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77話 感じた奇妙

「さっき支配者から通達がきた〜、フェニックスに関係するある任務をな〜」


アジエルは確かにそう言った。

巨人の中にいた少女を一目見た時、テオは妙な違和感を感じた。


恐ろしさすらも感じられる巨人に変身していたのが可愛い女の子だったからとか、想像よりも静かで、大人しい顔だったからとかではない。


何か本質的に、戦士を見ているという感覚にならなかったのだ。


「なんだ…お前、何者だ」


テオは攻撃の事を忘れ、無意識に彼女に質問していた。


「はい、テオの撃退に失敗しました、今私の目の前まで迫っています、至急応援を要請します」


だが少女は当然質問に答える気などなく、通信で直ぐに応援を要請した。


「なんなんだ、お前は」


諦めずに少女の事を問いただすテオ。


流石にめんどくさいと考えたのか、少女は一言「強いも何もない、ボクはお前の敵、それだけ」と、無表情でそう言った。


やっぱりなんだ、この違和感は…


この少女と話していると、心の中にもやがかかったような気分になる。


その違和感の正体が分からないまま、テオは今直感で一番聞きたい事を聞いてみた。


「お前、何のために戦ってる…?」


「命令」


テオのその質問に、少女は即答した。


信じられないほど早く、それが当たり前のように…


だがその即答を見て、テオはだんだん、もやの正体が分かりかけてきた。


「命令…本当にそれだけか?お前自身の目的はなんなんだ」


「目的…?全ての作戦はこの戦争に勝利するため、それが目的」


「それはフレミングの目的だろ?お前自身はどうなんだ!護りたいものがあるのか?壊したいものがあるのか?何を理由に武器を取った!?」


畳みかけるようにされたテオの質問に、少し間を置いて少女は答えた。


「フレミングは敵、そこに理由も動機も存在しない、それがボクの意思」


…あぁそうか、今わかった。


こいつは、自分の意思などないんだ、命令だけで戦っている。


空虚で、中身のない感情で敵を殺している…


だが、テオにとってそれは…


「俺は…お前のような人間が、この世で一番嫌いなんだ…」


「そう、奇遇ね」


「!!」


「始めは何も感じなかったけど、お前と話していると、だんだん、胸がざわざわしてきた…」


少女は胸元を強く握り締め、さっきよりも強い口調で言った。


「イライラする」


イライラする…か、正に、その通りの言葉だな。


「俺はテオ、お前…なんて名だ」


「…β」


βか…その名前、覚えたぞ。


そして今から、必ず殺す…!


          ヒュン


その時、突然目の前に、黒い剣を持った1人の戦士が現れた。


「まさかβさんがやられるなんてな…こいつがテオか」


ぶつぶつと独り言を呟いている、さっきβが要請していた応援の戦士だろうが…


しかし、コイツ何処から来た?瞬間移動にしては全く魔力が感じられなかった。


顔つきからして恐らくナスカン王国の戦士…待てよ?


よく見ると彼の瞳は、奥深い緑色をしていた。


緑の瞳、ナスカンの戦士、そして驚異的なスピード…


…アレスか?


ナスカンの戦士の中でも、特に注意すべき戦士のリストのかなり上の方に書かれてあった。


「だけど、かなり弱らせたようですね、流石です。後は任せて下さい」


アレスは沈んだ目でテオに近づいてきた。


くそ駄目だ、魔力が少なすぎて体が動かない。


注射針も出せないか…だが、こいつの魔力量ならそれほど警戒する事はない。


とにかく様子を見て、一撃で確実に倒す。


アレスは剣を振り翳し、バリアに押し込ませてきた。


「っ、ここまで弱っていても壊せないのか…」


そりゃあ、バリアの硬度に残り魔力量は関係ないからな。


それよりも集中しろ、一撃で仕留められるタイミングを見定めるんだ。


そう考えていた時、妙な事が起こり始めた。


徐々に、押し込む剣の威力が上がってきている気がしたのだ。


それもアレスの裁量というよりは、魔力そのものが根本から増していっているような…


なんだと思ってアレスを見上げた時、アレスの瞳が、カメリア色に光り出しているのが見えた。


その瞬間、アレスの体から薄紫の魔力が煙のように放出された。


更に剣の威力が上がっていっている…


いや違う、これは…バリアの硬度が弱まっているんだ。


何故かは知らないが、恐らくアレスから漏れ出ているこの魔力で…


いや、それよりも何故人の体から魔力が可視化されて視えているんだ?


分からない、テオには全てが分からなかったが、どんどんバリアが溶けるように弱まっていっている事だけは理解していた。


このままだとバリア自体が破壊され、攻撃が届いてしまう危険性すらある。


そんな事あり得るのか!?


テオは必死に疑った、そんな事あり得ないはずだと信じたかったから。


だが、それはアレスも同じだった。


アレスはこの時、今の自分の状態に気づいていた。


どういう原理で、何故こうなっているのかは分からないが、今自分の体から魔力が流れ出ていて、その力でバリアを突き抜けようとしているこの状況…


アレスは初めて、この状況を自覚した。


だが同時に、ここで混乱している時間はなかった、


今はとにかくこの勢いを維持したまま、バリアを破壊する。


それが今の最適解だとアレスは咄嗟に判断したし、それ以外が思いつかなかった。


だからこの攻撃が止まる事はなく、徐々にバリアが突破へと近づいていった。


まずい、本当にまずい、このままでは…


その時、突然アレスの攻撃が止まった。


アレスは耳につけている無線に手を当て、「もうですか!?しかし今…」と揉め出したのだ。


そして、アレスは無線から手を離し、「仕方ない」と溢した後、一瞬でアレスは消えていった。


よく見るとβの姿もなかった、恐らくまたスキルを使い、一瞬でβを避難させたんだろう…


だが、同時にテオは妙な気配も感じた。


いや違う、気配が感じられないんだ。


アレスが消えた瞬間、全ての敵兵の気配が消えた…


なにが起こっている?



その時、上空を飛来する、一つの小さな影があった。


「さてと、アレス君のお陰で避難は完了したみたいだし、ようやく私の出番ね」


アイラだ。


アイラはこの戦場の丁度真ん中の位置に止まると、右手にオレンジ色に小さく光る、一つの球を作り出した。


「じゃ、やりますかー。アビリティ、[ビックバン・ボム]」


アイラはその球を、ゆっくりと地上に落とした。


その瞬間、ビックバン・ボムが激しく金色に光り、その輝きのまま吹き飛ぶように爆発した。


「っああ、なんだ!?」


地面を凄まじい衝撃波が支配した。


テオはバリアのお陰でどうにか耐えられているが、ただでさえ残り少ない魔力量。


耐え切れるのか、そして他の兵士達は無事なのか、テオには全く確証が待てなかった。



2分後、この衝撃波の嵐がようやく収まった。


テオのバリアは………


無事である。


テオの魔力はぎりぎりの所で持ち堪えたのだ。


だが、地面に張り付いた土煙でまだ前が見えない。


テオはただただ願った、みんな…無事でいてくれ、と。


ようやく、土煙が晴れてきた。


テオはすぐに立ち上がり、辺りを確認する。


それと同時に、テオの顔が青ざめた。


さっきまで戦場と呼べたこの場所は、テオ以外の全てが崩れ斃れる…死体の平地となっていた。

恐ろしいとしか言えない力…


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