7話 どこまでも期待は裏切らないか…
アトミック宮殿3階の左奥の部屋、ここはナスカン王国最強の戦士、[ノア]が固有する事を認められている部屋である
ノアは、国王が1人の戦士に宮殿の一部の個人利用を認めている唯一の人物である
黒く細長いスーツに長いコートを着用した、真下に細長い髭が特徴の老人であるが、その老いを一切感じさせない実力と風貌を兼ね備えていて、現在でも現役で活躍している王国最強の戦士である
「なにやら、外が騒がしいな」
そんな人物にも、ロックドラゴンが出現した事による国民達の騒ぎ模様が、耳に入ったようである
「どうやら、街内にロックドラゴンが侵入したようです」と、ノアが付き添いとして認めている女性が答えた
彼女は宮殿に仕える人間であると同時に、弁護士でもある
「そうか…ならば、私が早急に始末しなくてはな」と、ノアは常に鞘に入れて携帯している剣を持って立ち上がった
「それが…もう既に倒されたようなのです」
「?どういう事だ?」
「アイラと名乗る出身地不明の少女が、ロックドラゴンを一瞬で倒してしまったようなのです…!」
「なに!?一瞬だと?まさか…相手はドラゴンだぞ…」
「しかし、本当のようです」
ノアは少し間をおいて「まぁよい、ところで、英雄法に則れば、そ奴は英雄という事になるが…王はどうするつもりなのだ?」
「それが……………」
「…………………ふむ」
「英雄だ!」「あんたは英雄だ!!!」
街の人達は皆、子供のように両手を上げて飛び跳ねながら、彼女を英雄と呼び称えている
確かに、あのままロックドラゴンを放置していれば国が滅びるか、事実上の滅亡になるのは目に見えてたしな
彼女を英雄と呼んで、まぁ間違いないだろう…けど1つ、どうしても気になることは……
「転生者って、なんだ?」俺は彼女に問い詰めた
「言葉の通りよ、私は異世界から転生してやってきたの」
「異世界からって…それどういう…」
俺は、奇跡に期待して詳しく意味を聞こうとした
そんな俺を遮るように、さっきの門番の人が人並みをかき分けてアイラの方に走ってきた
「あ、さっきの門番君やっほー、どう?私確かにドラゴンを倒したわよ、これで一応私も英雄になるのよね?だったら…」
その時、その門番によって、アイラの両手に手錠がかけられた
「は?」
流石のアイラも驚愕…というより困惑の表層が浮き出ていた
もちろんそれは俺たちだけではなく、この場を目撃した全員が戸惑い狼狽えた
「なにすんだよ!その人はロックドラゴンを倒してくれたんだぞ!」俺たちの中では、マイロが最も強く声に出して反発した
「そうだ!そうだ!」「その人は、我が国の英雄だぞ!」
住民達は、まるで赤目砂鉄が1つの磁石によって全て纏まったかのように団結して、門番に反論を浴びせた
「そう言われても困ります!これは王の指示なのです!後、壊された検問の修理と、ロックドラゴンの遺体の始末についてはこの後すぐに行われますので、みなさんこの場から離れて下さーい」
門番はアイラを連行しながらアトミック宮殿へと向かっていった
国王の命令だと言われた途端、全員の反論する口が、止まっていた
アイラ自身も抵抗するのはよくないと考えたのか、そのまま大人しく宮殿の方へ連行されていった
まぁ、なんというか…正直、驚こうとは、しなかったな。
何故こうなったかはさっぱり分からないけど、ただなんとなく、こうなる事を覚悟していたというか、期待するのはとっくに諦めていたから、もう、なにをされても、絶望する事は、もうなかった
アイラはそのまま、国王のいる玉座の間へと連れて行かれた
アイラの目の前には、鋭利な眼差しで自分を見つめる国王の姿がある
「あなたが国王ですか!?これは一体どうゆう事です?どうして私が拘束されなければならないのですか!?私、一応国の危機救ったと思うんですけど!?」
