93話 散飛翔の真っ只中で
アリエルの目的は、フレミングのある戦士を殺すこと。
アイラは特に何も考えずに、散飛翔を続けていた。
「♪♪」
悠長に口笛を口ずさみながら、ジャリの上空を移動している。
「ん?」
その時、アイラは真っ直ぐこちらに向かっている、ある影の存在に気がついた。
アイラはすぐにその影の方向へ飛行する。
「…………」
「こんな所で何してるの?」
「!!」
影の正体の男はすぐに移動の足を止め、怯えるようにアイラを警戒した。
テオだ。
恐らく偵察か、スパイか、何らかの軍事作戦できたのは間違いない。
アイラは着地はせず上からテオに話しかけた。
「テオさん?どうしてこんな所にいるのかしら?」
テオは少し後ずさり、アイラにこう言った。
「よりにもよって…お前か」
「そ♪みんなのアイドルこの私!で、どうなの?」
アイラは剣を構えた。
「私個人としてはね、今なら貴方を見なかった事にしてあげてもいいの、今すぐに引き返してくれるなら…でも一応私、契約があるからさ、発見した以上貴方を倒さないといけない」
アイラはテオへ、その剣を突きつける。
「生かすにしろ、殺すにしろね」
テオは少し黙った後、こう答えた。
「…例え誰が相手だとしても、俺はこの先に行かなければならない、だから…」
テオは体内の魔力を唸らせた。
「…そう、なら、今日をキッカケに、私たちが戦争に勝利する事になりそうね」
アイラも同じく、魔力を唸らせる。
「…!」
最初に仕掛けたのはテオだった。
テオはかなり警戒しながらも、先ずバリアの破片を投げ飛ばして攻撃した。
だがアイラは寸前にサンドシチュエーションを発動し、攻撃をすり抜けた。
「そのタイプか…」
テオは一度能力を確認した後、アイラの外周を走るように回り込み、バリアを短剣状に変化させて切り掛かった。
それにアイラは容易く反応し、テオの攻撃を剣で受け止めた。
「…なるほど、バリアの硬度も相まって、純粋な力比べは互角ってとこかしら」
両者はそのまま、しばらく互いの剣をぶつけ合っていた。
互いが剣で切り掛かればそれは弾かれ、拮抗する。
だが徐々にアイラが押し勝っていき、アイラがテオをバリアごと弾いた。
しかしテオは踏ん張って耐え、すぐに反撃に映った。
だが何度やっても結果は同じ、テオはアイラ相手に力負けを繰り返し、向こうもテオの動きに慣れてきたのか、徐々に簡単に押されるようになってきている。
「っ、」
とはいえ、状況が変わらないのはアイラも同じだった。
例えどれだけ力で押し勝ったとしても、テオのバリアを突破する事はできなかった。
せめぎ合いを重ねて相手の動きもわかってくると、アイラは何度か剣で斬れる瞬間ができた。
だが何をしてもバリアを破壊する事はできず、無駄に剣先を刃こぼれに近づかせる一方だった。
(やっぱりこのバリアを何とかしないと…一回試してみるか)
アイラは一度テオから距離を離すと、強く魔力を練り上げてアビリティを放った。
「アビリティ、[クラッシュプラント]」
その瞬間、地面から巨大な木の根がいくつも出現し、それらが一瞬でテオを押し潰そうとバリアにのしかかった。
テオはそれを、避ける隙すらできなかった。
しかし、これでもバリアを突破する事はできない。
とはいえ、地面から生える木の根がテオの身動きを封じているため、アイラにしばらく対策を練る時間ができた。
(今ので無理なら、これ以上どんな強い攻撃をしても無駄でしょうね、物理じゃどうやってもバリアを破壊できない…)
アイラは注意深くテオを観察する。
(見たところバリアで防いでいる間は常に魔力を消費してるっぽいわね、それなら質量で殴り続ければ勝てる気もするけど…無理か)
(まぁやれなくもないけど、そこまでするともう力加減なんてできないわよね、ワンチャン殺してしまいそう…テオほどの人物、下手に殺すわけにはいかないし…)
アイラはもう少しテオをよく観察し続ける事にした。
だがその頃、テオも同じく、アイラを観察していた。
そして、テオはさっきまでのある確信が、事実の自覚に変わった。
このままアイラと戦えば、負ける。
向こうに殺す意思があるなら、確実に死ぬ。
僅かにあるかもしれない勝てる可能性を探ってみたが、どうやってもアイラには勝てないと判断せざるを得なかった。
とはいえ、だからと言って逃げるわけにもいかない。
こうなると手段は一つ…
(奴を撒く、絶対に)
テオはバリアを棘状に変化させて木の根を破壊し、再びアイラと剣でせめぎ合った。
やはり結果的な力での差は少ないのか、両者はある程度互角の戦いを繰り広げた。
だがやはりアイラの方が技術も含め上であり、徐々にテオが追い詰められていく。
その間も、アイラはテオの動きや状態の観察を怠っていなかった。
テオもまた、アイラを撒く隙を常に伺っていた。
そして、もう一度アイラはテオから離れ、今度は黒い翼を展開して空中から攻撃しようと考えた。
その際、テオの髪が羽ばたきで発生した風でたなびいた。
「……!?」
その時、アイラは違和感を感じた。
何故、テオの髪がたなびいたのか
そして新たに疑問が生まれた、よく考えてみれば、テオは一体どうやって呼吸をしているのかと。
バリアが外部からのあらゆる接触を遮断するのなら、空気だって例外じゃないはずだ。
当たり前すぎて逆に気づかなかった当然の疑問。
そう考えれば疑問はまだまだある、普段どうやって食事をとっているのか、そもそもどうやってテオは歩行をしているのか。
バリアが下側にもあるなら、それが地面に着いて結果として浮く事になるはずだ。
なのにそうならない、一体何故なのか…
空気中にも僅かだが魔力は存在している…
「…………!!!!!」
理解した、確証はないが意味がわかった。
アイラは翼を閉じ、ゆっくりと着地する。
「もう一度いうわ、大人しく逃げ帰るなら、何もしないと約束してあげる」
「…俺がそうするとでも?」
「それは分からないけど、貴方のバリアの攻略法は、分かったわよ」
次回、バリアの攻略法
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