、ファイル名を『β記録ファイル』に変更
『β記録ファイル-coon-※※※※-※※-011』
以下より、robotのアビリティを纏めておく。
ワイバーン:片腕、若しくは両腕をガトリングに変化させる
サーペーント:片腕を極細の針に変化させる
サラマンダー:片腕を螺旋状の銃に変化させる
エクスカリバー:片腕、若しくは両腕を大剣に変化させる
イージス:片腕、若しくは両腕を盾に変化させる
ガルーダ:背中に翼状のジェット噴射機構に変化させる
ヒュドラ:βをopiclaとして維持するため、体内に流している特殊な魔力をカプセル状の容器に入れて取り出す。そのカプセルを破壊する事でその魔力を外部に拡散させる、魔力を吸ったヒトに、致死量の猛毒を受けた際と同じ症状を引き起こす
デュラハン:片目にスコープを装備させる、このスコープに映すと、その直後に繰り出される遠距離攻撃が必中する。また、純粋なスコープとして使用する事も可能
アンフィテアトルム:魔力を帯びた半透明の正方形型の結界を生み出す
レクイエム:両掌にエネルギーを保存する穴を作り、そこから雨状にそのエネルギーを放出する、雨状にせず直接放つ事も可能
ディストピア:片腕、若しくは両腕を巨大なスナイパーに変化させる
カタストロフィ:口元を大砲の砲身状に変化させる、発動の際エネルギーをチャージする事でアビリティの威力を高める事ができる、最大チャージ時の威力は12.552TJ(3キロトンTNT当量)
ラグナロク:opiclaのボディに高出力の魔力を過剰に流し込み、爆発させる
『β記録ファイル-coon-※※※※-※※-012』
現時点では、opiclaはまだ確実にテオを倒せるという段階にまでは至っていない。
恐らく互角といったところだろう、また、未だバリアの具体的な突破方法もわかっていない。
しかし、計算上はリフレクションが発動している状態なら、力の上ではテオを上回れるのではないかという段階まで出力を増す事ができた。
『β記録ファイル-coon-※※※※-※※-012』
突如としてシュメルン共和国の首都が消滅した、原因は不明。
だが今後、この領土地跡を巡り、我が国がフレミング帝国との戦争に発展する可能性が高い。
急がなければならない、戦争が始まれば、間違いなく現時点のβが戦争に起用される事になるだろう。
だが政府はβを完成させるまでの時間はないと判断し、代わりにβに一度敵国側へ偵察に向かわせ、敵の情報を直接手に入れてもらおうと命令された。
それによりフレミング帝国の開戦を、我が国は3時間早く知る事ができた。
そして、比法則戦争が遂に始まった、案の定、βもこの戦いに参戦する事が決まった。』
「…………なんだよこれ」
テオはそこに書かれてあった内容に言葉すら出す事ができず、しばらくその場で呆然とした。
人体実験、ヒトの兵器化…こういった事は、小説や漫画には腐るほどある設定だ。
だが実際にそれを現実として突きつけられて、テオは何をしたらいいのか、わからなくなった。
頭の中で、これまでのβという存在の認識が壊れていくのを感じた。
「…………」
一瞬、あってはならない考えがテオの頭を過った。
テオはすぐにそれを振り解こうと、眉間に皺を寄せながら、沈んだような荒いため息を吐いた。
「……………」
ドン
テオは叫ぶように、近くの警報アラームの起動スイッチを思いきり叩いた。
赤々しい警報音が鳴り響き、サインに自らの位置が知らされる。
まもなくここへやってくるだろう。
「……………」
テオは冷め切ったような表情で一人呟いた。
「さて、ここからどう逃げるか」
明かされる、βの衝撃の出生…
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