「貴様!国王に対して失礼だぞ!」
国王の名は、プライム2世。プライムは重圧的な物言いで、アイラの質問に淡々と答える
「よい、全て私が答えよう、貴様、名をアイラと言ったな」
「えぇそうですが!?」
「単刀直入にいう、貴様の行った行為についてだ」
「行為?なんですかその言い方」
「貴様はこの国に現れた厄災、ロックドラゴンを葬り、我が国の危機を救ってくれた、この事実は考慮しよう。」
「そうですね!むしろそこだけ考慮すればそれでいいと思うのですが!?」
アイラは反論の意思を強調した
「だが、貴様の素性がなにも分からないというのも事実だ。
先ず貴様が主張しているこの入国許可証」
プライムは彼女からいつの間にか取り上げた入国許可証を取り出した
「ここに書かれてあるシュメルン共和国というのは、確かに実在し、我が国とも有効的な関係を築いていた国だ、一般的にはあまり知られていなかったがな」
「……あなたの言いたいことは分かりました。確かにシュメルン共和国は、今は滅亡しています。1ヶ月ほど前、突然まるで部屋の中の埃が洗い流されたかのように、領土の全てが、文字通りの更地になった…という噂を聞きました、そして、国家としての機能が失われた元シュメルン共和国の領土を巡って、大国達がもめあっているという事も…しかし!私はその事とは関係ありません!そもそもその許可証は、国家が滅亡する前にクレイム総理に直接いただいた者です!シュメルンが滅亡したのはその後の事…ですので、私には関係がありません」
だがプライムは、見透かしたような目でアイラを見ながらこう言った
「知っているか?4時間ほど前から、我が国周辺の森林で、モンスターが集団的に凶暴化する現象が多発している事を」
「凶暴化?」
「そう、最初に報告された1体のリザレインに始まり、あの森のいたる所、あらゆる種類で報告されている。過去に世界中、どの国にも前例のない、異例の事態だ。そして、この森には本来生息していないはずのロックドラゴンの突然の出現、それらと全く同じ日に現れた、身元不明の貴様…」
「ち、ちょっと待って下さい!!!だからビザが…」
「そもそもだが、一国を統べる者が、政府の者でもない一個人にわざわざビザを手配するか?」
「それは…」
「こうは考えられないか?我が国に敵意を見出す国家が、我が国の情報を掴もうとスパイを送り込んだ。そのスパイは確実に我が国に潜入するため、何らかの手段で事前に周辺のモンスターを凶暴化させ、更に生息していないはずのロックドラゴンを送り込む。その後に自らが我が国に降りかかった脅威を撃退して見せる事で、我が国の英雄法を利用して戸籍を手に入れる、更に英雄となったことで得た信頼を使って我が国の政治に関与し、その立場を使って秘密裏に機密情報を盗み出し、それを敵国に漏洩させようと考えた…と」
「……………!!!!」
この話を聞いて、アイラの表情は、明らかに青く引き攣った
「その者にはスパイ容疑がある!今すぐに捕らえよ!!!」
「はっ!!!!」
大臣が命令した瞬間、アイラを見張っていた兵士達が一斉に彼女を取り囲んで再度拘束した
「ち、ちょっと!なにしてんのあんた達!ビザの筆跡を鑑定すればすぐに分かる!お願い!もう少し考えて!お願い!!!」
アイラは必死に無実を訴えるが、プライムは一切耳を貸そうとしなかった
「これでよろしいのですか?国王」
大臣が忠告する
「あぁ、これが我が国の結論だ」
兵士達に囚われ、地下牢に無理矢理連れて行かれながらも必死に無実を国王に訴え続けるアイラの声が、脆弱に玉座の間になり響く
それは、非を認めずただ泣きじゃくる子どものようにも、不正な真実を訴える叫びのようにも聞こえ、とにかく、大きな声だった
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