60話 アイラvsミア 2
それは、四天王ヒュドラに使える、3体の幹部の悪魔である。
「…なるほど、相性不利…」
アイラは少し戸惑った様子を見せながら、ミアを見た。
「ミアだって馬鹿じゃないの、お前がミアより遥かに強いって事はわかってる。けどそれでも勝てる算段がある、だからお前と戦っている」
透けるようにぼかしてはいるが、これは実質的な勝利宣告に等しい発言である。
砂に姿を変えて相手の攻撃を無効化し、流れるように近づくというアイラが最も得意とする戦法が、確かに封じられた。
これだけで、戦士の力の半分は失われたと言っていい。
それは、熟練の戦士であればあるほど影響して出てくる。
戦法やアビリティを駆使された結果ではなく、相手の根本的なスキルによっこの状況がて引き起こされる…これを相性不利というのだ。
スキルが原因なら、相手がなにをどうしようとアイラにはこの問題が付き纏う、つまり対策のしようがない。
恐らくミアは、アイラにとって考え得る限り最悪の天敵、絶望的に相性が悪い。
「さて、戦いを続行するの、お前が負ける戦いを!」
ミアは声を張ってそう言いながら、左手を銃に見立てたような形をとらせた。
すると手の先から炎で出来た弓のようなものが出現した。
その弓を矢があるように見立てて弦を引き絞ると、その弓から突如炎の矢が出現し、それをアイラ目掛けて射抜いた。
アイラはそれを高速で動いて当然のように避け、その勢いを殺すことなくミアに近づいていった。
ミアは走り迫ってくるアイラに、小規模の火の玉を連続して投げた。
だがこれも走りながら全て避けられ、最後に放った火炎放射も剣で薙ぎ払ってミアの体を再び斬りつけられた。
だが結果はさっきと同じ、ミアの身体が炎に変化して無効化される。
(やっぱり今のも対応してくる…けど魔力に変動を感じなかった…だとすれば)
潜り込むように分析しながら、アイラはミアを飛び越えるように跳ね上がってミアから離れた真後ろに着地した。
その後、三度剣を突きつける、ミアは振り向いて、そんなアイラを見ながら、溢したようにこう呟いた。
「フェニックス」
するとミアの背後に、「ピキャーーーーー」と鳴き声を上げながら、全身を炎で包んだ巨大な鳥が出現した。
もちろん本物の生き物じゃない、恐らくは魔力で作り上げた擬似的な生物…
だがフェニックスという名…それにバーンフィールドの外から見ていた住民たちは皆息を呑んでいた。
フェニックスというのは、古代に生息していたとされる伝説上のモンスター、全身に炎を纏った鳥のような姿をしていた不死のモンスターであったとされ、見た目の類似と、擬似的な生物を作るという効果も相まってこのアビリティはそう呼ばれている。
擬似的な生物という事もあり、あの鳥には意思が宿っている。
だが明確な意思ではなく、アビリティの発動者…今の場合ミアが事前に設定した命令に沿って行動するという人工知能程度の意思である。
「…やれ」
「チョアーーーーーーー」
ミアに命令され、フェニックスは一旦上空へ飛び上がった後アイラの元へと急下降してきた。
「ちっ、」
アイラは黒い翼を展開して同じく上空へ飛び上がり、バーンフィールドを描くように飛び回ってフェニックスを撹乱させようとした。
だがフェニックスは構う事なくアイラを追跡してきている。
ミアは何もせず、その様子をただ観察していた。
さて、どうするかな…この鳥をどう処理しようか。
フェニックスが全身の炎の一部を消費して吐いた炎を避け、[ツインケイン]という両手の爪からケインを発射するアビリティでフェニックスの翼を撃ったがあまり効果がなかった。
構わずフェニックスがアイラに迫っていく。
なるほど、けど僅かに効果があるという事は、物理的に破壊する事は可能と…
フェニックスは見た目のインパクトもあってかこの世界では有名なアビリティのようだけど、実際に対峙するのは初めてだからね。
けど、恐らくこれで壊せる。
アイラは剣にブラストアクアの塗りたくるように付与し、その剣で向かってきたフェニックスを逆に斬り伏せた。
「……-」
これを喰らったフェニックスは、断末魔ひとつ発する事なく萎むように消えていった。
アイラはそのまま、剣にブラストアクアを付与させたままミアへ突っ込んでいき、ミアの身体を斬ろうとした。
全身を炎に変えているなら、さっきと同じように水を使ってそれを消火すればいいと考えたからだ。
ジュワ
「!?」
だが結果は最悪だった、剣がアイラの身体に触れた瞬間、剣に潜ませておいたブラストアクアが溶けるように蒸発していった。
アイラはすぐにミアから距離を置いた地面に着地する。
「…なるほど、身体もさっきのバーストヒートと同等の温度をしてるわけだ」
更にアイラが追い詰められていく…