87話 どこだって、変わらない
「死んだように眠っているね、まだ目覚めないのかい?そうだよね、やっぱり君は、目覚めたくなんてないんだよね」
透明で綺麗な、そしてどこかで聞いたような声が、どこからか聞こえてきた。
俺はそれに誘われるように、目を開けた。
「!!!」
目を開けると俺は、一面に緑の原と、見たこともない赤い花に囲まれた場所で寝転がっている事に気づいた。
空には雲一つない青空が広がっていて、吹いてくるそよ風も抱きしめられるように暖かかった。
「なんだ…この花畑、何処だ…ここ」
いくら辺りを見回しても、花畑としか言えないこの景色が広がっているだけだった。
「なんでこんな所にいるんだ…俺」
「驚いたかい」
突然、背後から聞いた事のない声が聞こえてきた。
俺は、すぐに後ろを振り向き、声の主を確認する。
そこには、長い水色の髪に、細々しい白色の瞳、ラフな白いワンピースを身につけた少女が立っていた。
なんだ…この娘、何者だ?
声が聞こえてくるまで、全く気配を感じなかった。
只者じゃない、フレミングの戦士だろうか?だとすればこの花畑もアビリティ…
「良かったね、もうすぐ死ねるよ」
「!!!」
それを聞いた瞬間、さっきまでこの娘に感じていた、全身が裏返るような警戒心は、一瞬、完全に消え失せた。
「やっぱりね、今君、笑ってる」
「!!!」
そしてまた、俺はこの娘を警戒して後ずさった。
なんだこの、見透かしたような声は、
心の内を全て読まれているような感覚だ。
そして思い出した、この声…よく聞くと、さっき俺に話しかけてきた声と同じだ。
本当に何者なんだ、この娘は、俺を花畑に連れてきたのはこの娘なのか?
「ふふ、少しずつ警戒心が解けてきたようだね、そうだよ、ぼくは君の敵じゃない」
不思議と俺は、その言葉をあっさり信じて、彼女に質問をした。
「君は…何者なんだ?ここはどこなんだ?」
「ふふ、そうだね、今はまだ答えられない事も多いけど、一つずつ話していこうか」
そう言うと少女はその場に座り込んだ。
その後、君も座りなよと言わんばかりに手招きをした。
だが俺は座る事なく、もう一度少女に質問した。
「もう一度聞く、君は何者で、ここはどこなんだ…」
怯えるように、切り込むように、少女に質問する。
「そうだね、まずここがどこかについてだけど、それはぼくでも答えられない」
「!どういう事だ…」
少女は上を見ながらこう答えた。
「というより、どう表現すればいいか分からないんだよね、ここはぼく自信とも言えるし、君とぼくの繋がりとも言えるし、君が望んだ具現とも言える」
「どういう意味だ」
「ま、それはいいよ」
少女は話を逸らすように立ち上がり、人差し指を口元に当てながら辺りを歩き始めた。
「そうだ、君に一ついい話をしてあげるよ、君にとって一番いい話だ」
「?なんだよ」
少女は小さく微笑んで、こう言った。
「できるよ、今からでも、異世界転生」
「!!!???」
俺は一瞬、頭が回らなくなった。
けどそのすぐ後に驚くほど頭が冷静になって、気づくと俺は、頭の中で少女の言った事を否定していた。
「なにを言ってんだ!!!そんな事君になにがわかる!?そもそもなんで俺の夢の事知っt…」
「分かるよ、君の事は、全部ね」
少女の発言に呼応するように、突然激しい風が吹いて、一部の赤い花が宙に飛び交った。
「じゃあ…どうやるって言うんだよ、どうやったら異世界転生できるって言うんだよ!!!」
俺は右腕を強く振り払いながら言った。
それに対して、少女は余裕そうにこう答えた。
「う〜ん、実際はちょっと複雑だけど、言葉にすると簡単だよ、今から言う3つのものを揃えればいい」
「3つ?」
「そう、1つは始まりの龍の骨、もう1つは支配者の魔力、そして、最後の1つは…全てを繋ぐ次元の扉、これら3つを適切な方法、適切な用量で揃える事で、君は簡単に異世界に転生する事ができるよ」
少女は驚くほどあっさりと説明してくれた、けどそれは、俺には何一つ分からないものだった。
「なんだよそれ…俺にはその龍の骨も、支配者の魔力も、次元の扉も知らない、お前…何がしたいんだ」
「今はわからなくても、いずれ分かるよ、それもすぐにね」
「何を根拠にそんな…」
「さぁね、強いていえば勘かな」
なんなんだ、本当になんなんだこの娘は、
只者じゃない事は分かる、けどそれ以上が分からない。
この娘の言っている事を信じたい自分もいるし、認めたくない自分もいる。
俺はこの娘に何を求めている?この娘は俺に何を求めているんだ?
「まぁ信じるかどうかは君次第だよ、今はまだ…それより、そろそろ時間がきたみたいだ」
「!!」
少女は振り返り、このまま出て行こうと歩き始めた。
「あ!おい待て!まだ君の名前を聞いてない、君は何者だ!」
少女は足を止め、立ち止まって「ぼくかい?」と言った。
「そうだね、[ガイナ]…君にはこう言っておこうかな」
少女がそうとだけ言った後、突然この世界に霧がかかり始めて、瞬く間に少女はおろか、前すら見えなくなった。
…ガイナ、間違いなく彼女は自らをそう名乗った。
次回、マイロvsウイッチ、決着
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