91話 βの謎
見渡す限り野原が広がっているだけである。
テオが率いていた部隊も、βが戦場を離脱した事をうけ、変わりに見張りとなる戦士を周辺に派遣した後、一度レンドンに戻った。
そこでテオ達は、戦場での出来事を記録した報告書を書いた後、しばらくの休憩をもらった。
その途中テオは、報告書にも書いたβの変わり様について、ずっと考えていた。
明らかに様子が変わっていた。
全身に赤のラインが張り巡るようになっていたし、何より戦い方がまるで別人のようになっていた。
まるで、何かに怯え、叫んでいるようだった。
そして、あの涙…
考えれば考えるほど、わからなくなってくる、βとはなんなのか。
奴は一体何者なんだ、あれの正体がわからない限り、テオは何も解決しないような気がしてならなかった。
この戦争の事もあるが、それ以上に…テオ自身が、何も解決しない気がした。
3日後、テオを含めた数人の戦士が、フレミング・ロムレス軍上層部による作戦会議に参加していた。
そこで、テオはある情報を聞かされた。
フレミングにスパイとして潜入していた戦士からの連絡が、突然途絶えたという。
おそらくは敵に見つかり、倒されたものと考えられ、その事実の確認と、彼に変わる新たなスパイを派遣しようという案が出た。
その瞬間、テオは真っ先に「私がいきます」と宣言した。
「君が…いくのか?」
「はい、私の能力を待ってすれば、これ以上の適任はいないはずです。それに奴らは偵察作戦に失敗したばかり、しばらく大きな攻撃はしてこないでしょうし」
上層部達はしばらく頭を悩ませた
確かにテオならば確実に作戦を成功する事ができるかもしれない。
だが敵地にはβだけでなく、あの平原の戦士達を一瞬で葬ったアイラもいる可能性が高い。
しかし、敵は直近でも10年前と22年前の2度、諸々の条約を無視してその当時の技術を上回る兵器を開発しようとしていたあのサインだ。
何を企てているか分からない、スパイの存在は必要だ。
「……………」
全員が揃えて頷いてこう言った。
「わかった、では、よろしく頼む」
「了」
だがこの時テオがスパイに名乗り出た理由は、戦争の勝利のためとは全く別の理由であった。
βについて知りたい、彼女の涙の意味を知りたい。
今テオの頭は、これだけしか考えていなかった。
これだけは自分の手で真相を突き止めないとけないという、使命感のようなものまで感じていた。
必ず目的を達成させると、そう決意した。
4日後、テオは単身で、サイン国首都、ジャリへと向かった。
テオの心境も、ゆっくりと揺らいでいってますね。
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