76話 テオ対β
「それについてだが〜」
アジエルが切り出したように言った。
激しい衝撃波で、テオの髪をたなびかせたのは、我が国の兵士を何人も葬った、例の巨人だった。
今この瞬間も、数えきれない人数の兵士が倒された。
黒と紫の体の中で、怪しく光る赤い瞳は、まるで死神のような威圧感があり、見つめるだけでこちらの魂が刈り取られるかのような感覚になる。
それにしても本当に鉄で出来てるんだな、何かのスキルかアビリティだろうが、こんなのは本当に聞いた事がない。
巨人とテオはしばらく睨み合い、互いの出方を伺っている。
だが、しばらくしない間に巨人が動き出した。
武器を装備せずに真っ直ぐテオへと突っ込んでいき、結果バリアに弾かれて、一度少し後退した。
だが、今の行為が無意味な事じゃない事ぐらいテオには分かる。
恐らくバリアの硬度を試そうとしたのだろう、結果力づくでの突破は不可能と判断したはず、さて、この後奴はどう動くか…
そう考えていた所、早速巨人が次の動きを始めた。
巨人は右腕を巨大なガトリングに変化させ、それで一心不乱に撃ち続けた。
しかしこれも、テオのバリアの前に弾丸は全て弾かれた。
今の攻撃で、一連の行動が無意味だったと悟ったのか、巨人は動きを変えてきた。
巨人は右腕を元に戻すと、今度は左腕を細く鋭い針に変化させた。
そしてそれを、ゆっくりとテオへと伸ばしていき、そのままバリアに密着させた。
このまま押し切るようにして、バリアを突破するつもりなのだろうか…
だとすればそれは無駄だ、テオのバリアは物理的には絶対に破壊できない。
その間、テオは背中の方にあるバリアを正方形状にして2つ破片として取り出し、それを巨人の両足に投げ飛ばした。
「ゴガァァァァァ」
それによって巨人の両足は傷つき、針も引き戻して少し後ろに後退した。
よし、硬いといってもバリアによる攻撃は通用するようだ。
このまま慎重に立ち回れば勝てるかもしれない。
…ガシッ
一瞬でもそう考えたテオの目に、突然あり得ない光景が映った。
攻撃を終え、テオの元に戻ろうとしていたバリアの破片を巨人が左手で鷲掴み、そのままテオへ投げ飛ばしてきた。
「!?」
ガキン
だがバリアは勢いよくテオに戻っただけで、特に問題なく事なきを得た。
だが、本当に注目すべきなのはこの次だった。
巨人は投げ飛ばすためにバリアに触れ、ボロボロになった左手を自ら切り落とし、そしてすぐに新しい手を作り出した。
巨人は傷ついた足で地面を踏み締めながら、前傾姿勢をとってテオを牽制する。
とはいえ、手はすぐに直したのに足は直さないという事は、治せないととるべきだろうな。
その後、巨人は両掌に小さな穴を空けてエネルギーを溜め、そのまま掌をくっつけてエネルギーを集約させた。
確かあれは…初めて巨人が出てきた際にも使ってきた技だ、それであの戦線の兵士達は全滅したという…
それほどの効力のアビリティが来るのかと警戒していたが、それ以上に奇妙な動きを巨人はした。
頭部からスコープを生み出し、しばらく何かを探しているように辺りを見回し始めたのだ。
そして巨人は、両手にエネルギーを貯めた状態のまま、口の中から砲身を出現させ、斜め上を向きながらエネルギーを溜め出した。
テオは最初、奴が何をしようとしているのかが分からなかったが、巨人が向いている視線の先にあるものに気がついて、ようやく理解できた。
奴が狙っているのは我が国の軍幕だ、そこを撃つつもりか。
テオは急いでバリアの一部を取り出し、砲撃から守るように軍幕の前に設置した。
その直後にβはエネルギーを溜め終え、小規模のカタストロフィを発射した。
エネルギー泡が軍幕前に貼ったバリアに直撃した。
近くにいた兵士達は、バリアに守られてるとはいえ、体が吹き飛ばされかけるほどの衝撃を喰らう。
だがこれで巨人の猛攻は止まらなかった。
