8話 対立の渦
アイラが宮殿に連行されてから、1日が経過した
ロックドラゴンを倒し、国を救った英雄のようにみえたアイラは、敵国のスパイかもしれない
この衝撃的なニュースが後日、政府から直々に発表された
これには国民の間でも、様々な論争が巻き起こった
「やっぱりね!なんか怪しいと思ってたのよ!」「都合が良すぎたしな!」
と、アイラのことを噂でしか聞いていない人の多くは、この件を肯定的に捉えていた
が、
「いいや!アイラ様は俺たちの英雄だ!」「目の前で見てないからそう言えるのよ!」
と、あの場を目撃した人の多くは、アイラを擁護するような意見を多く持っていた
相次ぐモンスターの凶暴化による不安も遠因となり、民衆達の意見は、アイラという1人の少女を中心とした対立の渦が巻っていた
その頃、俺とエルナとマイロの3人は、対ロックドラゴン戦で活躍した功労として、3日間の休養が与えられていた
そのためこの機会を逃すまいと、俺たちは前にエルナがしつこく紹介してきた、最近他国から輸入されたスイーツとやらを食べに向かっていた
「おいし〜い」エルナがしがみつくようにスイーツにかぶりつく
俺とマイロもエルナほどではないが、いちご特有の絶妙な硬さとしょっぱさと、クリームの柔らかく優しい感触を味にしたような、食べた瞬間口の中に甘みが充満して広がっていく感触が融合したような食感…いちごスイーツと名付けられているそれは、俺もマイロもこれまで食べた事のないような味で、それに完全に心を奪われてしまい、気づけば3回も繰り返し注文してしまっていた
「すごいわねこれ///味が良いのもそうだけど、それ以上に見た目がかわいい!超かわいい!しかも味の方も甘さを基調にしてるとかマジ最高!いやほんとエグいわこれ、すごい女子受け!」
エルナの興奮度合いがかつてないほどヒートアップしている
かわいい…か、確かにカップの中に規則的に敷き詰められたいちごと、小さく、それでいてアクセントカラーのようにその一点だけが一際目立つ白色のホイップクリームとが完璧に配置されたデザインは、食べ物とは思えない芸術性が感じられるのは確かだが、あそこまではしゃぐほどのものなのか?俺にはよくわからない
「そういえば、アイラさん、一体どうなるんだろうな」マイ切り出すように話を振ってきた
「確かにね…私たちを助けてくれたのに…」エルナも少し不満気にマイロに同調した
「真実がどうであれ、一度こうなった以上たぶんアイラはスパイって事にされるだろ」
俺は啖呵を切るように言い捨てた
「そう?アレス?そんな事ある〜?」エルナがいつものように妙なテンションできいてくる
「だってそうだろ、普通、英雄レベルの実績を得ている程の人間をスパイ容疑にかけるなんて、今みたいに国民同士で意見が衝突する事なんて目に見えてたはずだ、たぶんその内宮殿に直接押しかける連中も出てくる」
「でも本当にスパイかもしれないんならしょうがないんじゃない?」
「ならお前は、彼女がスパイだと本気で思うのか?」
「それは…じゃあなんでわざわざこんなことを」
「さぁな、どうせ王様達にとっては重要な、俺らにとってはしょうもない理由があったんだろうよ、例えば、彼女の力が怖いとかな」
「アイラが怖い?」エルナが不思議そうに聞き返す
「なんのお話ししてるの?」
突然、妹が一切の予兆なく俺たちに話しかけてきた
流石に全員が反射的に驚く、本当に直前まで気配を感じなかったのだ
「ミア、帰ってきてたのか…」
「うんお兄ちゃん、さっき帰ってきたの。ねぇお兄ちゃん聞いて」
「なんだ?」興味なさげに聞いてやった
「いつもみたいにモンスター倒しにいったら、そのモンスターがいつもよりもすごく凶暴になってて、倒すのにすごく時間がかかってしまったの、私頑張ったんだよ」
「…………!」確かに、その件についても少し興味はあるかもな
「ねぇねぇ、褒めて褒めて、お兄ちゃん」
「はいはい、よくがんばったな」
エルナが改めて話題を変える
「やっぱりまだ終わってないのね、凶暴化事件」
「しかもどんどん目撃数が増えていっているらしい、これは復帰したら忙しくなりそうだ」マイロが自分自身を鼓舞するように呟く
モンスターの原因不明の凶暴化と、ロックドラゴン出現の謎、そして、アイラの疑惑…なんだ?なぜこれほどにも、国を揺るがすレベルの事が立て続けに起こるんだ?本当にアイラがスパイで、全て彼女が仕組んだものだというのか?
いや、そんな事はない。
全て王国が考えた作り話だ。疑う理由もない
奴らは建前で国民を騙し続ける、詐欺師なんだから