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65話 確執

それに対し「本当だ、間違いない」と返すアマリウド。

ナスカン王国から遠く離れた、大陸の極西に位置する国、イヌダス。


そこで大国、[サイン・コサイン・タンジェント連邦共和国]と、同じく大国である[フレミング帝国]とが、シュメルン共和国領土の跡地を巡っての会談が行われていた。


両国とも、経済、軍事力共に現代世界の命運を左右するとすら言われる、通称[ペンタグラム]、別名五大国とも呼ばれる国家の一つである。


横並びに配置されたテーブルに座り、両国の首脳同士が互いの意見をぶつけ合っている。


「シュメルン領土跡は我々の所有地であります!」落ち着きを見せながらも強く声を張ってそう言ったのは、サイン共和国の首長、アントニオ大統領だ。


「シュメルン共和国は我々が契約を交わしている軍事契約国と難民条約を結んでおり、これは軍事契約国と条約を結んだ国家はその所轄国とも条約を結ぶ[クライアントカンパニー条約]に則ると、シュメルン共和国は充分に我々の条約国であったといえます。ですので、シュメルン共和国の領土跡は我々に移行されることになります」


だがその主張を切り裂くように、フレミング帝国の首長、フランツ皇帝が反論した。


「シュメルン共和国は元々我が国から独立した国家であり、その領土を所有する者が消えた今その土地の領有権が我が国に返還されるのは当然の事でありましょう」


その後も、両国の首脳は主張をぶつけ合ったが、議題は何一つ進展しないままただ時間だけがすぎていった。


そのまま会談も終了し、アントニオとその護衛も、フランツとその護衛も、会談の場から消えていった。


誰もいなくなった会議室の扉が、断ち切られるように閉じていった。


アントニオ達がイヌダスを後にし、本国へ帰る為、移動用に改造され、脚の下に人が数人乗って暮らせる個室が吊るされた巨大なコウモリのようなモンスター、バットウルフェンに乗り込んだ。


アントニオ達を乗せたバットウルフェンは操縦士(ハンドラー)の命令でゆっくりと空高く飛び上がり、更にその前後に控えている護衛兼おとりを乗せたバットウルフェンも、同じタイミングで上空へ飛び上がった。


その間、アントニオは自身と唯一同じバットウルフェンに乗っている補佐官と、愚痴も交えた現状の整理と話し合いが行われた。


「どうするおつもりですか?大統領。今のままですとフランツ皇帝との会談は一向に進みを見せず、最悪戦争にという事も…」


補佐官が疑念と心配を混ぜた質問をアントニオへ投げかける。


「…そう、なるだろうな」それに対し、アントニオは恐ろしいほど呆気なくそう答えた。


「!?戦争になってもよろしいというのですか!?」


「落ち着け、私とて戦争は本意ではない、だが、シュメルン共和国跡の領有権を絶対に取られてはいけないというのも事実だ」


「あの国が、ナスカン王国と諸外国との防波堤となっていたから…ですね」


「そうだ、ナスカン王国が我が国と軍事同盟を結んだのはもう40年以上も前の事だが、あの当時はノア1人だけが頭ひとつ抜けているだけの一軍事契約国に過ぎなかった…だがここ5年の内に、あの国は急速に力をつけた、純粋に、並外れた才能を持つ若い戦士が急増したからだ。特にミア、あれは14歳という世界最年少の戦士であるにも関わらず、あのノアに迫る速度で尚も成長している、将来的には世界最強の戦士となるのではないかとみる者もいるほどだ、それに加えてノアも未だに健在…今やナスカン王国はペンタグラムにも匹敵する規模の軍事力を保有する国家となり、世界政治において決して無視できない存在となった…」


「そんなナスカン王国とシュメルン共和国は、距離こそやや離れ、その間に小国がいくつか聳えてはいるもののほぼ直前、且つかなり近い距離にある。もしフレミングにシュメルン跡を取られれば、奴らにナスカン王国を容易に攻め入る環境を与えてしまうという事になる….という事ですか」


「そうだ、軍事契約とは聞こえはいいが、要は金で雇っているだけの用心のようなものだからな。フレミングが我々以上の条件をナスカンに提示すれば、タンジェントに寝返る可能性は充分にある、そういうのは歴史を見ても珍しい話ではない、だがナスカンの場合はその意味が違う」


バットウルフェンが何の異常もなくただアントニオ達を乗せて空を飛んでいる。


風を切り、空に乗りながら進むバットウルフェン、その際に翼から生まれる穏やかで暖かい風は、窓からもすり抜けて感じられるほど心地よいものであるはずだった。


「……しかし、それだけの軍事力を持つナスカン王国と契約しているのは我が国です。どれだけシュメルン問題が長引いたとしても、フレミングがすぐに宣戦布告をしてくるという事は…」


「5日前、ノアが死んだ。この意味、君も分かっているだろう?」


「………」


淡い期待を交えて言った補佐官の言葉は、アントニオにすべて切り捨てられた。


「それにその翌日、フレミングは以前から動きのあったグリスと軍事契約を結んだ…これ以上の会話は不要だろう、それが全ての答えだ」


補佐官は何も言い返す事ができず、ただ現実を再認識する事しか出来なかった。


グリス国と、地理的にその正面に位置する国家ロムルスは、数十年前から外交上の理由で緊張状態が続いている。


だが軍事契約国でもあるグリス国は4日前にフレミングと軍事契約が成立され、もう一方のロムルス国はサイン国にとって端末の材料である[アレイメタル]の最大の輸入国であるのだ。


仮に両国が戦争となった場合、軍事同盟を理由にフレミングもロムルスに宣戦布告をする事になるだろう。


だがフレミングが参戦すればロムルスに勝ち目はなくなる、その結果ロムルスが侵略されるような事になればサインへの経済的な打撃は計り知れない。


それはナスカン王国を買収される事以上の脅威、なんとしてでも阻止しなければならない。


その為にはロムルスを戦略的に援助するしかない、だがそれは、事実上フレミングとの開戦を意味する、それがフレミングの狙いなのだろう。


いくらペンタグラムに匹敵するといえど、それでも全戦力の半分近くを担っていたノアが死んだ事でナスカン王国は現在大幅に弱体化している。


ミアがまだ成長途中である今なら、サインと同時に相手をしてもかつてほどの脅威ではないとフレミングは考えた。


そうしてサインに勝利したフレミングは、賠償請求としてシュメルン共和国領土跡を手に入れる、後は裏取引でナスカン王国を手中に納める…これがフレミングの目的であると考えられる。


「…今フレミングと戦争して、果たして我々は勝てるのでしょうか…」


「…どうだろうな、まだ()()が完成したとは言い切れない以上はなんとも言えない…だが、その時期が着実に迫ってきているのは確かだ」


狭い室内を、張り詰めた空気が支配した。


「やはり、戦争は避けられない…という事ですね」


「それが、大統領としての私の意見だ。それにあれも、今の段階で実戦投入が不可能というわけではない、最悪、時期を早める事も検討させる必要があるかもしれないな」


アントニオ達を乗せている個体も含めた3体のバットオルフェンは、もうすぐサイン共和国の首都に到着する。


その時の空は、特筆する事もない広々とした空だった。


だがアントニオには、個室の窓から見えた遠くの景色に、どこまでも暗い曇空が広がっていたような気がした。

一方その頃、フレミングでは…


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