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88話 限界突破のその果てに

イレーネはそう愚痴をこぼした。

「ウイッチ…お前は、俺が倒す!!!」


マイロは静かに、凍ったような激しい顔で言った。


「あっそ、じゃ、アンタも死ね」


そんなものは眼中にないとでも言うように、無慈悲にもウイッチは箒をマイロに向け、再びテンペスト・レーザーを溜め始めた。


「!!!」


「だってアンタ、今毒のせいで動けないんでしょ、だからさっきの女を助けられなかった、それと同んなじで、今度はアンタの命が助からないの」


確かにそうだ、まだ体の痙攣も残っている、だがすぐにでも動かないとあれを喰らってマイロ自身も死んでしまう。


どうすればいい、考えろ、ここで死ぬわけにはいかない。


俺は絶対に…奴を倒すんだ。


そう何度も心で強く念じた時、ある作戦が頭に思いついた。


けどこれは賭けにも等しい作戦だ、もし失敗すれば、それでも死ぬ事になるだろう。


けどこの方法以外に、この状況を打破する方法があるとは思えなかった。


いや、もしあったとしても、今のマイロでは考えつかなかっただろう。


マイロはゆっくりと大きく深呼吸をしてから目を細め、覚悟を決めた。


「スキル…限界突破」


ウイッチはテンペスト・レーザーを放ってきたが、マイロは目で追えないほどの速度でこれを避けた。


「ちっ、さっきのやつか」


マイロは瞬拳を使い、一瞬でウイッチに殴りかかった。


だがやはり反応され、エアズシールドを使われてダメージが軽減された。


だが奇妙なのはここからであった。


さっきは一度攻撃が終わると元のマイロに戻っていたのが、何度攻撃してきても戻る事はなく、そのままの速度で攻撃を繰り返してきているのだ。


そう、これがマイロの作戦である。


発動した限界突破を解除せずにそのまま使い続ける、こうすればスキルの発動中毒を実質無効化できるし、なによりスキルの効果でスキルの反動で起こった痙攣も無視して戦う事ができるからである。


だがこれがどれだけ危険なこういうなのかは、マイロが一番理解していた。


本来スキルの代償で起こっている痙攣も、もう一度同じスキルを発動して上書きしようとしている。


そんな事をして、スキルを使い終わったとき、恐らく底知らない反動が返ってくるだろう。


最悪そのまま死ぬかもしれない、それが分かっていても、マイロはこうするしかなかった。


それがこの状況で生き延びる、唯一の手段だと思ったから、ウイッチを倒す、唯一の方法だと思ったから。


「ちっ、ダル、」


ウイッチは愚痴を溢しながらもロックンウォールを発動し、マイロの攻撃を防ごうとしたが、マイロのアビリティでもないただの攻撃一つに、簡単に破壊されてしまった。


「!嘘」


マイロは更に追加で攻撃を加えてきたが、これは間一髪で回避に成功する。


          ガシッ


だが、マイロはすぐに腕を振りウイッチの服の袖を掴み、捕らえた。


「!しまっ、」


マイロはそのままウイッチを空高く投げ飛ばし、すぐに自分も地面を強く蹴り上げてウイッチを追撃しようと再び拳を向けた。


ウイッチは逆に反撃しようと、火炎放射をマイロに放ち、直撃した。


だがマイロはこれを無視してそのまま突っ込んで行った。


「!?嘘!!!」


「うおおおおおおおお!!!暴神拳!!!!!!」


マイロの暴神拳は、ウイッチに直撃した。


ウイッチは当たる寸前にエアズシールドを発動したが、ダメージを軽減し切れずに森の奥まで衝撃音を上げて吹き飛ばされた。


「はぁはぁはぁ」


それをその目でしっかりと確認すると、マイロは限界突破の使用を止めた。


「!!!!!」


その瞬間、マイロの体に信じられない激痛が走り、かと思えば全身から皮膚を裂いて血が飛び出し、そのまま地面に落下して動けなくなった。


「う…あ…あ…」


正直、返ってきた反動は想像以上のものだった。


指先一つ動かなくなり、生き急ぐように心臓の音が鳴り続けているのが、地面に腹を付けているからよく分かる。


本当にまずい、このまま…ここで死ぬかもな。


すまないな、アレス。


「危っぶねぇ、マジで死ぬかと思った」


その時、森の奥から、ゆっくりと自分に向かって歩く声が聞こえてきた。


(そんな…まさか、嘘だろ…)