このタイミングで、両掌に貯めていたエネルギー弾をそのまま放ってきた。
記録で見たものでは、一度空中でエネルギーを分散させて部隊を全滅させていたが、それを直接だ…
タアァン
バリアが攻撃を防いだ、だが信じられない威力だ、
確かに衝撃は防げているはずなのに、バリアごと体が吹き飛ばされそうになっている…
グゴゴゴ
そんな中、巨人が更に動き出した。
なんだ?今度は何をする気なんだ…
その瞬間、巨人の右腕が黒く螺旋状に渦巻いた、見た事もない銃に変化した。
その螺旋が赤く光りながら回転し、そこからエネルギー泡が発射された。
「!?」
テオはすぐに残っているバリアを前に移動し、それを防いだが、僅かにはみ出て腕に怪我をした。
「っ、」
その後も衝撃を耐え続け、ようやくバリアが全攻撃を受け止め切った。
「はぁはぁ」
軍幕の方もひとまず落ち着いたようで、テオはバリアを元に戻した。
だが、今のでかなり魔力を消費してしまった。
バリアの弱点の中に、生きている間常に魔力を消費し続けるというものがある。
バリアは一生死ぬまで消えないが、バリアが発生している間は魔力が無くなっていくから、
そして、さっきみたいに防ぐ攻撃が重ければ重いほど、その分消費される魔力が多くなる。
まぁ体内の魔力が枯れて死ぬまでバリアの状態は変わらないから、弱体化するとかはないのだが…
「!!!」
この時、ふと気がつく事ができた。
これが奴の狙いだ。
奴の狙いは恐らく消耗戦、このまま同じ流れを続けて、最終的にテオの魔力を使い果たさせる気だろう…
それを防ぐために端末から魔力を回復させる注射針を取り出して使ったが、まだ魔力の使用感が残っている。
駄目だ、回復量が間に合っていない。
このまま続けると負けるのはテオだ…
向こうにそれだけの魔力があるのかという疑問もあるにはあるが、わざわざこんな動きをする辺り勝算はあるのだろう。
…これはこれで向こうの思う壺なのだろうが、仕方がない。
テオはバリアの総面積のほとんどを使い、巨大な直角三角形状の破片を作った。
それを見た巨人も、右手を超巨大なスナイパーに変化させ、テオへと照準を合わせ始めた。
「…この一撃で決める、必ずお前を倒す」
テオが奮い立つようにそう言った瞬間、巨人はスナイパーを発射した。
テオも同時に直角三角形を投げ飛ばして攻撃した。
最初に直角三角形が巨人へと突っ込んでいき、叫ぶような亀裂音と共に巨人の腹部を貫通した。
だが巨人が放ったエネルギー弾もテオに迫っている。
テオは残り少ないバリアで何とか攻撃を受け止めたが完全には防ぎきれず、頭が僅かに傷ついた。
そしてそのまま、エネルギーの衝撃に吹き飛ばされた。
腹部を破壊された巨人も、両足を地面に着け、間もなくして身体全体が爆発した。
戦いが収まり、ほんの僅かに戦場が静まり返った。
薄白い煙が漂い、視界が遮られている。
テオもまた、さっきのでほとんどの魔力を使い果たし、すぐに起き上がる事はできなかった。
だがそれでも、テオは前に進む。
腕だけで地面を這い、ゆっくり、少しずつ、あの巨人の元へ近づいていった。
今、近くにあの巨人の魔力も気配も感じない。
だが本当に倒せたのか、それは確実に確認しておくべきだ。
もし生きていたなら止めを刺さないと…今のこの場で、必ず。
煙の奥に、ようやく一つの人影が見えてきた、あれが巨人の中にいた人間だろう。
テオはもう一つ煙を超え、その人の様子を確認した。
「………!!!」
だがその姿に、テオは一瞬息をする事も忘れてしまった。
あの巨人の中にいたのは、蜜陀僧色のブレザーに、白い髪をした少女だった。
どこか空虚な眼をした、少女だった。
βとテオ、ここで初めて、顔を合わせて接触する
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