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63話 アイラvsミア 5

左の柱にもたれかかっているのは、ゴルファングのマスクをした、上裸の細マッチョの青年、アマリウド。

「…これで、まだ生きてるの…」


ミアは確かにそう呟いた。


確かにアレス達には、衝撃で発生した煙と足跡のように地面に張りつく火だけしか見えていない。


僅かな魔力も感じない、一見すると死んだようにしか思えない…


だがミアには見えているのだろう、この状況からアイラが生きているという事実が。


仄かに燃え盛る地面を見下ろしながら、ミアはこう考えていた。


アイラは恐らく、ジャイアント・インパクトが完全に身体を押し潰す直前に全身を砂に変えてダメージを最小限に抑えた。


もしそれが正しければ、ジャイアント・インパクトをほぼ全て防いだアイラが、今もどこかでミアへ反撃する瞬間を見定めているという事になる…と


「はぁ…はぁ…」


ミアは流石に魔力を使いすぎたのか、やや荒く呼吸をしながら、地面を中心に、360度自身の魔力を張り巡らせてアイラの気配を探っている。


どこにアイラが潜んでいるのかを、冷静に、1寸も気を抜かず魔力を研ぎ澄ましている。


「…はぁ…はぁ」


だが少し時間が経過したくらいではアイラが現れる気配すら現れず、ただミアの荒くなった呼吸だけが木霊するように繰り返されるだけだった。


ミアは改めて目を鋭く光らせながら、自分の周りに火の玉を囲うように設置した。


これで四方八方どの位置からアイラが現れたとしても、理論の上では確実に返り討ちにできる状況である。


ゴクッ


この様子を見ていた国民の誰かが、場の緊迫に飲まれたか深く息を呑み込んだ。


その瞬間、ミアの真下の地面の中から飛び出るかのように、アイラが剣を向けながらミアの元へ這い上がっていった。


「!!!やっと出てきたの」


ミアはそれにすぐに気がつくと、身に纏っていた火の玉を一斉にアイラへ投げつけた。


目では追い切れないほどの速度で投げ飛ばされた火の玉はアイラでも避けきる事はできずに、全弾全て命中した。


だがその瞬間、アイラの身体がまるで蒸発したように忽然と消え、かと思えば、それより少し下の位置から繰り返すようにまたアイラが突っ込んできた。


「え?」


ミアが思わず声に出して驚いた頃には、既にアイラの剣が、ミアの首元に置かれていた。


「はい、これは流石に私の勝ちでしょ」


今アイラが少しでも手を動かせば、いつでもミアの首を斬り落とす事ができる状態だ。


ミアも含め、一瞬の戦況の変化に誰も理解が追いついておらず、ただただ唖然としていた。


「…無駄なの…首を斬ろうとしても肉体が炎に変化して無効化される」


「そう、なら()、試してみる?」


アイラの剣先がミアの首の皮膚と今にも触れ合いそうなほど近く迫っている。


この状況になってか、ミアは何かを悟ったように「何を…したの…」とアイラに質問した。


それに対し、アイラは一切表情を崩さずに、淡々と「そうね、確かに自分の炎で倒したと思ったら突然跡形もなく消えて、かと思ったらタイムラグのように少し離れた所からまた現れただなんて、理解が追いつかないわよね」と、挑発するように言った。


「簡単な事よ、今の私は本物の私じゃない、これは魔力で作り出した水の分身体、但し本体の8割の魔力を持ってるけどね」


「…どういう意味なの…」


「ふふ、いいわ、説明してあげる。まず、貴方のあのアビリティを頭部に直撃してすぐに、全身を砂に変化させて空気中に飛び散ってそれ以上の直撃を回避した。その後、しばらく砂になって様子を伺っていた私は、貴方の今の状態に気がついた」


「……魔力切れ…の事?」


「そう、というか貴方、この戦いが始まってから、ずっと身体を炎に変化させてたでしょ」


ミアは何も言い返せないようだ。


「最初から変だなとは思ってた。私が貴方を斬った後に私の方を振り向いてたって事は、私の攻撃速度に反応できていなかったという事。肉体を砂や炎に変化させるようなアビリティは消費する魔力量が多いから、節約のために攻撃される直前に発動させるのが普通…けどそれだと私の攻撃への反応が追いつかないから、仕方なく貴方は常時ファイアシチュエーションを発動していた、そうでないと最初に私がこの剣で攻撃した時点で勝負がついてしまうからね」


「………」


「けどそれは、戦闘中何もしていなくても少なくない量の魔力を常に消費し続けている事になる。だけど私の移動速度を考慮すると一瞬でもファイアシチュエーションを解除する事が許されなかった…実際、そのおかげで私は貴方に傷一つつけられずにいた」


