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70話 テオ

ソンが死んだ事により、計画の進捗にどの程度支障が生じているのかを聞いているのである。

静かに吹きつける風で髪を揺らしながら、スミス達の前に姿を見せたこの男性の名は、フレミング帝国最強の戦士、テオ。


彼女らはその存在にただ圧倒され、指先すらも動かせずにいた。


なんで、こんな所にテオが…いや、今はそんな事考えている余裕はない、


今考えるべきは、この状況をどう切り抜けるか…


スミスには通常、テオに遭遇した場合は真っ先に逃げろと教官から命令されている、例え持ち場を犠牲にする事になっても…


だけどちらつく、後ろに在る町と、そこで住んでいる人々の存在が…


「戦場で目が会った、それは戦う事を意味する運命(さだめ)だ…いくぞ」


テオは静かにそう言った、


くる、何かがくる、とにかくこれを防いで、どうにか逃げる方法を…


その瞬間、テオは薄く虹色に光る透明な何かを投げ飛ばしてきた。


それに対処しきれなかった1人の兵士が、それに心臓を貫かれ、即死した。


「!!!」


バシュ


それを見た全員が、誰も指示していないのにテオの周りを囲うように飛び回った。


反射的に、すぐに動かないと殺されると思ったから、


テオの背後に飛び回った兵士の1人が、テオの背中を見て先ほど殺された兵士の姿を想い、復讐心が湧いて出てしまった。


「貴様…よくもトーマスを!!!!」


兵士は端末からガトリングを取り出し、テオに向けて乱射した。


………だが、結果は無意味だった、弾丸は全て、テオに届く前に、テオのスキル、[バリア]によって阻まれた。


「っ、、、」


その直後、テオは何も言わずにその兵士を見つめながら、バリアを兵士のいる向きに集めた。


するとバリアが鋭く長い針のような形に変化し、それが兵士の首を一瞬でもぎ取った。


そのままテオはその針をゆっくりと時計回りに回転させた。


「!!!」


それに反射的に反応して、スミスはすぐに影の中に隠れたが、それが出来ない他の兵士と戦士達は全員、バリアの針に首を切り飛ばされて、死んだ。


5人分の首と血が、雨のように降りしきった。


影から出てきたスミスは、何もできずにその場で立ち尽くしている。


同時に、今、自分はみんなを見殺しにしたと、後悔の念に襲われた。


なぜ、誰にも言わず影の中に隠れられたのか、無意識だった…無意識にスミスは皆んなを見殺しにしてしまった。


勝てない…どうやってもこいつには勝てない…このままじゃ確実に殺される。


逃げなきゃ、どんな手を使ってでも逃げないと、この場を絶対生き延びる、


それが、皆んなを見殺しにしてしまった事へのせめてもの、償いになると信じて…


その為にあいつの弱点を考えないと、その隙を見てこの場から逃げる。


だけど駄目、隙がない、立っているだけなのにまるで高速で動いているような威圧感がする…


考えろ、あいつの弱点。


テオは、スキルのバリアであいつを囲むように常時、全方位に球体のバリアが自動的に貼られている。


その分常に魔力が消費されてるらしいけど、それはあいつが生まれた時からずっと、今さら対策できていないはずがない。


もう一つテオが脅威な所は、バリアの一部を投げ飛ばしてくるという事、


あらゆる攻撃を防ぐ硬度をもつバリアを投げ飛ばして攻撃されたら、その威力は人間なら即死級のものになる。


けどそれが弱点でもある、一度に出していられるバリアの面積は決まってる、それ以上にもそれ以下にもならない。


だからバリアを投げ飛ばしている間は、投げ飛ばした分だけバリアの面積が少なくなっているという事、つまりバリアに穴ができる。


そこを狙えばもしかしたら勝てるかもしれない……


「!!!」


この時、スミスは自覚した。


自分が今、どうすればテオから逃げられるかではなく、どうすればテオを倒せるかを考えているという事を…


そして確信した、自分の想いに…


そう、そうよね、私は逃げちゃいけない、ロムレスのためにも、見殺しにしてしまったみんなの為にも、最後まで足掻いてみせる。


スミスは左足を前に出し、地面を踏みしめながら鞘を構えた。


例え勝てなくても、ここで死ぬとしても、最期まで戦い抜いてやる!!!


「残りはお前だけだな、いくぞ」


テオは静かにそう言った後、バリアを小さな破片として取り出し、それをスミスへ投げ飛ばした。


「っ、、、」


スミスは足だけ影移動を発動し、高速で後方へ移動したが、バリアの飛んでくる速度には間に合わず、仕方なくすぐに鞘から剣を取り出して左手で剣を待ち、残った右手で鞘を持ちながら右手でバリアを防ごうとした。


結果鞘と右手を切られる事になったが、怯まずすぐに完全に影の中に入り込み、そのままテオの方へ突っ込んでいった。


「……」


投げ飛ばした破片がバリアへ戻ると、テオは続けて3つ、バリアの破片を投げ飛ばした。


だがスミスが影の中にいるので、これが当たる事はなかった。


「…なるほど」


「はあああああああ!!!」


「!!!」


テオが影移動の仕組みを理解したその刹那、スミスが影からもの凄い勢いで飛び出て、テオに剣を突き出した。


「アストラブレイドーーーー!!!!!!」


アストラブレイドを発動し、テオの胸を貫こうと剣を突き動かしている。


テオのバリアは、さっきスミスへの攻撃に3回破片を飛ばしたから、そこの部分に今バリアはない、


そして、その投げ飛ばされた破片はまだ戻ってきていない、後ろから高速でテオの元へ向かってる。


つまり、今なら殺れる、バリアが戻ってくる前に胸を貫けば…


「勝てる!!!」


バコン


スミスの刀が、閉じるように移動したバリアに圧迫され破壊された鈍い音が、戦場に虚しく響き渡った。


「そん…な」


確かに、スミスの狙った位置に、バリアはなかった。


だから、テオはその空いた部分を埋めるように、左右からバリアを動かしたのだ。


それで剣を挟み、破壊した。


「………」


スミスの表情は、無そのものだった、この世の全てが見えていないような目をしていた。


投げ飛ばしたバリアも、テオの元に戻る。


「終わりだ」


テオはバリアを細い針状に変化させ、スミスの腹部を貫いた。


その寸前に、テオは色々な事を想った。


家族の事、恋人の事、仲間の事、国の事…


その全てに対して想った事は一つだけ、


「ごめんなさい」



スミスが、鈍い音を立てて地面に倒れた。


辺りに転がるロムレス軍の死体を見て、テオはただ1人、こう呟いた。


「…よくやった、お前たちは最期まで、自分の護りたいもののために戦ったんだろう、そして死んだ。その勇姿を知る者は、この世で残念ながら俺しかいない…だからせめて讃えよう、お前たちの勇姿を、これが俺からの、せめてもの敬意だ」

圧倒的…


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