79話 凶大な力
「ハデス様から指示があったんだ〜俺に次の工程を踏んで欲しいとな〜」
テオは1人、更地になった戦場を歩いた。
どこを見渡しても、どれだけ見渡しても、目に映るのは肉体が剥がれとれた死体しか映らなかった。
誰なんだ?ここまでの事を一瞬でやってのけたのは、
その時、テオの片目に映り込んだのは、他とは違う、見覚えのある人の死体だった。
「……カナリ?」
それは、頭が炙られたように溶け、原型も止めずに横たわる親友の姿…
この時テオは確信した、自分よりも遥かに強い何者かが、自分達を一瞬で殺戮したのだと。
そしてそれが、フレミング達の手に持つ所にあるという事を…
疑いようもなく、そう、確信してしまった。
煮え切らない感情を誤魔化そうと、無意識に空を見上げた瞬間、見知らぬ女性と目が合った。
誰だ?あれは?何故あんな所に人が?翼?
元よりかなり気が動転していた事もあってか、テオはすぐにはその意味に気づけなかった。
8秒間その人と目を合わせて、ようやく今の状況に気がつく、
(あれが…大量に仲間を殺した奴…)
テオは一瞬拳を握りしめたが、すぐにその手を解いた。
勝てないとわかりきっているからだ、この距離からでもわかる。
奴はテオよりも遥かに魔力量が多いし、そもそもテオにはもう魔力がほとんど残っていない。
それでも戦うしかないのだろうか、戦場で目が合ってしまった以上…
そう思っていたが、女はただテオにウインクをするだけで、何もせずにそのまま敵の軍幕の方へ飛び去っていった。
なにか…向こうの狙いがあるのだろうか、
あるのだろうが、今はひとまず、素直に助かったと喜ぼう…
…そう、思いたかった。
ゆっくりと足を動かし続けて、ようやく我が部隊の軍幕まで戻ってきた。
「テオさん!?よくご無事で!!!」
司令部の人がテオを心配して駆け寄ってきた。
「だ…大丈夫です、それより…今起こった事をすぐに報告して下さい」
「さっきの爆発ですか!?何があったんですか!?」
よく見えていなかったのか?確かに爆発が激しすぎて肉眼では観測できなかったのかもしれないが…
「謎の少女と少年に、私以外の全兵士が倒されました」
「全員…ですか!?」
そりゃあ、すぐには信じられないよな、無理もない。
「少年というのは、ナスカン王国の戦士、アレスの事です。奴に驚異的な速度で移動するようなスキルで、サイン、ナスカンの兵士全員を戦場から離脱させられました」
「驚異的な速度…ですか」
「便利状そう言いましたが、具体的にどういった能力なのかは不明です、高速移動よりも遥かに早く、しかしワープともまた違ったように感じました」
「それで、少女というのは」
そう、問題はそこなのだ。
「少女の方も、恐らくナスカンの戦士だと思うのですが、偶然目が合った時に見えた顔は、リストでも見たことがない容姿でした。全く、未知の存在です」
「未知!?しかしその言い方ですと、その未知の少女がさっきの爆発を起こしたと…」
「はい、それは間違いありません。あれだけの爆発を1人で起こせるだけの存在…奴らはノアに変わる…いえ、間違いなくノア以上の戦力を、新たに手に入れていたと見るべきでしょう」
テオは崩れた戦場を見つめながらそう言った。
「な…なんという事だ」
ただただ険しい目で、あの戦場を見続ける事しかできない。
テオにはそれが、ただただ悔しかった。
少女を相手に何もできなかった事、例え魔力が充分にある状態でも、あれに勝てるとは正直考え難い。
アレスの能力が未だによくわかっていない、奴の魔力自体は大した事はないが、あの能力がわからない以上、現状かなり危険な相手だ。
けどそれよりも悔しいのが、それが悔しがる一番の理由じゃないという事。
β…こんな状況になってまで、テオはあれへの苛立ちが収まっていなかった。
命令だけに従い戦うその姿勢、無を見つめているような空虚な瞳。
どうしても、テオにはそれが許せなかった。
苛立ち、悔しさ、もどかしさ…死体が転がり更地となった戦場を見つめるテオに、それだけが残った。
その頃、超新星作戦を終えたアイラも、自分の部隊の軍幕へと戻っていっていた。
その途中でアイラは、この作戦でビックバン・ボムを使った事について、1人反省会を行っていた。
「いや〜でも、まさか一回使うだけでここまで魔力を持っていかれるなんてねー、一回の使用で半分以上…これはあんまり使わない方がいいか」
〔レベルが91になりました。新たなアビリティ、[クラッシュプラント]を会得します〕
〔レベルが92になりました。新たなアビリティ、[ディグアップメモリー]を会得します〕
一度に2つもレベルが上がった。
まぁあれだけ倒せば流石にね、
だけど、倒した直後ではなくしばらく時間が置かれた今レベルアップか…
やっぱり昔と比べてだいぶ経験値が溜まりにくくなってるわね。
そうこう考えている内に、軍幕が見えてきた。
それと同時に目に入ったのは、地面に倒れて目が閉ざされているアレスと、それに駆け寄っているエルナの姿だった。
「アレス君!?」
アイラは急いで軍幕に戻り、アレスの様子を診てみた。
「アレス!!!しっかりして!!」
隣でエルナが叫んでいる。
「落ち着いて、わかってるでしょ」
隊長がアイラに説明を求めてきた。
「あの…アイラ殿、これは一体」
「大丈夫、超越光速の代償のようなものですから」
「そうですか…失礼ながら、それは、毎回こうなるものなのですか?」
「いえ、今回アレスは味方の兵士全員をこの軍幕まで運んだのですよね?そこまでの規模で超越光速を使うのは初めての事らしいでしたので、普通はこうはならないかと」
「そうですか…」
よし、とりあえずフォローはしといたわよ、余計なお世話かもしれないけど。
アイラはアレスにヒールアレイを使った、これで少しは回復が早まるだろう。
それにしてもこの戦争、なんかめんどくさい事になりそうな気がするのよね…
どうしてだろう。
何故だか漠然と、嫌な予感がした。
その嫌な予感は、アイラ本人とは違った所で、的中する事となる…
ひょ・ブクマ、よろしくお願いします!