「………」


「とはいえ、常に多くの魔力を消費する事は色々とリスクも大きい、気づかれて長期戦に持ち込まれたらその時点で終わりだしね、私は今そんな事しないけど…とにかく、だから貴方は魔力が尽きる前に私を倒そうと考えた。即ち短期決戦…さっき畳みかけるように特位アビリティを連続して使ってきたのもそのため、自分に出せる全てを出し切ろうとしたのでしょ?だけどそれでも仕留めきれなかった、それどころか特位アビリティの連続使用で常時ファイアシチュエーションを発動していられるだけの魔力も無くなった…」


「………」


ミアは無意識に視線を下にむけ、反射的に、前髪で自分の眼を隠した。


「だからわざわざ自分の周りを火の玉で囲ったんでしょ?シチュエーションが使えるならそれで私の攻撃防げばいいだけだからね。それが分かった私は、肉体を砂に変化させながら、自分の魔力の9割を使った水の分身体を作った。それが今の私、本体はまだ空気中で砂になって漂ってる、それはいいとして、この私が頃合いを見て地面から飛び上がった瞬間に、貴方は私を即座に撃墜しようと火の玉を投げてきた、シチュエーションが使えない以上、何としても自分に近づかせるわけにはいかないから…当たり前だけどそれくらいは想定内。私はそれが当たる直前にオリジナルの力の8割に相当するだけの魔力を持つ水の分身体をもう一体作り上げた、この意味、わかる?」


「……ミアがさっき消したのは、元の分身から更に分離したお前本来の1割の力しか持たない分身体…それを消した頃には8割の方の分身体が既に作られていて、ミアが1割を消したのと同時に火の玉を回避した8割が改めて突っ込んできた、そして、今に至る」


「正解」


ミアの声が、普段の遥か数倍はか細くなっていっている。


それは、日常的にミアの声を聞いているアレスにしてみれば衝撃しか感じられないほどの。


それに加えて変わらず荒い息遣いが続きながらも、首のすぐそばに迫らせているアイラの剣…


ミアはしばらく地面へ顔を俯かせた後、左手を小さく横に振った。


その瞬間、アイラのミアを隔離していたバーンフィールドが一瞬で消えてなくなった。


更に続けて、ミアはアイラにこう言った。


「ミアの…負けなの……」


その言葉を確かに聞き取ると、アイラは剣をミアの首から遠ざけ、再び空中に出現させた魔法陣の中に剣をしまって消した。


その時、アイラの脳内に〔レベルが90になりました。新たなアビリティ、[ビックバン・ボム]を会得します〕という声が響いた。


その後、2人は何も言わずに地面へゆっくりと降下していった。


それを見ていた野次達は、アレスも含め一言も声を発せられなかった。


サルのように興奮するのが正解なのか、それともただ黙ってどちらかを肯定するのが正解なのか…


どちらが正しいのか誰もわからなかったから、ただ黙るしかなかった。


地面へ互いに着地すると、両者の間に5秒程の沈黙が生まれた後、ミアがこう言った。


「…戦士に二言は無いの、約束通り、お前をおじいちゃんの代わりとして認めるの…」


それに対し、アイラはやや後退して両掌をミアに見せるように顔の前に置きながら「いや、別におじいちゃんの代わりになりたいなんて思ってないから」と言った、アイラからしてみれば至極当然の返答である。


「でも、認めるのは認めるの、お前は1人のナスカン人なの」


ミアは少し視線を遠ざけながら言った。


「…そう、まぁ、許してもらえたならよかったわ」


ただ一言、アイラは笑顔でそう答えた



そして、この戦いの全てを王室から見ていたプライム国王は、ようやくある1つの事を確信できた。


アイラと軍事契約を交わした自分の判断は正しかったと。


これまで不安因子でしかなかったものが、最大の安らぎに変わる瞬間、王はまだ自覚してはいなかったが、それに気づくのに後1時間もかからなかった。


アイラの活躍を讃える為に行った祭りの直後に起こった、アイラとミアの戦い…


この戦いが、ナスカン王国に住むもの全員に、アイラという存在を、改めて強く印象づける結果となった事は間違いない。


未だに少なからず存在していたアイラ入籍への反対派も、実際にアイラが戦う姿をみて、どこか、彼女の心の底が見え隠れし、そこに敵意はないと理解する事ができたと思う。


もしそうだとすれば、ミアのした事は今後のナスカンにとっては必要な事だったのではないか…


まさかミアはそれを狙って…いや、それは絶対ないか。


アレスはふと、そんなあり得ない想像さえもしてしまった。

結果的に、ナスカン王国にとっては良い方向にに向かったのではないでしょうか?


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