62話 アイラvsミア 4
奥に見えるのは、瞳を隠すように顔面にマスクをしているメイド服の少女、イレーネ
「さて、そろそろ本気を出すの」
そう言うとミアは、手のひらに小さな火の玉を作り出した。
それ自体は大したことのないただの火の玉ではあったが、その火の玉の上に更に重ねるようにして、どんどん火の玉を大きくしていった。
そこから更に火の玉を重ねて大きくさせ、そこへ更に火の玉を重ねる、これを繰り返し、ミアは巨大な火の玉を作り上げた。
「終わらせてあげるの」
それをアイラ目掛けて投げ飛ばした。
「…」
隕石のように迫り来る巨大な火の玉に対して、身体を全て砂に変化させて風に乗り、火の玉の射程距離から大きく離れて攻撃を避けた。
そのせいで火の玉が地面に直撃し、それが破裂して悍ましいほど巨大な火柱が空へ昇り上がった。
その、花火のような赤い光景に、アレスも含め皆が思わず見惚れてしまっている…
その後ろで、アイラがサンダーブレードを発動させた上で砂から元の身体に戻り、音速のようなスピードでミアへと迫っていった。
だがミアもすぐにそれに気がついた。
(なるほど、確かに電気は帯電して炎でも防ぎきれないかもしれないの…けど)
ミアはサンダーブレードへ右手をかざした。
その瞬間、アイラの手に持つ剣先が、突然割れるような音と共に爆発した。
(なんで!?今なにをされた!?)
よく見ると電気を付与させた刃先だけが爆発している…
という事は電気が爆発した?だとすれば…と、あれこれ分析している余裕はないという事に、何故すぐにそう理解できなかったのか。
身体を炎に変化させているミアが、アイラの元へ突進してきていた
ミアの身体をすり抜けるように炎が通過され、その火がアイラの身体中に引火した。
「っ、アッツ!」
燃え移った火が身体全体に広がっていく。
火傷をする前に、アイラは急いで[ヒールリンク]という回復アビリティを発動して全身の火を消化した。
「はぁはぁ」
「まだ終わりじゃないの!!!」
ヒールリンクを発動し、魔力の消費から疲労が蓄積し始めたアイラへ、更なる追い討ちをかけるミア。
左手を天へとかざし、そこに魔力を込めている。
「[メラ・トライデント]」
その瞬間、空から巨大な赤い3本の槍が降ってきて、地鳴りのような音を立てながら地面に突き刺さった。
その後、槍達が全て巨大な火柱へと変化し、それら全てが寄りかかるようにアイラへと捻れた。
常に注意深く火柱を観察していたが故に逆にこれを避ける事ができず、火柱の先の炎がアイラに降りかかった。
「ああ…んぐ、、、」
アイラは蒸し上がるような炎に包まされながら、ヒールリンクを発動し続けていた。
全身に振り浴びる炎による火傷と、皮膚へのダメージを抑えるためだ。
だが、炎が少しでも進行しないよう、全身でヒールリンクを使うために大量の魔力を消費している状態であるため、アイラ本人の疲労具合は想像を超えるものだろう。
ようやく火柱が消え、中から何かが沸騰したような蒸気を纏ったアイラが出てきた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
魂が少し吸い取られたような乾いた息をしながらも、ミアに「どう?防ぎ切ったわよ」と煽るように挑発するアイラ。
ドスッ
その時突然、アイラの顔面に鋭い衝撃が走った。
アイラの顔を押し潰すように、巨大な隕石が降ってきたからだ。
当然のように、ミアは何も驚いていない。
だがその意味を理解する暇すらなく、隕石はアイラの存在に構わず地面に墜落し、そこからバーンフィールドを貫通するほどの、吹き荒ぶような爆風が地面を走った。
アレス達はその爆風に飛ばされないよう必死に地面に足を踏みとどめ、風に圧迫されながらも前を見ようとしていた。
アレスだけではない、今の攻撃の結果に、全員が注目している。
今ミアが放ったアビリティは、かつてノア様ですら防げなかったもの…
全神斬が王国最強のアビリティならば、あれは究極のアビリティ、
昔、ミアが飛び級で戦士になってすぐの頃、今度こそは勝てるかもと何度もノア様に勝負を挑んでいた。
結果はほぼ全てノア様の勝ちではあったが、その中で唯一ミアが勝った試合がある。
その時に、ミアはさっきのアビリティを使って勝利していた。
いつものように、ノア様がぎりぎりまでミアを追い詰め、今回もノア様の勝ちという時、
ミアが最後の切り札として発動したそのアビリティに、ノア様は成す術が何もなかったという。
一瞬の判断で戦局がひっくり返る戦いの中で、あらゆる手段を模索したが、それでも何も出来なかったようだ。
結果、ノア様はアビリティが直撃する寸前に降参を認めた。
これが、ミアが初めてノア様に勝った勝負であり、最後に勝った勝負でもあった。
確かにたった一勝だけでは、ミアがノア様を超えたとは言い難い…
実際、総魔力量ではノア様に劣っているとミア自身が言っていた。
だが最後に行った勝負で、その当時覚えたてのアビリティでミアが勝利したという事は…
それにあの戦いから2ヶ月も経っている、2ヶ月もすれば、ミアは誰よりも早い速度で成長する…
もしかすると今のミアは………
それほどの威力を持つあのアビリティの名は、
「[ジャイアント・インパクト]、アイラ、これで終わりなの」
ミアが放ったその一言が、真夜中の噴水広場で静かに反響した。
本編には関係のない話ですが、今回文字数が丁度2222文字
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