何度も心で違うと願い続けたが、足音はだんだん近づいていき、もう言い逃れできないほど大きくなっていった。


「随分とめちゃくちゃやってくれたじゃない」


ウイッチだ、ロックドラゴンの岩の鎧ですら傷つけたあの攻撃を耐えられたのだ。


そして、マイロの命を懸けた決死の攻撃を、耐えられた。


それも頭から少し血を流す程度で、


「やっぱりあんたはそこそこやるようだったわね、けどこれで、今度こそ終わり」


ウイッチは箒をマイロの目の前に向けた。


「さよなら」


そして、テンペスト・レーザーのチャージを始めた。


これは…終わったか?俺も、


身体が全く動かない、意識もどんどん遠のいていく、


目の前がぼやけて、ウイッチが本当に俺に止めを刺そうとしているのかすら、はっきりと視えていない。


そうだな、どうやら…ここまでのようだ。


ごめんなさい…シスタさん、カルさん、仇を討とうとしたけど、出来ませんでした。


アレス、ごめん。


結局俺は、お前が手に入れたであろう、生きる希望が何なのか分からなかった。


お前はそんな事全く気にしないんだろうけど、それでも俺にとっては、何よりも悔しくて、罪悪感で心が縛られそうになる。


アイラ様…エルナ、後は頼んだぞ、アレスの事。


この願いが届くのなら、俺に思い残す事は…ない。


その時、アレスが目を覚ました。


「………………………」


いや、違うな。


そうだ、そうだよな。


ここで、唯簡単に死んでいっちゃ、ダメだろ。


俺は少しでも、あいつの支えになりたかった。


あいつとは、いつまでも良い仲間でいたかったんだ、


だからこそ…これから死にゆく前に、少しでもいい格好しねぇと…


その時、マイロは一瞬で天高く飛び上がり、拳を突き上げた。


右手が右月光に照らされた。


「ここまで生きてきた、意味がねぇだろぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


マイロは限界突破を発動し、拳を地面に叩きつけて飛び上がった、その瞬間、一瞬だけ、マイロの身に纏う魔力が龍の頭のような形に変化したように見えた。


「アビリティ、[竜王拳]!!!!!」


これが俺の、最後の限界突破だろう、文字通りな。


最後に残った力の全てを振り絞って攻撃する…今度こそ、ここで確実に倒すために!!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」


ウイッチはエラズシールドを使い、僅かに起動を反らせて地面に拳を直撃させた。


その瞬間、森が吹き飛ぶかと思うほどの衝撃波が辺り一面に広がった。



……竜王拳を喰らい、破壊された地面の下で倒れるマイロ。


それから逃げるように、ウイッチは全身に傷を負いながらレンドンへと歩いていった。


「くそ、なんなのさっきの…やつ、本当に死ぬかと思ったじゃない…でももう、流石に絶対死んだわね、あいつ。あんなすごいの使って、無事で済むはずない。あーくそ、それにしても本当に死ぬかと思った」


マイロは足を引きずらせながら撤退していくウイッチの姿を、地面からなんとか捉えている。


それよりも、仕留めきれなかったか、


避けられて、奴ではなく地面に当たったしまったか…


いや、もう理由なんてどうでもいいか。


これで終わりだな、本当に俺も。


魂がどんどんと消えていっている中、俺が最期に想った事は、意外にも一つだけだった。


アレス、エルナ、ミア、ノア様…


今まで、ありがとう。後は頼んだ。


マイロの瞳はゆっくりと閉ざされ、そして何の迷いもないように、静かに眠りについた。

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