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66話 フレミング帝国

「1人で出しゃばって勝手に仲間なんて作るからだ〜」


アジエルもそれに続いた。

イヌダスでの会談から一夜明けた、フレミング帝国にある滑走路。


ここに、5体の、個室を脚に吊るしたバットウルフェンが着陸した。


その列の中の、前から2体目のバットウルフェンから出てきたのは、グリス国の総理大臣、ネトである。


今夜フレミング宮殿にて開かれる舞踏会に、5日前に軍事契約を締結した国家として、グリス国の政治の中心的人物が何人か招待されため、フレミングに来たのだ。


滑走路に足を踏み入れた瞬間、フレミングの案内役がやってきて、彼らを指定の位置まで案内しようとした。


総理達はその案内に従い、足を進めた、本来武道館には絶対に必要のない紙と決意を握りしめて…



午後5時頃、フレミング帝国の首都では、西に落ちていく溶けるような赤い夕陽が首都中を包み込むように輝いていた。


国民達も、舞踏会が開かれる事による一部移動規制には文句を言いつつも、国家同士での懇親を示す会が開かれるという事には誰もが関心を抱いる。


そんな街の中を、監視するように歩く者がいた。


蜜陀僧色のブレザーに黒のミニスカート、透き通るような白髪に見透かしたような紫色の瞳をした少女。


この近辺ではあまり見かけないこの少女が、全てを捉えるかのように、歩きながら辺りを見回している。


そんな彼女の眼に、ある光景が映った。


6歳くらいの男の子が、木の上に向かって「あー、俺の超快適ティッシュペーパー消臭機能付きeditionがーー」と叫ぶ光景だ。


それを見た少女は、何も言わずふわりと浮き上がるように飛び跳ね、そのまま枝と枝の間に引っかかっていたティシュペーパーを呆気なく抜き取って、ゆっくりと着地した。


少女は無言でティシュペーパーを少年に手渡す。


「す…スゲェー、今のどうやったんだ!」


「別に、大した事してない」


ティシュペーパーを木から取り出してくれた感謝以上に先程の少女の動きに魅入られた少年の純粋な心を、少女は突き返すような無表情で返した。


「姉ちゃん!名前なんていうんだ!?教えてくれよ!」


少年が少女へ抱いた感心が止まらない、完全に懐いたようだ。


「名前?β(ベータ)


風でたなびいた髪を月光で照らしながら、少女は静かにそう名乗った。



1時間後、フレミング宮殿にて、グリス国との舞踏会が開演した。


無数のシャンデリアで照らされた、広々とした直線の中で、男性はタキシードを、女性はドレスをそれぞれ身に纏い、皆が食事と会話を楽しんでいた。


その中に、一際目立つ存在もいた、黒のタキシードを身に纏いながらも、誰とも会話や食事をする事なく、ただその場に立っているだけの男性…テオ。


彼はペンタグラムの一角であるフレミング帝国の戦士の中で誰が一番強いかと尋ねた場合、誰もが彼に真っ先に指を刺す、正しく帝国最強の戦士といえる人物である。


そんな彼も招待されたこの舞踏会が、変わらず穏やかな笑い声で包まれている中、宮殿の奥からフランツ皇帝とネト大統領が出てきた。


2人がこの場にいる人間全員の前に立ち、先ずフランツの口から開会の挨拶が始まった。


「グリス共和国の皆様、本日はこの舞踏会にお集まりいただき、ありがとうございます。この舞踏会は我々フレミング帝国とグリス共和国との軍事契約を祝して開かれたものです。長年の交渉の末、グリス共和国とこうして軍事契約を果たせた事、フレミング帝国の皇帝としてとても素晴らしい事だと感じております」


フランツはその後一歩後ろへ下がり、入れ替わるようにネトが前へ出てきた。


「我々も、この軍事契約を祝してこのような場を設けさせていただけた事…深く感謝しております」


そう言ってネトは一度大きく頭を下げた後、満を辞したようにこう続けた。


「我々はずっと、ロムルスに虐げられておりました。先の見えない領土問題に日々頭を抱え、妥協案を探し続る日々…そんな時、フレミング帝国は我々に手を差し伸べてくれました。明らかに不当な領土問題に悩まされ続ける必要はないと、それに抗う為の力を我々に与えると、だから、私はこの決断をする事ができたのです」


ネトは力強く右腕を天井へ振り上げ、高らかに宣言した。


「我々グリス共和国は!大統領ネトの名の下に、ロムルス共和国に向け宣戦布告する!不当に繰り返された領土問題に、完全なる終止符を打つための!聖戦を!!!」


それを聞いたこの舞踏会に参加していた人にとって、この展開は予想の範囲内であったのか、誰一人驚いたり臆したりせず、全員がまるで崇拝するように拍手をして、グリス共和国を肯定した。


そしてこのネトの発言に続いて、フランツが応えた。


「わかりました。であればその戦い、軍事契約国として、我がフレミング帝国も参戦いたしましょう!」


またも全員が、今度は声も出してフランツを肯定した。


「それでは皆様、今この素晴らしい瞬間を噛み締めながら、楽しい夜を過ごそうではありませんか!」


フランツが最後に鼓舞するようにそう言った。


それを合図に本格的に舞踏会が始まり、紳士と淑女達による社交ダンスが淡い光を演習し始めた。


その様子を、どこからか侵入し、監視しているβ…


翌朝、ネトは正式にロムルス共和国に宣戦布告、こうして、グリス共和国とロムルス共和国との戦争が勃発した。

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